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午前0時。
玄関ホールは冷えるからと、みんなでリビングに移動した。悠人が別の部屋で早瀬さんに電話をかけて、さっきまでの話をしているところだ。黒崎が久弥に連絡を入れて、今夜は理久を泊まらせることを伝えて、今も話を続けている。枝川さんは寝られないだろう。このまま一緒にリビングで過ごす。
ココアとほうじ茶の香りを室内に漂わせて、できるだけ理久たちがくつろげるようにした。理久も枝川さんも珈琲しか飲まないというから、あえて別の飲み物にした。今の場所から抜け出せるように。ほんのわずかな気晴らしになるだろう。俺にできる精いっぱいのことだ。
カタ……。
消毒液の匂いが広がった。理久の指先の傷を消毒して、ぐるぐると絆創膏を巻きつけた。こんなところで自分の経験が役立った。
「夏樹君。ありがとう。慣れているんだね。料理をするときに切るの?」
「前はやっていたよ。このままだと治らないよ。もうやっちゃいけないよ」
「うん。無理をしていたんだ。ここまで傷をつけるまで練習しないといけないって」
「久弥がそうだったの?」
理久が首を振った。答えは分からない。YESなのかNOなのか。どっちもいい。ここで気づいたのなら。傍から見ていた自分の勝手な思いだろうか?どんなアドバイスができるのか?やっぱり目に見えている傷の手当てしかない。
「朝になったら痛みが起こると思うよ」
「もう痛みを感じているよ。嬉しい……」
「そっか。……こんなことを聞いてみたい。どうして俺にたくさん喋ってくれるの?俺はギターを弾かないよ」
「意地悪なことを言うんだね。自虐?」
「違うよ~。意味があることだと思ったから」
「……優しい声だから聴きたかったんだ」
「なるほど。のんびりしよう。みんなが戻って来るまでは」
カタ……。
ドアが開いたから振り向くと、二葉がカステラを乗ったトレーを持って立っていた。青いレンズを外して、元からの黒い瞳に戻っていた。それなのに、不思議なことに、動画で観た静久さんの面影がある。理久が動揺せずに笑みを浮かべて、美味しそうな匂いだねと呟いた。
(落ち着いた子だ。元気いっぱいになる。駄々っ子になるときもある。それが理久だよ……)
二葉が藤沢に連絡を取ったそうだ。ドイツから帰国した後、さらに藤沢と仲が良くなった。一貴さんが何を言おうが動じない共通点がある。この時間だが、一貴さんのために来てもらえることになった。スピーカーの向こうで苦笑していたそうだ。その一貴さんは部屋に籠って悔いている。そういう時間が必要だ。弱いとは思っていない。ここにいる全員が。
「あと30分もかからないよ。タクシーをすっ飛ばして来るって。ちょうど二次会の帰りだった」
「先に門を開けないとね。理久の手当てが済んだよ。冷蔵庫にも差し入れを入れてあるよ?」
「あとで食べる。朝ご飯になるだろうなー。りくー、放心状態だな?」
二葉の言うとおりだ。理久が放心状態になった。そっと見つめていると、いきなり我に返ったかのように顔を上げて、抱きついてきた。そして、ごめんなさいと謝られた。
「どうしたの?」
「軽々しいことを言ったからだよ。夏樹君だって戦っている。そのうえで選んだのに。デビューする前に、心臓が停まったことがあったね。その時に……」
理久から教えてもらった話に、何かが胸の奥でストンと落ちた。俺がまだ病室のベッドで目を覚ましていない間、久弥と理久がお見舞いに来てくれた。その間に、理久はたった一度の自傷行為を悔いたそうだ。たまたま指先をコップで切っただけではある。その後は人が変わったように、発明以外のことでも積極的になり、如月に本気で立ち向かっていく子になった。まさかそれがきっかけだとは思わなかった。
「俺は好きだからステージに立っているんだよ?心配をかけまくっているけど」
「でも、軽々しいことを言ったのは違いないよ。あの時に分かったつもりでいたんだ」
「俺も同じだよ。いけないことを繰り返しているもん。進歩がないよ~……」
本当に同じだ。バランスを取っていかないといけない。それが難しくて、一歩戻って進んでいるという繰り返しだ。それを囁きかけると、頷いてもらえた。
玄関ホールは冷えるからと、みんなでリビングに移動した。悠人が別の部屋で早瀬さんに電話をかけて、さっきまでの話をしているところだ。黒崎が久弥に連絡を入れて、今夜は理久を泊まらせることを伝えて、今も話を続けている。枝川さんは寝られないだろう。このまま一緒にリビングで過ごす。
ココアとほうじ茶の香りを室内に漂わせて、できるだけ理久たちがくつろげるようにした。理久も枝川さんも珈琲しか飲まないというから、あえて別の飲み物にした。今の場所から抜け出せるように。ほんのわずかな気晴らしになるだろう。俺にできる精いっぱいのことだ。
カタ……。
消毒液の匂いが広がった。理久の指先の傷を消毒して、ぐるぐると絆創膏を巻きつけた。こんなところで自分の経験が役立った。
「夏樹君。ありがとう。慣れているんだね。料理をするときに切るの?」
「前はやっていたよ。このままだと治らないよ。もうやっちゃいけないよ」
「うん。無理をしていたんだ。ここまで傷をつけるまで練習しないといけないって」
「久弥がそうだったの?」
理久が首を振った。答えは分からない。YESなのかNOなのか。どっちもいい。ここで気づいたのなら。傍から見ていた自分の勝手な思いだろうか?どんなアドバイスができるのか?やっぱり目に見えている傷の手当てしかない。
「朝になったら痛みが起こると思うよ」
「もう痛みを感じているよ。嬉しい……」
「そっか。……こんなことを聞いてみたい。どうして俺にたくさん喋ってくれるの?俺はギターを弾かないよ」
「意地悪なことを言うんだね。自虐?」
「違うよ~。意味があることだと思ったから」
「……優しい声だから聴きたかったんだ」
「なるほど。のんびりしよう。みんなが戻って来るまでは」
カタ……。
ドアが開いたから振り向くと、二葉がカステラを乗ったトレーを持って立っていた。青いレンズを外して、元からの黒い瞳に戻っていた。それなのに、不思議なことに、動画で観た静久さんの面影がある。理久が動揺せずに笑みを浮かべて、美味しそうな匂いだねと呟いた。
(落ち着いた子だ。元気いっぱいになる。駄々っ子になるときもある。それが理久だよ……)
二葉が藤沢に連絡を取ったそうだ。ドイツから帰国した後、さらに藤沢と仲が良くなった。一貴さんが何を言おうが動じない共通点がある。この時間だが、一貴さんのために来てもらえることになった。スピーカーの向こうで苦笑していたそうだ。その一貴さんは部屋に籠って悔いている。そういう時間が必要だ。弱いとは思っていない。ここにいる全員が。
「あと30分もかからないよ。タクシーをすっ飛ばして来るって。ちょうど二次会の帰りだった」
「先に門を開けないとね。理久の手当てが済んだよ。冷蔵庫にも差し入れを入れてあるよ?」
「あとで食べる。朝ご飯になるだろうなー。りくー、放心状態だな?」
二葉の言うとおりだ。理久が放心状態になった。そっと見つめていると、いきなり我に返ったかのように顔を上げて、抱きついてきた。そして、ごめんなさいと謝られた。
「どうしたの?」
「軽々しいことを言ったからだよ。夏樹君だって戦っている。そのうえで選んだのに。デビューする前に、心臓が停まったことがあったね。その時に……」
理久から教えてもらった話に、何かが胸の奥でストンと落ちた。俺がまだ病室のベッドで目を覚ましていない間、久弥と理久がお見舞いに来てくれた。その間に、理久はたった一度の自傷行為を悔いたそうだ。たまたま指先をコップで切っただけではある。その後は人が変わったように、発明以外のことでも積極的になり、如月に本気で立ち向かっていく子になった。まさかそれがきっかけだとは思わなかった。
「俺は好きだからステージに立っているんだよ?心配をかけまくっているけど」
「でも、軽々しいことを言ったのは違いないよ。あの時に分かったつもりでいたんだ」
「俺も同じだよ。いけないことを繰り返しているもん。進歩がないよ~……」
本当に同じだ。バランスを取っていかないといけない。それが難しくて、一歩戻って進んでいるという繰り返しだ。それを囁きかけると、頷いてもらえた。
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