上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

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27-1 二度目のお別れ

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 10月1日、火曜日。午前1時。

 寝室のベッドで目を覚ました。そっと寝返りを打つと、黒崎の姿がなかった。ドイツに出かけることが黒崎製菓内にて正式決定して、向こうの関係者との会食の段取りが、急ピッチで進められている。さらに忙しくなった。

「書斎にいるのか~。様子を見に行こうっと……」

 寝室の窓から明かりが差し込んできた。セキュリティーライトが、ランダムに光を差す方向を変えるシステムにしたからだ。けっこう強めの光だ。すでに慣れているから何とも思わない。しかし、だんだんと対策が強くなっていくのは不安がある。

 先々月のイベントにて、スカイレールレコードに喧嘩を売った。仕事上で弓矢が返されるはずだ。それは覚悟している。それ以外には心配することがない。

 TDDのファンの人達が、大学の学食に遊びに来ることがあるが、ごく普通の大学生の男を前にして悲鳴は上がらない。和気あいあいと話している。

 こんな嬉しいことがあった。シャルロットキッチン2号店で声をかけられることが増えた。先月、お客さんの高校生グループから声をかけられた時のことを思い出した。トマトとベーコンのオーブン焼き・ネギソースというメニューに、”歌手の黒崎夏樹のお気に入り”というシールが貼られた頃のことだ。

(……お気に入りだけあって美味しいよ。もしかして、ナツキさんが作ったとか?)
(そうだよ。仕事の契約があるからね。考案したとは出せないんだ)
(俺たちに喋ってもいいの?)
(構わないよ。また食べてね)
(うん!……IKUのイベントの配信を観たよ。あにきー、抱いて!って言われていたよねー?)
(あれはびっくりしたよ~。女の人の悲鳴は、羽音さんに向けたやつだよ)
(かっこいいもんねーー)

 その後は握手して別れた。ばいばいと手を振り合って。その中の一人が、バイト募集に申し込んで採用された。今月会えるだろう。

 ガーーーー。

 セキュリティーシステムが切り替わる音がした。こういう状況に入ったのは、お義父さんのことがメインの理由だ。会長と社長職を引退した後、恨みを向けてくる人が出てきた。黒崎製菓で長年トップとしてかじ取りをしていた以上、綺麗ごとばかりでは進めない。ある決定の結果として、関連の人の仕事が上手くいかなくなったことがある。この話を黒崎から教わった。そして、一貴さんがセキュリティー対策になっていることも。

「うーーーん。一貴さんもいるから良かった。すごい人なんだな」

 今さらながら、プラセルの島川社長が業界内で嫌がられた度合いを知った。愛嬌のある姿は社内のみだ。そして、他でもフレンドリーな振る舞いを始めた結果、本当に危ない人だと認識されてしまったわけだ。

 先月頭に出た雑誌にて、一貴さんが、お義父さんと同じ屋根の下で暮らしている話が掲載された。これでセキュリティーの効果が出た。

 伊吹が会食の場で口を滑らせたのがキッカケだと思ったが、実は黒崎の手法によるものだった。先を見通す力には驚かされている。本人は偶然のいい流れだと言っているが。

「一貴さんには注文をつけたなあ……」

 TDD最後のシングル曲”再開”の封入特典に、雫型のチャームを入れることが決定した。それまでの間は話し合いを重ねていた。クオリティーの低いものなら付けない方がいい。がっかりするのは嫌だ。でも、予算が足りない。これがビジネスの兼ね合いだ。黒崎製菓側はタッチしない決まりだ。

 そこへ、一貴さんから声がかかった。久弥デザインのバンダナと、雫のチャーム制作を、プラセルにて一手に引き受けたいという話だ。材料の仕入ルートを考えて、クオリティーのバランスのとれた品物にする。提供元のプラセルの名前が入らなくて構わないのだと。そうはいかない。

 しかし、TDDの衣装提供をさせてもらったおかげで、評判が落ちまくった会社の好感度が上がった恩返しだとまで言われた。そこで、IKUとTDD側にて、この話を有難く受けた。
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