上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

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 ギシ……。

 寝室のドアを開くと、書斎から明かりが漏れていた。夜中はぐっと気温が下がる。ほうじ茶と何を組み合わせようか?そう思い浮かべて書斎の前を通った時、ドアが開かれた。

「……夏樹。寝付けなかったのか?」
「さっき目が覚めたよ。熟睡していたよ」
「外の明かりか?正直に言ってくれ」
「それはないよ。あんたが珍しいことをするからだよ~。寝かしつけなんて。うひゃひゃ」
「疲れている。お前の方だ。一緒に行く」
「あんたは書斎に居てよ。お茶を用意するだけ。はいはい」

 黒崎の過保護行動の再開だ。今月17日から23日までの1週間の留守の間に、俺が体調を崩さないようにと気遣ってくれている。

 階段を下りた先のステンドグラスが、天井からの優しい灯りに反射していた。黒崎が留守の間、毎日磨こうと決めた。

「ステンドグラスを増やそうか?一緒に店に行こう。サプライズにしたくない」
「これが気に入っているんだ。1か所にあるから主役だもん」
「他に欲しいものはないのか?質問を変える。スープジャーを買ってやる。見ていただろう?」
「うん。それは嬉しいよ。新しいレシピ本を見つけて、欲しくなっていたよ。前の晩に煮込んだ材料を入れて、朝はだし汁を注ぎ入れる。お昼ごろには出来上がり。カボチャシチューにもピッタリだよ。煮くずれ方が、ちょうどよさそうなレシピで……」

 そうか。短い相槌が返ってきた。さっそくお互いの弁当を作りたい。やっぱりシチューがいいだろう。牛乳の大量消費にできる。それを口にすると、さすがに嫌がるそぶりを見せた。俺も飽きてきたのが正直なところだ。

「そろそろ別のものが食べたいだろう?」
「うん。あと一息だよ。えーーっとね、2本残っているよ」
「まだそんなにあるのか。ご近所さんに飲んでもらったらそうだ?」
「それはだめだだめだーー。一貴さんの意地がかかっているんだ。2本だよ?そんなにないじゃん~」
「嫌がっているくせに」
「それはそれだよ~。んん?キスで機嫌を取るなって……」

 階段を下りた直後、強引に抱き寄せられた。鼻先が首筋の温かさに触れてドキドキした。何度も抱き直すようにして両腕が巻きつき、こめかみへのキスも繰り返された。部屋の中がいい。

「こらこら。お互いに冷えるじゃん」
「寝室なら構わないのか?このまま上がりたい」
「ううん。お茶を飲もうね。その後だよ。ええ?引きずるなよーー」
「早く来い。冷える」
「あんたが抱き着いてきたんだよ!?」

 黒崎がさっさと歩き出した。俺のことを抱いたままで。おかしいやら呆れたやらで笑い声がもれた。黒崎も笑っているようだ。書斎でアンが寝たままだから急ごう。そういう口実を使われるとNOと言えない。

 カチャ……。

 お茶とお饅頭を持って書斎に戻った。あっという間にキッチンに到着して、ほうじ茶を淹れている間も、黒崎がそばに立っていた。口数が少ないのに喋っていた。

 彼の気持ちが不安定になっているのか?その答えはNOだ。先週、俺の方が微熱を出したことが理由だ。何か周りで変わったことが起きて、自分自身の心が揺れ動いたら熱を出している。自分に影響がないことでも。

 今日の夕方、黒崎がママと二人で会って話をする。向こうも話の内容が分かっているようで、会う約束した後、二葉に連絡を取ってきた。朝陽には一本も入らなかった。ママの携帯番号を着信拒否設定にしていない。黒崎が今後のことを考えて決めた。

「はいはい。お饅頭は商店街の新製品だよ。木曜日に厚焼き玉子サンドを買いに行きたい。からしマヨ付きの」
「予約してある。大学に持って行くんだろう?金曜日に」
「よく分かったね?日下の話をしたからだね。黒崎ファーマシー社の内定祝い」
「ああ。森本君も、ワタベさんに決まってよかった。さあ、全部食べろ」

 強引に膝に座らされた。逃げられない。この時間には食べたくないし、また歯を磨きに行かないといけないのに。しかたなく食べ始めると、黒崎がホッとしたような顔で見つめてきた。この表情に弱いと実感した。
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