上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

文字の大きさ
482 / 514

27-22

しおりを挟む
 二葉が履いているのは、エスニック系の飾りのついた、サンダルのようなものだ。もう10月の夜なのに、本人は全く寒くないと言っている。あの靴で走り回ることも凄いし、地団駄を踏んで、軽々とジャンプもやっている。

 黒っぽい生地に青系の柄の入ったズボン姿だから、この広い庭で歩いていても、二階の窓からなら見つけられる。実際に発見したことがある。久弥のような赤い髪をしていなくても。その姿を黒崎がまぶしそうに見つめている。

「すごく目立っているよ!」
「そうだな。恐れなくなった」
「あんたが頓着しなさすぎだよ」

 二葉は目立つことを恐れていた。ママのモデルスクールからデビューさせようと勝手に話が進められた結果、最初に入学した高校の中で目立ってしまった。二葉は人間関係を作るのが苦手で、悪い方に流れてしまったそうだ。開明高校なら人に干渉しないのだが、環境によってはそうではない。根も葉もない噂を囁かれて、嫌な思いをした話を知った。

 その学校を一年生の時に中退して、実家に戻って地元の高校に入り直した。それでも、ママは二葉にモデル活動をさせることを諦めていなかった。俺を助けるために骨折した時は、無理やりにテレビ局関係者に紹介される直前のタイミングだった。その上での怪我だったから、ママが嫌な目を向けてきたことで、二葉の心の傷の一つになった。

 ダンダン……ダンダン……

 何度もボールが地面を跳ねて、それを奪い合っている二人のことを眺めた。噴水の明かりがきらめいたら、2人の額から流れる汗まで輝いた。

  すぐに2人が起き上がったから、ほんの一瞬だけしか見えなかった。俺達に見つかったから照れ臭そうにしている。その時、二葉がボールを取りそこなってしまった。突き指だろうか?

「いててて……」
「おーーい。突き指したのか?」
「これは平気、いてて」
「そうやって我慢するなって!これでも医学生だ。応急処置はできる」
「キミにはね、見せたくないの」
「大事な指だ!何を言っているんだ!いつもそうだ。自分のことが嫌いなのは知っている。しかたないだろ。俺達はオリジナルだよ。……例えばだぞ。おばあちゃんになったら、表情で美しさが決まる。口紅をつけただけで綺麗なんだ。身体を起こすのも大変だけど、笑ったら可愛い。お兄ちゃんはいろんなことを経験した。顔に出ているんだ!美人とかじゃない。イケメン、いい男なんだ!」

 朝陽が無理やりに二葉の手を取った。そして、薬指に触れた時、小さな声があがった。そして、とっさ動いた俺の身体を、黒崎の手に押し留められた。噴水の明かりの元で触れ合っている、兄弟の邪魔をしてはいけない。言葉にならない方法で教えてくれた。

 怪我をした指を持つカインにアベルが寄り添い、どうしてそんなことを言うのか?と問いかけた。指を引っ張るわけでもなく、朝陽が両手で二葉の手を包み込んだ。男性と女性の手の大きさの差があるから、簡単に包み込まれた。二葉が眉をよせた。朝陽が見逃すわけがなくて、馬鹿と呟いて舌打ちした。しかし、ちっとも嫌な感じがしない。

「なんでお兄ちゃんが悩むんだよ!?」
「朝陽……」
「お母さんのせいだ!大事な指を、よくもああいう扱いをしたもんだよ。お兄ちゃんは楽器を弾かないけど、絵を描く。たまにだったよね。勉強ばかりしていた。カフェでバイトして、いつもトレーを持っていた。自分の娘なのに華やかさが足りないだなんて、よく言えたものだ!あんなに醜い人に言う権利はない!」

 朝陽の口から出てきたのは、母親への恨み言だ。次々にあふれ出していった。それは怖い言葉だ。目の前にママが居たら、ショックを受けそうだ。全否定だ。でも、二葉を守るための言葉だ。この場での慰めになると判断した、朝陽の選択だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

サラリーマン二人、酔いどれ同伴

BL
久しぶりの飲み会! 楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。 「……え、やった?」 「やりましたね」 「あれ、俺は受け?攻め?」 「受けでしたね」 絶望する佐万里! しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ! こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。

【完結】お義父さんが、だいすきです

  *  ゆるゆ
BL
闇の髪に闇の瞳で、悪魔の子と生まれてすぐ捨てられた僕を拾ってくれたのは、月の精霊でした。 種族が違っても、僕は、おとうさんが、だいすきです。 ぜったいハッピーエンド保証な本編、おまけのお話、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! トェルとリィフェルの動画つくりました!  インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのWebサイトから、どちらにも飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

没落令息はクラスメイトの執着に救われる

夕月ねむ
BL
突然父親の爵位がはく奪され、帰る屋敷も家名も失ったローレンス。貴族が集まる学院の寮からも放り出されるところだった彼を、クラスメイトのアルフレッドが引き留める。 「侯爵家の私であれば、従者をひとり授業に同席させることができる」と言って。 アルフレッドの従者となったローレンス。けれどその二年後、彼らの関係は再び大きく変わることとなった。 ※FANBOXからの転載です。 ※他サイトにも投稿しています。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

処理中です...