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朝陽の感情が高ぶっている。どれが涙で水なのか分からないぐらいに、二人の髪の毛や顔に、透明色と白色の雫が滴っている。
それでも俺達は動けない。まるで、理久が溜まっていた想いを吐き出した時のようだ。悠人が二葉に寄り添って、静かに見守り続けた時のようだ。今の自分の役目は、黒崎に寄り添うことだ。そっと距離を詰めた時、一貴さんから肩を叩かれた。
「夏樹君。もう少し様子を見たい。いいか?」
「うん。もちろんだよ。羽音さんは……」
「タオルを取りに行ってくれた。夏樹君には待ってあげて欲しいって言われている……」
「お礼を言うよ。黒崎さん……。大丈夫?」
「ああ。一貴、俺の知らないことがあるのか?」
「そうだな、あるかもしれない。小児科系の実習先が影響している。ちょうど休学する手前の時期だ。友達のこともあるから、医者になろうと目指した。……これでマシになったか?」
まるで昼間のように明るくなった。一貴さんが足元の外灯の向きを変えたことによって。揺らぎない表情をしている。どれだけ多くのことを、朝陽は一貴さんに吐き出したのだろうか。
「圭一。……詳しい内容を知っているか?」
「ああ。聞いている。朝陽の高校の担任教師に会った時に。……夏樹、聞いておいてもらいたい。朝陽が話しているのは、少年の事件の関係だ。中学生の時に、仲のいい子が暴力沙汰を起こした。ほぼ冤罪だ。とは言っても……」
胸の鼓動がはねた。静かに黒崎の話に耳を傾けた。その子は友達を守るために喧嘩に割って入った後、そのグループの一人が大けがを負ってしまった。それまでに補導歴があった影響で、その怪我の原因だと疑われてしまった。もつれあった話だった。
朝陽はショックを受けて、学校の教師などに流れを教えてもらい、医者になろうと決めた。小児科医だ。自分では対処できない、一人では抱えきれない子供を診るために。少しでも力になる人になりたいと決めた。
「そうか。知っていたか。……実習先の病院がミッション系だ。その関係機関からの患者を受け入れている。……医師の見立てで、ある子の将来を判断する機会があった。……何もできないと知った。そう本人が言った。周りの子は嘘をついている。でも、怪我はそうなっている。どうしたらいいのかって……。僕は医師じゃないから想像もできない」
一貴さんの子ども時代と重なる部分があると思った。ひとりで抱えることが出来ない体験。ひとりで抱え込まざるをえない状況。そこに子供の頃から身を置いた結果、一貴さんは二人に分かれた。安心していられる場所が無かった。そういう場所を、朝陽は作りたかった。でも、自分の力ではできないと分かった。
ガサ……。
二葉が朝陽の身体を地面に押した。強引に座らせるために。見たこともない泣き方をしている。呆然とした顔だ。二葉は落ち着いたままだ。朝陽の背中を何度もさすって、目線の高さを同じにして、相槌のみを打っている。やっと朝陽が顔をあげたから、二葉が話しかけ始めた。
「実習先で見たものが怖かったのか?同じチームの学生には言えなかったのか。みんな耐えているもんな。俺は分からないけど。強いふりはつらい。それだけは共有できる」
「医師の判断で……その傷の原因は……判断して……審判が……影響して……っ、違うかもしれないのに」
「そうか。本人の話を聞かないのか。そうだな。お医者さんの見立てがある。本当か?一人だけの意見を……。分かった。もっと聞かせてくれ」
「よく知りもしない子の……、うた……」
「疑ったのか?そういうところを見たのか?もっと朝陽に話しかければよかった。ごめん」
「俺の方が返事をしなかったからだよ!お兄ちゃん、ごめん」
「いいよ。こういう時は、お姉ちゃんがいたらいいな?お兄ちゃんしかいないからなーー。ごめん」
「傷つけた……。お兄ちゃんのことも……」
「お母さんのこともだぞ?それは理解しておこうな?」
「……っ」
もっと話しかければよかった。返事がなくても。遠く離れて行った結果、後戻りできない場所に到着した。まるで黒崎とママのようだ。ママのいる向こうの岸に行けたらいい。どんな話をしようか?そう思いふける時間が幸せだった。そう聞かせてもらった。
生きていれば会える。だから大丈夫だと思った。そう呟いた時の黒崎は落ち着いていた。今も同じだ。ずっと静かに、二葉たちのことを見守っている。
それでも俺達は動けない。まるで、理久が溜まっていた想いを吐き出した時のようだ。悠人が二葉に寄り添って、静かに見守り続けた時のようだ。今の自分の役目は、黒崎に寄り添うことだ。そっと距離を詰めた時、一貴さんから肩を叩かれた。
「夏樹君。もう少し様子を見たい。いいか?」
「うん。もちろんだよ。羽音さんは……」
「タオルを取りに行ってくれた。夏樹君には待ってあげて欲しいって言われている……」
「お礼を言うよ。黒崎さん……。大丈夫?」
「ああ。一貴、俺の知らないことがあるのか?」
「そうだな、あるかもしれない。小児科系の実習先が影響している。ちょうど休学する手前の時期だ。友達のこともあるから、医者になろうと目指した。……これでマシになったか?」
まるで昼間のように明るくなった。一貴さんが足元の外灯の向きを変えたことによって。揺らぎない表情をしている。どれだけ多くのことを、朝陽は一貴さんに吐き出したのだろうか。
「圭一。……詳しい内容を知っているか?」
「ああ。聞いている。朝陽の高校の担任教師に会った時に。……夏樹、聞いておいてもらいたい。朝陽が話しているのは、少年の事件の関係だ。中学生の時に、仲のいい子が暴力沙汰を起こした。ほぼ冤罪だ。とは言っても……」
胸の鼓動がはねた。静かに黒崎の話に耳を傾けた。その子は友達を守るために喧嘩に割って入った後、そのグループの一人が大けがを負ってしまった。それまでに補導歴があった影響で、その怪我の原因だと疑われてしまった。もつれあった話だった。
朝陽はショックを受けて、学校の教師などに流れを教えてもらい、医者になろうと決めた。小児科医だ。自分では対処できない、一人では抱えきれない子供を診るために。少しでも力になる人になりたいと決めた。
「そうか。知っていたか。……実習先の病院がミッション系だ。その関係機関からの患者を受け入れている。……医師の見立てで、ある子の将来を判断する機会があった。……何もできないと知った。そう本人が言った。周りの子は嘘をついている。でも、怪我はそうなっている。どうしたらいいのかって……。僕は医師じゃないから想像もできない」
一貴さんの子ども時代と重なる部分があると思った。ひとりで抱えることが出来ない体験。ひとりで抱え込まざるをえない状況。そこに子供の頃から身を置いた結果、一貴さんは二人に分かれた。安心していられる場所が無かった。そういう場所を、朝陽は作りたかった。でも、自分の力ではできないと分かった。
ガサ……。
二葉が朝陽の身体を地面に押した。強引に座らせるために。見たこともない泣き方をしている。呆然とした顔だ。二葉は落ち着いたままだ。朝陽の背中を何度もさすって、目線の高さを同じにして、相槌のみを打っている。やっと朝陽が顔をあげたから、二葉が話しかけ始めた。
「実習先で見たものが怖かったのか?同じチームの学生には言えなかったのか。みんな耐えているもんな。俺は分からないけど。強いふりはつらい。それだけは共有できる」
「医師の判断で……その傷の原因は……判断して……審判が……影響して……っ、違うかもしれないのに」
「そうか。本人の話を聞かないのか。そうだな。お医者さんの見立てがある。本当か?一人だけの意見を……。分かった。もっと聞かせてくれ」
「よく知りもしない子の……、うた……」
「疑ったのか?そういうところを見たのか?もっと朝陽に話しかければよかった。ごめん」
「俺の方が返事をしなかったからだよ!お兄ちゃん、ごめん」
「いいよ。こういう時は、お姉ちゃんがいたらいいな?お兄ちゃんしかいないからなーー。ごめん」
「傷つけた……。お兄ちゃんのことも……」
「お母さんのこともだぞ?それは理解しておこうな?」
「……っ」
もっと話しかければよかった。返事がなくても。遠く離れて行った結果、後戻りできない場所に到着した。まるで黒崎とママのようだ。ママのいる向こうの岸に行けたらいい。どんな話をしようか?そう思いふける時間が幸せだった。そう聞かせてもらった。
生きていれば会える。だから大丈夫だと思った。そう呟いた時の黒崎は落ち着いていた。今も同じだ。ずっと静かに、二葉たちのことを見守っている。
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