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28-6(夏樹視点)
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午前10時。
リビングで片づけをしながら、テラス窓の方を眺めた。日差しが傾いてきたから、心配になった。天気予報では曇りだったのに。
今日はうちの家に、バンドメンバーが集まる。そして、新しいドラムサポートのメンバーも遊びに来る。戸羽琉芯《とばりゅうしん》という、都内の高校3年生の子だ。
メンバーのなかでは一番年が若くて、ジャズバンドの経験者だから、異色の存在だった。実際に演奏を聴くと、経験や年齢は関係ないのだと実感した。一緒に音合わせをしたところだ、最初から息が合った。
「よかったなあ。大和とも合うなんて。性格は合わないような気がしたけど」
素直ないい子だと思った。スタジオで珈琲を淹れてもらった時に、スタッフさんにお礼を伝えながら、はにかんだ顔をしていたからだ。ほんの一瞬だけだが。久弥がこう言っていた。
(プロのミュージシャンとして接されたことがないからだ。あの年だしな。どこに行っても、子ども扱いだろう。演奏は大人顔負けなのに。本来の希望通りに接してもらえた。……悠人。お前はどう思った?)
(まずはホッとしていたよ。受け入れられた感じ。なつきー。君と似ている面があると思うよ)
(俺と?引っ込み思案とは思えない……そっか)
”大人を信じていない”。そのフレーズが、頭に浮かんだ瞬間だった。高校生の頃は、きちんと向き合って接してもらえた相手にだけ、心を開くようにしていた。ただし、その相手は田中先生だけだった。その後の久弥の話にも納得できた。
(心を開く相手になれるといいけど。たぶんそうなる。……夏樹。お前のことを見て、胸の鼓動を高鳴らせていたぞ。先輩だと思ったに違いない)
(中学生時代の話は公表していないのに。……ええー、匂いで分かるの?)
(そういうものだ。桜木君はどう思う?)
(同意します。僕の好きなタイプです。夏樹君の昔みたいで可愛いよ。大和君はーー?)
(”ひいいいいっ”。そんなに荒れていたのか?)
(うん。人を蹴ったことは何度もあるよ。喧嘩っていうより、言いがかりを受けていたんだ。パンチをしたら、開明高校は退学なんだ。相手を蹴るのはOK。近づかずに済むから。担任の田中先生が、校長先生に掛け合ってくれたんだ。学校に通え続けられたのは……。ごめん)
(なつきーー。大和が泣いたよ。嬉しいってさ)
大和も傷を持っている。ただし、学校内ではない。プロデビュー後の話だ。
これは俺の勘だ。あの子は相手に合わせる演奏ができる。自己主張をしてこない。ああいう場だからだけでなく、普段からそうだと思う。それなのに、相手を信じていないのは、ちぐはぐな感情だ。
「それなら大和とも気が合うと思うのに。根っからの真面目人間と、フレキシブルな子か。そうかな?琉芯君がね……」
お義父さんも琉芯のことを見つけた。アーティスト支援活動の中で。その同時期に、久弥も彼に興味を持った。同級生が組んでいるジャズバンドのメンバーとして。何の縁なのか巡り合わせなのか、俺達との縁も感じた。今日はアンとユリウスを琉芯に会わせて、打ち解けるきっかけにしたい。
「うんうん。根っからの動物好きは共通しているんだな~」
運命の出会いだろうか?それとも、最初から決まっていたのだろうか。なんにせよ、こういうことだ。
「……Your sinking heart grows、district side……3、2、1、ZERO!」
ボーーーン、ボーーーン。
ちょうどいいタイミングで、玄関のインターフォンが鳴った。モニター画面に映っているのは、琉芯君を連れた、赤みのある髪の毛のプロデューサーだ。
いらっしゃいませ。お待ちしておりました。
そう声をかけて、玄関のドアを開けた。
リビングで片づけをしながら、テラス窓の方を眺めた。日差しが傾いてきたから、心配になった。天気予報では曇りだったのに。
今日はうちの家に、バンドメンバーが集まる。そして、新しいドラムサポートのメンバーも遊びに来る。戸羽琉芯《とばりゅうしん》という、都内の高校3年生の子だ。
メンバーのなかでは一番年が若くて、ジャズバンドの経験者だから、異色の存在だった。実際に演奏を聴くと、経験や年齢は関係ないのだと実感した。一緒に音合わせをしたところだ、最初から息が合った。
「よかったなあ。大和とも合うなんて。性格は合わないような気がしたけど」
素直ないい子だと思った。スタジオで珈琲を淹れてもらった時に、スタッフさんにお礼を伝えながら、はにかんだ顔をしていたからだ。ほんの一瞬だけだが。久弥がこう言っていた。
(プロのミュージシャンとして接されたことがないからだ。あの年だしな。どこに行っても、子ども扱いだろう。演奏は大人顔負けなのに。本来の希望通りに接してもらえた。……悠人。お前はどう思った?)
(まずはホッとしていたよ。受け入れられた感じ。なつきー。君と似ている面があると思うよ)
(俺と?引っ込み思案とは思えない……そっか)
”大人を信じていない”。そのフレーズが、頭に浮かんだ瞬間だった。高校生の頃は、きちんと向き合って接してもらえた相手にだけ、心を開くようにしていた。ただし、その相手は田中先生だけだった。その後の久弥の話にも納得できた。
(心を開く相手になれるといいけど。たぶんそうなる。……夏樹。お前のことを見て、胸の鼓動を高鳴らせていたぞ。先輩だと思ったに違いない)
(中学生時代の話は公表していないのに。……ええー、匂いで分かるの?)
(そういうものだ。桜木君はどう思う?)
(同意します。僕の好きなタイプです。夏樹君の昔みたいで可愛いよ。大和君はーー?)
(”ひいいいいっ”。そんなに荒れていたのか?)
(うん。人を蹴ったことは何度もあるよ。喧嘩っていうより、言いがかりを受けていたんだ。パンチをしたら、開明高校は退学なんだ。相手を蹴るのはOK。近づかずに済むから。担任の田中先生が、校長先生に掛け合ってくれたんだ。学校に通え続けられたのは……。ごめん)
(なつきーー。大和が泣いたよ。嬉しいってさ)
大和も傷を持っている。ただし、学校内ではない。プロデビュー後の話だ。
これは俺の勘だ。あの子は相手に合わせる演奏ができる。自己主張をしてこない。ああいう場だからだけでなく、普段からそうだと思う。それなのに、相手を信じていないのは、ちぐはぐな感情だ。
「それなら大和とも気が合うと思うのに。根っからの真面目人間と、フレキシブルな子か。そうかな?琉芯君がね……」
お義父さんも琉芯のことを見つけた。アーティスト支援活動の中で。その同時期に、久弥も彼に興味を持った。同級生が組んでいるジャズバンドのメンバーとして。何の縁なのか巡り合わせなのか、俺達との縁も感じた。今日はアンとユリウスを琉芯に会わせて、打ち解けるきっかけにしたい。
「うんうん。根っからの動物好きは共通しているんだな~」
運命の出会いだろうか?それとも、最初から決まっていたのだろうか。なんにせよ、こういうことだ。
「……Your sinking heart grows、district side……3、2、1、ZERO!」
ボーーーン、ボーーーン。
ちょうどいいタイミングで、玄関のインターフォンが鳴った。モニター画面に映っているのは、琉芯君を連れた、赤みのある髪の毛のプロデューサーだ。
いらっしゃいませ。お待ちしておりました。
そう声をかけて、玄関のドアを開けた。
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