500 / 514
28-12(黒崎視点)
しおりを挟む
10月18日、金曜日。午前3時。
今、宿泊先のホテルの部屋に居る。日本時間は午前10時だ。夏樹が起きるタイミングで電話をかけてある。体調に変わりはないようだ。父の家も静かだという。今日は一貴が一日家に居るから安心している。
シャワーを浴びた後、ベッドに寝転がった。今日の午前中にフェリックス氏に会う。バーテルスビスケット会社の社長室での面会だ。バーテルス氏も同行する。用件はただ一つ。楽譜を返すだけだ。その後は専務と会う。そして、午後からの受賞式典に出席する。さらに、夕方から夜にかけて会食が入っている。観光はできない。夏樹と一緒がいい。しかし、バーテルス氏から、市内を車で回ろうかと申し出があった。おとぎの国のような建物を見るだけでも楽しめそうだ。
それにしても、この間見つけたアルバムのことが忘れられない。33年前に黒崎家で開かれたガーデンパーティーのものだ。菜々子さんを慰労するために開かれたのだと、父から聞いた。メンバーは黒崎家からは、父、拓海兄さんと晴海兄さん、黒崎製菓の社員、菜々子さんの同僚、母、そして、フェリックス氏だ。菜々子さんとフェリックス氏は別れた後だ。強引に彼の方が来たのか?彼女のことを諦められずに。その答えを聞いたとき、絶望感が目の前に襲ってきた。彼のことは母が呼んだそうだ。父も菜々子さんも、当日まで知らなかった。どうしても菜々子さんと会いたいフェリックス氏から母に連絡が入り、招待したという。
(余計な事をする人だ。菜々子さんと友人だったと聞いていたが。友情が壊れるところだった)
菜々子さんは母のことを許したようだ。仕方の無い人ねという反応だったそうだ。父からそう聞いた。俺ならそうはいかない。度量の大きさの違いだ。フェリックス氏とは顔を合わしていないそうだ。父がそうさせなかった。ただし、赤ん坊の早瀬のことは一目だけでもいいから見たいという願いは叶えたと聞いている。遠目からだ。その時は拓海兄さんが抱いていたそうだ。
菜々子さんが勤務先の高級クラブに入店後、数人の客から交際の申し込みがあったそうだ。その話をされる度に、彼女は店のママに報告する決まりがあった。危ない男を近づけないためだ。彼女の方も交際するつもりはなかった。しかし、拓海兄さんが接待で連れてきたフェリックス氏は違った。初めて会ったときから惹かれた。フェリックス氏が何度か1人で店に来るようになり、彼の方から交際の申し込みがあった。しかし、菜々子さんはママに報告しなかった。反対されると思ってのことだ。そして、付き合うようになり、妊娠し、妻子持ちだと打ち明けられたわけだ。そして、拓海兄さんとの縁談が持ち上がった。菜々子さんは何度も断ったそうだ。せめて拓海兄さんにフェリックス氏との交際を打ち明けていれば、妻子持ちだと分かっただろう。
アルバムのガーデンパーティーの様子を見ると、大勢の客で賑わっていた。俺の写真もあったが、記憶はおぼろげだ。大人の中に入り、戸惑ったことは覚えている。そして、母から眉をひそめられたことも。
パーティーでは食事が用意されていた。母に伴われてテーブルに行き、食事をした。そして、唐揚げのような物を食べたときに、噛みきらずに飲み込み、喉に詰まって吐き出した。そして、パーティーの緊張感からか、嘔吐した。助けてくれたのは、俺の面倒を見てくれているお手伝いさんだ。母からは嫌な目で見られた。私の服が汚れる。そう言われた気がする。男性達も駆けつけてきた。そして、お手伝いさんと一緒に洗面所を借りた。その時は、菜々子さんもいたような記憶がある。目を覚ますと病院に居て、点滴を受けていた。後は覚えていない。
(シンプルな話だ。ママは俺のことは可愛がっていなかったということだ。いや、同じ家にはいてくれた。何でも否定するのは良くない……)
“ママ“は同じ家に暮らす女性の名前だった。たまに訪ねてくる男性のことを”お父さん”と呼ぶように言われたのは、いつのことだったか。そのお父さんとは、同じ敷地で暮らし、俺の帰りを待ってくれている。夏樹がいなければ、こうなっていないだろう。
「……夏樹。おやすみ」
今頃何をやっているだろう。早くも疲れてきている。今日は忙しい一日になりそうだ。息をつき、目を閉じた。
今、宿泊先のホテルの部屋に居る。日本時間は午前10時だ。夏樹が起きるタイミングで電話をかけてある。体調に変わりはないようだ。父の家も静かだという。今日は一貴が一日家に居るから安心している。
シャワーを浴びた後、ベッドに寝転がった。今日の午前中にフェリックス氏に会う。バーテルスビスケット会社の社長室での面会だ。バーテルス氏も同行する。用件はただ一つ。楽譜を返すだけだ。その後は専務と会う。そして、午後からの受賞式典に出席する。さらに、夕方から夜にかけて会食が入っている。観光はできない。夏樹と一緒がいい。しかし、バーテルス氏から、市内を車で回ろうかと申し出があった。おとぎの国のような建物を見るだけでも楽しめそうだ。
それにしても、この間見つけたアルバムのことが忘れられない。33年前に黒崎家で開かれたガーデンパーティーのものだ。菜々子さんを慰労するために開かれたのだと、父から聞いた。メンバーは黒崎家からは、父、拓海兄さんと晴海兄さん、黒崎製菓の社員、菜々子さんの同僚、母、そして、フェリックス氏だ。菜々子さんとフェリックス氏は別れた後だ。強引に彼の方が来たのか?彼女のことを諦められずに。その答えを聞いたとき、絶望感が目の前に襲ってきた。彼のことは母が呼んだそうだ。父も菜々子さんも、当日まで知らなかった。どうしても菜々子さんと会いたいフェリックス氏から母に連絡が入り、招待したという。
(余計な事をする人だ。菜々子さんと友人だったと聞いていたが。友情が壊れるところだった)
菜々子さんは母のことを許したようだ。仕方の無い人ねという反応だったそうだ。父からそう聞いた。俺ならそうはいかない。度量の大きさの違いだ。フェリックス氏とは顔を合わしていないそうだ。父がそうさせなかった。ただし、赤ん坊の早瀬のことは一目だけでもいいから見たいという願いは叶えたと聞いている。遠目からだ。その時は拓海兄さんが抱いていたそうだ。
菜々子さんが勤務先の高級クラブに入店後、数人の客から交際の申し込みがあったそうだ。その話をされる度に、彼女は店のママに報告する決まりがあった。危ない男を近づけないためだ。彼女の方も交際するつもりはなかった。しかし、拓海兄さんが接待で連れてきたフェリックス氏は違った。初めて会ったときから惹かれた。フェリックス氏が何度か1人で店に来るようになり、彼の方から交際の申し込みがあった。しかし、菜々子さんはママに報告しなかった。反対されると思ってのことだ。そして、付き合うようになり、妊娠し、妻子持ちだと打ち明けられたわけだ。そして、拓海兄さんとの縁談が持ち上がった。菜々子さんは何度も断ったそうだ。せめて拓海兄さんにフェリックス氏との交際を打ち明けていれば、妻子持ちだと分かっただろう。
アルバムのガーデンパーティーの様子を見ると、大勢の客で賑わっていた。俺の写真もあったが、記憶はおぼろげだ。大人の中に入り、戸惑ったことは覚えている。そして、母から眉をひそめられたことも。
パーティーでは食事が用意されていた。母に伴われてテーブルに行き、食事をした。そして、唐揚げのような物を食べたときに、噛みきらずに飲み込み、喉に詰まって吐き出した。そして、パーティーの緊張感からか、嘔吐した。助けてくれたのは、俺の面倒を見てくれているお手伝いさんだ。母からは嫌な目で見られた。私の服が汚れる。そう言われた気がする。男性達も駆けつけてきた。そして、お手伝いさんと一緒に洗面所を借りた。その時は、菜々子さんもいたような記憶がある。目を覚ますと病院に居て、点滴を受けていた。後は覚えていない。
(シンプルな話だ。ママは俺のことは可愛がっていなかったということだ。いや、同じ家にはいてくれた。何でも否定するのは良くない……)
“ママ“は同じ家に暮らす女性の名前だった。たまに訪ねてくる男性のことを”お父さん”と呼ぶように言われたのは、いつのことだったか。そのお父さんとは、同じ敷地で暮らし、俺の帰りを待ってくれている。夏樹がいなければ、こうなっていないだろう。
「……夏樹。おやすみ」
今頃何をやっているだろう。早くも疲れてきている。今日は忙しい一日になりそうだ。息をつき、目を閉じた。
0
あなたにおすすめの小説
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
サラリーマン二人、酔いどれ同伴
風
BL
久しぶりの飲み会!
楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。
「……え、やった?」
「やりましたね」
「あれ、俺は受け?攻め?」
「受けでしたね」
絶望する佐万里!
しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ!
こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
【完結】お義父さんが、だいすきです
* ゆるゆ
BL
闇の髪に闇の瞳で、悪魔の子と生まれてすぐ捨てられた僕を拾ってくれたのは、月の精霊でした。
種族が違っても、僕は、おとうさんが、だいすきです。
ぜったいハッピーエンド保証な本編、おまけのお話、完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
トェルとリィフェルの動画つくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのWebサイトから、どちらにも飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
没落令息はクラスメイトの執着に救われる
夕月ねむ
BL
突然父親の爵位がはく奪され、帰る屋敷も家名も失ったローレンス。貴族が集まる学院の寮からも放り出されるところだった彼を、クラスメイトのアルフレッドが引き留める。
「侯爵家の私であれば、従者をひとり授業に同席させることができる」と言って。
アルフレッドの従者となったローレンス。けれどその二年後、彼らの関係は再び大きく変わることとなった。
※FANBOXからの転載です。
※他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる