上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

文字の大きさ
510 / 514

28-22

しおりを挟む
 バーテルス氏と話していると、オバケが出る部屋ですって?と、女性の声がして、俺もバーテルス氏も笑った。エミリアがデザートプレートを運んできてくれた。どれも小さな菓子が乗せられて、夏樹が食べそうだと思った。そして、ソフトクリームもあった。銀のスプーンが添えられている。さっそく、バーテルス氏が食べ始めた。

「圭一。これは僕のお勧めだ」
「そうか」

 スプーンにソフトクリームを取り、口に入れると、さっと溶けた。甘さ控えめだ。匂いもいい。夏樹はソフトクリームも好きだから、連れてきてやると喜ぶだろうと思った。まさか本人は俺がここでスイーツを食べているとは思っていないだろう。

「後で夏樹君に電話をかけるといい。とても美味しかったと」
「内緒にしてくれ」

 バーテルス氏の冗談に笑った。あれからフェリックス氏とは口も聞いていないそうだ。自分が争いのタネを頼んだのだと早瀬が気にしそうだが、電話で報告し、それは否定しておいた。バーテルス氏は初めから同席したがっていた。父親がどういう態度を取るのか、俺に掴みかかってくるようなことがないようにと恐れてのことだった。まさか写真を集めたとは予想外だったらしい。俺も同じだ。

 ソフトクリームを食べ終えた後、デザートプレートの菓子を食べた。この後も予定が入っている。夏樹に電話をかけるとしたら、今しかない。バーテルス氏に断りを入れて、彼に電話をかけた。向こうは夕食が済んだ後だろうか。何回目かのコールで出た。息を乱している。

「夏樹?どうした?」
「黒崎さん。大丈夫だよ。お風呂から出てきたところだったんだ。ちゃんと服を着ているよ。電話が鳴ったからさ、ダッシュで取ったんだ」
「そうだったのか。夕食は済ませたのか?」
「うん。肉野菜炒めとスープだよ。黒崎さんは何か食べた?」
「ユーリーと一緒に、お母さんと叔母さんがやっているスイーツショップに来ている。二葉が手伝いをさせてもらった店だ」
「そうなんだね!今、二葉がそばにいるよ。話したいって。エミリアさんとソフィアさんにって」
「そうか」

 バーテルス氏に事情を説明すると、二人を呼んでもらえた。そして、それぞれが二葉と話している姿を眺めた。ここは活気があり、穏やかな時間が流れている。あの会長室とは大きく違う。そして、意外な単語を耳にして、バーテルス氏と顔を見合わした。エミリアが自分のことをママと言っている。そして、二葉に語りかけている。それは優しい言葉だ。俺もいつかかけてもらいたいと思っていた言葉だ。

「二葉。ママはここにいるわよ。ソフィアもいるのよ」
「来年の夏、必ず行くから!」
「泣かないで。二葉……」
 
 すると、電話が俺の方に返ってきた。エミリアとソフィアの顔を見ることができなかった。どちらも涙ぐみ、エミリアの背中をソフィアが優しくさすっている。夏樹に電話をかわってもらうと、二葉も泣いているのだと知った。

「慰める言葉が見つからない」
「いいんだよ。あんたの気持ちは通じているよ。クリスマスの贈り物を選ばなきゃね!ふたばーー、そうだろ?」
「ユーリー?」
 
 向かい合っているバーテルス氏まで涙ぐみ始めた。そして、涙がテーブルに落ちた。フェリックス氏とのことだろうか。そして、二葉にママと言った優しさのことなのか。エミリアが涙を拭いている。そして、バーテルス氏の隣に座り、彼がエミリアの頭を抱き寄せていた。

「お母さん。二葉が泣いているのか?」
「ええ。懐かしくなるから、電話はやめておいたの。そしたら、お互いに寂しくなったわ……」

 電話が繋がっている中、夏樹と話しながら、お互いにそばに座っている人達を慰めることになった。それは胸が痛くて、穏やかな時間だ。

(二葉をここに来させてよかったということだ。だが、寂しい思いをさせた……)

 すると、エミリアが微笑んだ。泣いてごめんなさいと謝りながら。俺は首を振った。気の利いたことが言えない。そこで、バーテルス氏のフォローが入り、この席に小さな笑いが起きた。今日ここに来て良かった。心からそう思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

サラリーマン二人、酔いどれ同伴

BL
久しぶりの飲み会! 楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。 「……え、やった?」 「やりましたね」 「あれ、俺は受け?攻め?」 「受けでしたね」 絶望する佐万里! しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ! こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

【完結】お義父さんが、だいすきです

  *  ゆるゆ
BL
闇の髪に闇の瞳で、悪魔の子と生まれてすぐ捨てられた僕を拾ってくれたのは、月の精霊でした。 種族が違っても、僕は、おとうさんが、だいすきです。 ぜったいハッピーエンド保証な本編、おまけのお話、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! トェルとリィフェルの動画つくりました!  インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのWebサイトから、どちらにも飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

没落令息はクラスメイトの執着に救われる

夕月ねむ
BL
突然父親の爵位がはく奪され、帰る屋敷も家名も失ったローレンス。貴族が集まる学院の寮からも放り出されるところだった彼を、クラスメイトのアルフレッドが引き留める。 「侯爵家の私であれば、従者をひとり授業に同席させることができる」と言って。 アルフレッドの従者となったローレンス。けれどその二年後、彼らの関係は再び大きく変わることとなった。 ※FANBOXからの転載です。 ※他サイトにも投稿しています。

処理中です...