回転木馬の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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3-1 早瀬の一日(早瀬視点・インターンシップ)

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 12月18日、火曜日。午前6時。

 カレンダーを見ると、72候の欄には鮭魚群・さけのうおむらがると書かれていた。朝食の用意をしているエプロン姿の悠人が、冷蔵庫を開けた。

「鮭が川を遡上する頃かー。……お歳暮のサケの切り身、今晩のおかずだよね?」
「……佐久弥から回ってきた巨峰も食べないとなあ」
「夏樹に持って行こうか?段ボールに満杯だもん」
「……今日のインターンシップで会うから聞いてみる。圭一さんに聞いてもなあ……」

 この時間の世話焼き担当は悠人だ。キッチンに立ち、味噌汁を作っている。カタカタを音を立てて味噌を溶いている姿は、真剣そのものだ。キッチンカウンターには、食パンを乗せられた皿があり、パンにはチーズとシラス、大葉を乗せている。あとは焼くだけだ。ずい分と上達して、手際もよくなった。

「裕理さん。珈琲が入ったから持って行くよ。座ってて」
「ここにいるから自分で……」
「だめだだめだめだーー!この時間は俺が世話を焼くんだって。ホラホラホラ、座っててください。どこかの人みたいに電子新聞を読んでてよ」
「……はいはい」

 悠人から追い払われてしまった。

 ソファーに座り、テレビを付けた後、電子新聞を開いた。ニュース番組が始まり、黒崎製菓という見出しがあったため、テレビの方を見た。悠人にも聞こえてきたようで、パタパタと足音を立ててやって来た。

「『……黒崎製菓、ワタベ電機の提携が……、来年4月の編成……、2.1%……』」
「黒崎製菓のことだね!いいニュースだろー?」
「そうだよ。ワタベさんとの提携でいい流れになった。お互いにだ」
「それっていいね。生産ロボットを作ってもらうんだよね?佐久弥の弟がロボット作りをしているんだって。理久君っていうんだ。O大の一年生。藤沢が知っているかも。裕理さんも知っているよね?」
「ああ。知っている子だ。小さい頃から発明家になると言っていた。……君にも紹介したい。今日のインターンシップに参加するぞ」
「へえー。夏樹も参加するよね。友達になれたらいいな。……今日は講師役をするんだよね?動画は撮らないの?」
「……撮るよ。会社の業務PRに使用する。見たいのか?」
「見たいよ。俺も参加したいぐらいだし……」
「……白澤のことがある。俺の責任でもある」
「裕理さんは悪くないよ。妬んできた人からの嫌がらせだろ?要はそういうことだよね?」

 寂しそうにしている。黒崎製菓で5日間のバイトをしたが、インターンシップ参加は止めておいた。いい経験にはなるが、白澤との一件があるため、不安要素が消えない。バイト中に資料室へ連れ込まれて、危ない目に遭ったからだ。

 その時、たまたま訪ねて来ていた、グループ内の顧問弁護士が、白澤が悠人の手首を掴んでいる場面を目撃した。悠人の父親である久田氏だ。いくらでも言い逃れが出来るケースだった。悠人がきっぱりと拒絶して、手を出してくるなと言い切った。

 俺は出世競争により、デザート事業部室長を務めている山田という男から恨みをかっている。白澤はその山田から言いそそのかされて、悠人を利用したとみている。俺が腹を立てて、何かするのが目的だろう。昇進が飛ぶからだ。

 先月末には、部下の枝川に言い掛かりをつけて騒ぎを起こした。『戦いごっこ』という遊びだったと、副社長には説明した。お咎めなしとまではいかないが、社内の混乱を最小限に食い止めることができた。しばらくは大人しくしているだろう。白澤は別件で問題を起こしたため、処分と人事異動が予定されている。

「裕理さーん。ご飯が出来たよー」
「はーい」
「チーズ、しらす、大葉のトッピングだよ」
「おいしそうだね」

 ダイニングテーブルからは、トーストのいい匂いがしている。ワカメとネギの味噌汁が美味しい。そして、悠人の履いているモコモコのスリッパがよく似合っていて可愛らしい。この光景を眺めつつ、幸せをかみしめてトーストを食べ始めた。
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