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13時。
午後の講義開始のアナウンスが流れた。この時間の講師が紹介された後、黒崎が壇上に上がった。マイクを通して声が響き渡った。
「……この時間を担当いたします、黒崎です。午前中の『鬼』より予告がありましたとおり、リラックスした……。あの『鬼』は……。マーケティング推進室にて、室長をやっていた社員です。現場から離れてしまったのには、そういった社内事情によるものです……」
参加者だけでなく、壁の方で立っている枝川たち部下が笑っている。役割分担が成功したのは良かったが、あまりな言いようだ。身に覚えがある分、言い返せない。
黒崎が担当しているのは、ソフトクリーム好きな少年の題材だ。どうやって商品を選んで店に買いに行くかというものだ。笑いを交えての講義に、会場内は沸いている。しかし、このままの和やかな雰囲気では終わらない。
黒崎がスライド変更の指示を出すと、新しいものが映し出された。次の時間のグループワークの題材だ。つくりたい菓子と、売り出す場所がテーマだ。この説明の前に、注意事項の件を告げることになる。
「次の時間はグループワークです。その前に、今朝のオリエンテーションでもお願いした約束事に触れます。インターンシップ期間中は、連絡先の交換は控えて下さい。この会議室を出た後も同じです。一緒にやる仲間ですから、早く仲良くなりたいという気持ちは分かります。会ったばかりの人との関り方を学ぶことも、目的のひとつです。また、各インターンシップ生の安全を考えてのことです。エントリーシートに書かれている内容、選考を重ねているので、当社としては見知らぬ方ではありませんが。……今回の題材がいい例です。知らない人の車には乗らないように。……この時間は終了です」
黒崎は笑顔を向けているが、普段のしゃべり方に戻していた。会場内がどよめいている。さっきまでの、”優しくて面白い人”が豹変したことと、誰がやったのか?という反応だ。会場内が静まり返った後、黒崎が壇上から降りた。
司会者から、休憩時間に入る旨のアナウンスが流れた後、さらにざわめきが大きくなった。俺と平田のそばにやって来た黒崎が、壇上から見えたものを話し始めた。さっそく犯人探しが始まっているという。その犯人候補が、佐伯理久だという。
夏樹の周りには参加者が集まった。黒崎という名で、関係者だと気づいたのだろう。その中には理久がいた。他にも参加者がいたというのに、どうして理久だけの名前があがっているのか?それについては、平田から訳を聞くことができた。
「この後、みんなでご飯を食べに行こうと話していたのは、B列と、F列の斎藤です。……G列の佐伯君は……」
「佐伯君がどうした?」
「みんなが夏樹君に連絡先を聞いこうとしていました。そのタイミングで佐伯君が夏樹君に声をかけたので、佐伯君が悪者になったようです」
「身代わりなのか」
毎度のことだ。山岡の件は別として、このケースは大した事ではない。ルール違反を注意しただけのことだ。それを大きな失敗だととらえて、身代わりを差し出して逃げ出したということだ。素直に謝ろうとする者はいないのだろうか?当たり前のことが出来る人材がほしいのに。
すると、黒崎が理久のほうを見た。参加者の数人から責められている様子だ。そして理久が席を立った。トイレに行くのだろうか?その予想が外れ、近くに立っている枝川の元に行った。間髪入れずに頭を下げている。
その光景を見てホッとした。非を認めて謝罪するという筋を通したからだ。これなら、こちらからのフォローが可能だ。大勢のなかにいると、自分の声の大きさが分かりづらくなるものだ。ささやき声のつもりでも、無意識のうちに大きくなっている。参加者たちの会話が聞こえてきた。
「ヤバくない?そんな子がいたんだ?」
「さっきの子たちでしょうー?ほら、集まって大きな声で話してたもん」
「笑って済んでいたでしょう?」
「他にもあったんだよ。しつこくされたって」
「……えー?覚えられているんじゃない?」
「……その子たち、終わったねー。ここじゃ受ける意味ないね」
「……同じ大学の奴、可哀そうだな」
そんなやり取りを聞いていると、イヤホンから枝川の声が聞こえてきた。理久が謝罪にきたこと、夏樹にも謝罪したいこと、参加を取りやめたいと申し出ているという。もちろん引き止める。
「……枝川。通路で待たせておいてくれ。僕が話す」
「……承知しました。佐伯君、通路に出よう」
枝川が理久を連れて会議室を出た。その後姿を見ているグループが、スマホを操作し始めた。いい理由ではないだろう。自分も会議室を出るために、近道として夏樹のそばを通った。その際にも会話が聴こえてきた。
「私のせいじゃないわよー」
「ええー、タツヤが帰らされたの?」
「レポート提出扱いになるからだよ。ここでやっとけば楽だからって」
「……違うだろ。あいつが悪いだろ?……今度のメンバー、はずしとこう」
「オッケー」
話している参加者の顔と名前を記憶に入れつつ、急いで通路を出た。次のの時間が始まるまでに対処するために。そして、理久の様子を見に行った。
午後の講義開始のアナウンスが流れた。この時間の講師が紹介された後、黒崎が壇上に上がった。マイクを通して声が響き渡った。
「……この時間を担当いたします、黒崎です。午前中の『鬼』より予告がありましたとおり、リラックスした……。あの『鬼』は……。マーケティング推進室にて、室長をやっていた社員です。現場から離れてしまったのには、そういった社内事情によるものです……」
参加者だけでなく、壁の方で立っている枝川たち部下が笑っている。役割分担が成功したのは良かったが、あまりな言いようだ。身に覚えがある分、言い返せない。
黒崎が担当しているのは、ソフトクリーム好きな少年の題材だ。どうやって商品を選んで店に買いに行くかというものだ。笑いを交えての講義に、会場内は沸いている。しかし、このままの和やかな雰囲気では終わらない。
黒崎がスライド変更の指示を出すと、新しいものが映し出された。次の時間のグループワークの題材だ。つくりたい菓子と、売り出す場所がテーマだ。この説明の前に、注意事項の件を告げることになる。
「次の時間はグループワークです。その前に、今朝のオリエンテーションでもお願いした約束事に触れます。インターンシップ期間中は、連絡先の交換は控えて下さい。この会議室を出た後も同じです。一緒にやる仲間ですから、早く仲良くなりたいという気持ちは分かります。会ったばかりの人との関り方を学ぶことも、目的のひとつです。また、各インターンシップ生の安全を考えてのことです。エントリーシートに書かれている内容、選考を重ねているので、当社としては見知らぬ方ではありませんが。……今回の題材がいい例です。知らない人の車には乗らないように。……この時間は終了です」
黒崎は笑顔を向けているが、普段のしゃべり方に戻していた。会場内がどよめいている。さっきまでの、”優しくて面白い人”が豹変したことと、誰がやったのか?という反応だ。会場内が静まり返った後、黒崎が壇上から降りた。
司会者から、休憩時間に入る旨のアナウンスが流れた後、さらにざわめきが大きくなった。俺と平田のそばにやって来た黒崎が、壇上から見えたものを話し始めた。さっそく犯人探しが始まっているという。その犯人候補が、佐伯理久だという。
夏樹の周りには参加者が集まった。黒崎という名で、関係者だと気づいたのだろう。その中には理久がいた。他にも参加者がいたというのに、どうして理久だけの名前があがっているのか?それについては、平田から訳を聞くことができた。
「この後、みんなでご飯を食べに行こうと話していたのは、B列と、F列の斎藤です。……G列の佐伯君は……」
「佐伯君がどうした?」
「みんなが夏樹君に連絡先を聞いこうとしていました。そのタイミングで佐伯君が夏樹君に声をかけたので、佐伯君が悪者になったようです」
「身代わりなのか」
毎度のことだ。山岡の件は別として、このケースは大した事ではない。ルール違反を注意しただけのことだ。それを大きな失敗だととらえて、身代わりを差し出して逃げ出したということだ。素直に謝ろうとする者はいないのだろうか?当たり前のことが出来る人材がほしいのに。
すると、黒崎が理久のほうを見た。参加者の数人から責められている様子だ。そして理久が席を立った。トイレに行くのだろうか?その予想が外れ、近くに立っている枝川の元に行った。間髪入れずに頭を下げている。
その光景を見てホッとした。非を認めて謝罪するという筋を通したからだ。これなら、こちらからのフォローが可能だ。大勢のなかにいると、自分の声の大きさが分かりづらくなるものだ。ささやき声のつもりでも、無意識のうちに大きくなっている。参加者たちの会話が聞こえてきた。
「ヤバくない?そんな子がいたんだ?」
「さっきの子たちでしょうー?ほら、集まって大きな声で話してたもん」
「笑って済んでいたでしょう?」
「他にもあったんだよ。しつこくされたって」
「……えー?覚えられているんじゃない?」
「……その子たち、終わったねー。ここじゃ受ける意味ないね」
「……同じ大学の奴、可哀そうだな」
そんなやり取りを聞いていると、イヤホンから枝川の声が聞こえてきた。理久が謝罪にきたこと、夏樹にも謝罪したいこと、参加を取りやめたいと申し出ているという。もちろん引き止める。
「……枝川。通路で待たせておいてくれ。僕が話す」
「……承知しました。佐伯君、通路に出よう」
枝川が理久を連れて会議室を出た。その後姿を見ているグループが、スマホを操作し始めた。いい理由ではないだろう。自分も会議室を出るために、近道として夏樹のそばを通った。その際にも会話が聴こえてきた。
「私のせいじゃないわよー」
「ええー、タツヤが帰らされたの?」
「レポート提出扱いになるからだよ。ここでやっとけば楽だからって」
「……違うだろ。あいつが悪いだろ?……今度のメンバー、はずしとこう」
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