回転木馬の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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6-5(悠人視点)

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 午前10時半。

 都営地下鉄から電車を降りた後、4番出口から地上へ出た。方向を確かめるためにアプリを見た。何度も来ているが、そそっかしい自分としては確認が必要だ。こうしておけば慌てずに済む。恥ずかしがっていると大きな失敗になるし、迷子になるという迷惑をかける。早瀬から言い聞かされたことだ。

「ふむふむ。この方向だね……」

 歩いているのは商店街のような場所だ。ゴミひとつ落ちていないし、歩いている人はのんびりしている。タワーマンションが見えたかと思えば、レトロな喫茶店やおもちゃ屋がある。いろんなテイストが混ざっていて面白い。夏樹が気に入るわけだ。

 徒歩10分程で夏樹の家に到着する。すると、住宅街へ進む坂が見えてきた。動物病院を見つけた。如月のお祖父さんがやっている。御園クリニックと処方箋薬局もある。

「よーし、ここから……」

 ここまで来れば迷うことはない。まっすぐ登っていけばいい。着替えの入ったバッグと田中屋の紙ぶくろを持ち直した。いかにも遊びに来ましたというスタイルだ。

 黒崎家が近くなると、近所の人から声を掛けられた。遠藤さんの家に行くたびに会う人だ。“今日はこれから行くの?黒崎さんの家に行きます。気を付けてね”。そんな会話をしつつ向かっていると、森のような光景が広がった。さらに、大小の門が見えてきた。

 小さい門へ向かっていると、誰かが立っているのが見えた。敷地内を覗いているようだ。夏樹は居るはずから、インターフォンを押せばいいのに。近づいて行くと、もう一人いることが分かった。男二人だ。

「ご近所さんかな?なんか変だな……」

 そのまま歩き進んでいくと、どこかへ行く素振りになった。こっちを見ていなかったが、気づいたかもしれない。なるべく早足で近づいて到着した時には、彼らが角を曲がって見えなくなっていた。夏樹に伝えておこう。

 リーーン、リーーン。

 インターフォンを押すと、すぐに夏樹が出てきた。牛柄の白黒模様パーカを着ていて、吹き出しそうになった。浅草スタイルではなかった。

「いらっしゃーい。待っていたんだよ。迷子にならなかったんだね。安西さんから聞いたんだ。悠人に会ったって」
「さっきの人?」
「うん。悠人が坂を上がっている時に見かけたって言っていたよ。車からだよ。門のそばに居た時に話したんだ」
「じゃあさっきの人は違うのか……」
「どうしたの?」

 話すべきかどうか戸惑った。今更ながらだ。先に黒崎さんへ話した方がいいだろうか?いや、2人でいるからこそ気をつけておきたい。先に入ってからにしよう。

「入ってから話すよ。お邪魔します」
「はいはい。どうぞ。アンー、そのスリッパは悠人が履くんだよ。こっちにしなさい」
「へへへ、夏樹の古いスリッパで遊ぶんだね。黒崎さんの分じゃないの?大好きなのに」
「それがねえ。俺も方がいいんだって」
「ふむふむ。君の方が足が臭うんだねー」
「意地悪を言うなよ~」

 スリッパを履かなくても構わないぐらいだ。床が綺麗に掃除されている。いつもながら、几帳面な子だと思った。

 今日は黒崎家のお父さんの家にもお邪魔する。一回だけ立ち寄ったことがある。挨拶程度だった。今日は2階の図書室で、天体観測系の本を見せてもらえる。

 午後はリクが来るのを待って、この家の庭を走る。楽しみで仕方がないのに、ふとした時に、早瀬のことが思い浮かんでいる。今ごろどうしているのかな?と。
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