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翌日。2月15日、午前6時。
バレンタインイベントから一夜明けた。今日はオーディション当日だ。ただし、夏樹はまだ知らない。遠藤さんから黒崎さんへ連絡を入れて、急遽IKUへ来てくれないか?という話をする。俺の方からも夏樹へラインを入れて、ぜひ行かないか?と誘う。こんな段取りができている。嘘をついたことは、いつか打ち明ける。
今の心配は早瀬のことだ。昨夜遅くに、黒崎さんと電話で話していた。ステージは楽しかったし、夏樹と俺が輝いていたのが嬉しかったと笑っていた。その後、話が変わった。昨日の件で黒崎さんが怒っている。収まりそうもないぐらいだ。あのステージが事前に準備されていたのは、黒崎さんは知らなかった。来週、黒崎さんが高宮さんと話し合いの場を持つことになった。今日のオーディションは変更しない。
(それでもチャンスが欲しい。俺は……)
黒崎さんが怒るのは当然だ。所属契約を交わしたのに、事前に教えてもらえなかった。俺は途中で察したが、気づかないふりをしたことには罪悪感がある。
カタカタ……。
今朝は二人でキッチンに立っている。朝ご飯の支度をしながら、お互いに正直に心の内を話した。黒崎さんは早瀬には腹を立てていない。お互いに騙されたのも同じだ。お互いに、パートナーのことを応援していることも。こういう時なのに、味噌汁も卵焼きも上手に仕上がった。
「裕理さん。元気を出してね。どうしてここまでしたのかな。何か知っている?」
「……まだ確証はない。蔵之介を経由して、佐久弥に連絡が取れた。……高宮さんと意見が衝突したそうだ。高宮さんとしては、バンドが終わった後に、夏樹君をPOPS歌手へ引っ張る考えだ。……それを佐久弥が止めた。自由を奪うなと。バンドのボーカルになって貰いたいそうだ。夏樹の希望通りに」
「佐久弥は勝負をかけているんだ。今まで自分がやって来たことの成果が分かるって。今度は育てる側になりたいって。俺も手伝うよ!でもさー。ソロ活動は普段通りの感じだよね?どうしてありのままにこだわるのかな?イメージを作っても良いと思うんだ。少しぐらいは……」
「佐久弥はね。7歳まで女の子として育てられていた。生みのお母さんが離婚して出て行った後、やっと男の子の服を着られたんだ」
「なんだよ、それ!?」
背中がぞくっと震えた。今の母親とは仲が良いと聞いた。理久もそう言っていた。あの子は天真爛漫なふりをしている。今も何かあるのだろう。早瀬から頭を撫でられて、違うよと否定された。伝わったのか。
「今のお母さんは優しい人だよ。佐久弥が9歳の時に、お父さんと結婚した。……よく覚えている。久弥を遊びに呼んでやって頂けませんか?って、うちの両親へ頼みに来たんだ。もちろん両親は引き受けた。気になっていたからね。……俺と蔵之介も頼まれたよ。”久弥と遊んであげてね”って。胸が痛かったよ。それまでも遊んでいたからね。……この話は圭一さんにはしていない。佐久弥から話すことだ。必要なら」
「許す方向へ行くと思うよ……」
「だめだよ。誇りを傷つけることになる。圭一さんの方から事情を聴くはずだ。俺には聞いてこなかった。他に何かあるのは分かっている」
「難しいね……。人間関係のことだよ。どうしてストレートに言えないのかな」
「まだ信頼関係ができていない。そういう理由もある」
やっぱり難しい。祖母から教わったのは、不義理なことをしてはいけないという話だ。いくら実力を見たいとはいえ、下手に見ていると思われても仕方がない。
何かできることはないだろうか?早瀬のことを見上げて、胸が痛くなった。ヒーローでもクランでもない。仕事の顔だろうか?不機嫌ではない。強い意志を感じる目をしている。
バレンタインイベントから一夜明けた。今日はオーディション当日だ。ただし、夏樹はまだ知らない。遠藤さんから黒崎さんへ連絡を入れて、急遽IKUへ来てくれないか?という話をする。俺の方からも夏樹へラインを入れて、ぜひ行かないか?と誘う。こんな段取りができている。嘘をついたことは、いつか打ち明ける。
今の心配は早瀬のことだ。昨夜遅くに、黒崎さんと電話で話していた。ステージは楽しかったし、夏樹と俺が輝いていたのが嬉しかったと笑っていた。その後、話が変わった。昨日の件で黒崎さんが怒っている。収まりそうもないぐらいだ。あのステージが事前に準備されていたのは、黒崎さんは知らなかった。来週、黒崎さんが高宮さんと話し合いの場を持つことになった。今日のオーディションは変更しない。
(それでもチャンスが欲しい。俺は……)
黒崎さんが怒るのは当然だ。所属契約を交わしたのに、事前に教えてもらえなかった。俺は途中で察したが、気づかないふりをしたことには罪悪感がある。
カタカタ……。
今朝は二人でキッチンに立っている。朝ご飯の支度をしながら、お互いに正直に心の内を話した。黒崎さんは早瀬には腹を立てていない。お互いに騙されたのも同じだ。お互いに、パートナーのことを応援していることも。こういう時なのに、味噌汁も卵焼きも上手に仕上がった。
「裕理さん。元気を出してね。どうしてここまでしたのかな。何か知っている?」
「……まだ確証はない。蔵之介を経由して、佐久弥に連絡が取れた。……高宮さんと意見が衝突したそうだ。高宮さんとしては、バンドが終わった後に、夏樹君をPOPS歌手へ引っ張る考えだ。……それを佐久弥が止めた。自由を奪うなと。バンドのボーカルになって貰いたいそうだ。夏樹の希望通りに」
「佐久弥は勝負をかけているんだ。今まで自分がやって来たことの成果が分かるって。今度は育てる側になりたいって。俺も手伝うよ!でもさー。ソロ活動は普段通りの感じだよね?どうしてありのままにこだわるのかな?イメージを作っても良いと思うんだ。少しぐらいは……」
「佐久弥はね。7歳まで女の子として育てられていた。生みのお母さんが離婚して出て行った後、やっと男の子の服を着られたんだ」
「なんだよ、それ!?」
背中がぞくっと震えた。今の母親とは仲が良いと聞いた。理久もそう言っていた。あの子は天真爛漫なふりをしている。今も何かあるのだろう。早瀬から頭を撫でられて、違うよと否定された。伝わったのか。
「今のお母さんは優しい人だよ。佐久弥が9歳の時に、お父さんと結婚した。……よく覚えている。久弥を遊びに呼んでやって頂けませんか?って、うちの両親へ頼みに来たんだ。もちろん両親は引き受けた。気になっていたからね。……俺と蔵之介も頼まれたよ。”久弥と遊んであげてね”って。胸が痛かったよ。それまでも遊んでいたからね。……この話は圭一さんにはしていない。佐久弥から話すことだ。必要なら」
「許す方向へ行くと思うよ……」
「だめだよ。誇りを傷つけることになる。圭一さんの方から事情を聴くはずだ。俺には聞いてこなかった。他に何かあるのは分かっている」
「難しいね……。人間関係のことだよ。どうしてストレートに言えないのかな」
「まだ信頼関係ができていない。そういう理由もある」
やっぱり難しい。祖母から教わったのは、不義理なことをしてはいけないという話だ。いくら実力を見たいとはいえ、下手に見ていると思われても仕方がない。
何かできることはないだろうか?早瀬のことを見上げて、胸が痛くなった。ヒーローでもクランでもない。仕事の顔だろうか?不機嫌ではない。強い意志を感じる目をしている。
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