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食べ終わった後、テレビを観ながら、お互いの日課を始めた。法学系の期末試験対策と、早瀬はメールチェックだ。早瀬からのちょっかいを受けながらやっている。髪の毛を触られた後、鼻をつままれた。
「触るなってーー」
「エクステが絡んでいるからだ。いいよ、これで」
「そうだったんだ……」
人工毛だから絡みやすい。プロモーションビデオ撮影が終われば外せる。もう少しの我慢だ。すると、後ろで束ねた髪に違和感が起きた。ここで反応すると思うつぼだ。気づかないふりをして、パソコンに向かった。
「ゆうとー、こっちを向いてごらん」
「あとにしてよ……」
「そうか。じっとしていろ……」
「なななに……?」
振り向くと熱い息がかかった。軽いキスというレベルではない。押し倒される勢いでされて、実際にラグの上に寝転がった。この展開は”マズイ”ものだ。
「裕理さん。6時40分だよ。ほら、41分になったよ」
「まだ30分は時間がある」
「時間がないってば。先週はバタついて出ただろ?だから。んんー」
「昨日も今朝も抱いていない」
「土曜日、たっぷりしただろーー」
「日課だ。調子が悪い」
「発情期なわけ?離してよーー」
どうしよう?前門の虎・後門の狼の状況だ。一つの災難を逃れても、またもう一つの災難が襲ってくることの例えである。
後ずさりをすると抱き寄せられた。身体を押しのけようとすると、手首を掴まれてラグに押し付けられた。手加減はしているだろうが、この人は力が強い。痛くない程度の力のはずが、俺は非力だから動くことができない。せめて文句を言おう。
「もうっ、勉強したいからーーっ」
「よくしゃべる子だ。塞いでしまえ」
「んん……んん……」
吸引力のいいキスを受け取った。このまま流されたくない。あれこれ考えていると、天の助けが来た。ラインが入ったようだ。
「ゆうとー、後にしろ」
「もう……、加藤さんかもしれないだろ」
「はい、どうぞ」
「宮田さんからだよ!ふむふむ。……キクチ屋のスコーンを届けます。いつが都合がいいかな?だって。やったー」
さっそく宮田さんに電話をかけた。この時間がお互いに連絡が取りやすい。藍生が生まれた後、父との関係が変化した。俺は藍生に会いに行きたい。父の方も遊びに来てもらいたい。お互いに会いたくなるという気持ちの変化を、一年前の自分が聞いたら驚くだろう。
宮田さんには、子育ての相談相手が身近にいない。両親からは一度も連絡がない。親しい友達は遠くに住んでいるし、こっちにいる友達の中では、彼女だけが子育て中だ。
父がフォローしようにも、俺の子育てに関わっていないから、勝手が分からない。早く覚えろとツッコミを入れても怒らないし、妙に嬉しそうにもしている。そして、藍生が大人たちに囲まれていることが嬉しくなった。
「もしもしー。おはよう。取りに行くよ」
「……おはよう。ありがとう。今日の夜に。……あら。藍生が泣いているわ、ちょっと待ってねー」
「泣いてるのかー。へへへ」
たしかに、ぐずぐずと泣いている声がしている。俺の顔や声を覚えてくれた。人見知りが始まったのに、俺のことは平気だ。なんて可愛いのか。父が抱くと嫌がっている。それも嬉しい。
「……おまたせ。……お兄ちゃんと話してるのよ?」
「あおいー、お兄ちゃんだぞ。君の服を買うために頑張っているんだぞ!」
「よかったわねー。ああーー、スマホを取られた……」
「いいよー。俺のことが分かるの?君は天才だねー。へへへ。じゃあねー」
電話を切った後、早く会いたくなった。何か買ってあげたい。遊びに連れて行きたい。もっと頑張ろうと思う。大学生になった後で妹が産まれて良かった。子供の頃なら、うっとおしいと思ったかもしれない。
「……悠人君。たい焼きを買って行こう。美味しい店を教えてもらった」
「ありがとう。裕理さんはさすがだね。抱っこの仕方が上手だもん。藍生を遊ばせるのも上手だし」
「妹の面倒を見たからだ。5歳しか離れていないけど、子供からすると大きな差だ。悠人君の子供時代を見たかったな。……今でも可愛い子供だけど」
「もうーー。どさくさに紛れて……」
両方の頬をぐりぐり撫でられた。額やこめかみに何度も唇を押し当てられた。エロいムードではない。愛おしむようにされて、胸が痛くなった。早瀬こそ仕事で疲れているはずなのに、俺のことだけを優先している。
昇進する前のことを思い出して話しても、平気だとしか言わない。俺の方こそフォローしたいのに、音楽業界に右往左往して、心の余裕がない状況だ。
そういう俺を見て、さらに甘やかしてくる。心地いい。申し訳ない。抱き着くことでお礼を伝えて、今夜は早く寝ろと諭した。
「触るなってーー」
「エクステが絡んでいるからだ。いいよ、これで」
「そうだったんだ……」
人工毛だから絡みやすい。プロモーションビデオ撮影が終われば外せる。もう少しの我慢だ。すると、後ろで束ねた髪に違和感が起きた。ここで反応すると思うつぼだ。気づかないふりをして、パソコンに向かった。
「ゆうとー、こっちを向いてごらん」
「あとにしてよ……」
「そうか。じっとしていろ……」
「なななに……?」
振り向くと熱い息がかかった。軽いキスというレベルではない。押し倒される勢いでされて、実際にラグの上に寝転がった。この展開は”マズイ”ものだ。
「裕理さん。6時40分だよ。ほら、41分になったよ」
「まだ30分は時間がある」
「時間がないってば。先週はバタついて出ただろ?だから。んんー」
「昨日も今朝も抱いていない」
「土曜日、たっぷりしただろーー」
「日課だ。調子が悪い」
「発情期なわけ?離してよーー」
どうしよう?前門の虎・後門の狼の状況だ。一つの災難を逃れても、またもう一つの災難が襲ってくることの例えである。
後ずさりをすると抱き寄せられた。身体を押しのけようとすると、手首を掴まれてラグに押し付けられた。手加減はしているだろうが、この人は力が強い。痛くない程度の力のはずが、俺は非力だから動くことができない。せめて文句を言おう。
「もうっ、勉強したいからーーっ」
「よくしゃべる子だ。塞いでしまえ」
「んん……んん……」
吸引力のいいキスを受け取った。このまま流されたくない。あれこれ考えていると、天の助けが来た。ラインが入ったようだ。
「ゆうとー、後にしろ」
「もう……、加藤さんかもしれないだろ」
「はい、どうぞ」
「宮田さんからだよ!ふむふむ。……キクチ屋のスコーンを届けます。いつが都合がいいかな?だって。やったー」
さっそく宮田さんに電話をかけた。この時間がお互いに連絡が取りやすい。藍生が生まれた後、父との関係が変化した。俺は藍生に会いに行きたい。父の方も遊びに来てもらいたい。お互いに会いたくなるという気持ちの変化を、一年前の自分が聞いたら驚くだろう。
宮田さんには、子育ての相談相手が身近にいない。両親からは一度も連絡がない。親しい友達は遠くに住んでいるし、こっちにいる友達の中では、彼女だけが子育て中だ。
父がフォローしようにも、俺の子育てに関わっていないから、勝手が分からない。早く覚えろとツッコミを入れても怒らないし、妙に嬉しそうにもしている。そして、藍生が大人たちに囲まれていることが嬉しくなった。
「もしもしー。おはよう。取りに行くよ」
「……おはよう。ありがとう。今日の夜に。……あら。藍生が泣いているわ、ちょっと待ってねー」
「泣いてるのかー。へへへ」
たしかに、ぐずぐずと泣いている声がしている。俺の顔や声を覚えてくれた。人見知りが始まったのに、俺のことは平気だ。なんて可愛いのか。父が抱くと嫌がっている。それも嬉しい。
「……おまたせ。……お兄ちゃんと話してるのよ?」
「あおいー、お兄ちゃんだぞ。君の服を買うために頑張っているんだぞ!」
「よかったわねー。ああーー、スマホを取られた……」
「いいよー。俺のことが分かるの?君は天才だねー。へへへ。じゃあねー」
電話を切った後、早く会いたくなった。何か買ってあげたい。遊びに連れて行きたい。もっと頑張ろうと思う。大学生になった後で妹が産まれて良かった。子供の頃なら、うっとおしいと思ったかもしれない。
「……悠人君。たい焼きを買って行こう。美味しい店を教えてもらった」
「ありがとう。裕理さんはさすがだね。抱っこの仕方が上手だもん。藍生を遊ばせるのも上手だし」
「妹の面倒を見たからだ。5歳しか離れていないけど、子供からすると大きな差だ。悠人君の子供時代を見たかったな。……今でも可愛い子供だけど」
「もうーー。どさくさに紛れて……」
両方の頬をぐりぐり撫でられた。額やこめかみに何度も唇を押し当てられた。エロいムードではない。愛おしむようにされて、胸が痛くなった。早瀬こそ仕事で疲れているはずなのに、俺のことだけを優先している。
昇進する前のことを思い出して話しても、平気だとしか言わない。俺の方こそフォローしたいのに、音楽業界に右往左往して、心の余裕がない状況だ。
そういう俺を見て、さらに甘やかしてくる。心地いい。申し訳ない。抱き着くことでお礼を伝えて、今夜は早く寝ろと諭した。
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