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14時半。
実家の早瀨家に向かっているところだ。2年ぶりだろうか?この住宅街に訪れたのは。黒崎製菓へ移ってきたあたりに、実家へ顔を出して以来だ。この角を曲がれば佐伯家がある。叔母さんに挨拶をして帰ろう。理久は大学だろうか?久弥は家にいるだろうか?今日は幼なじみとして話がしたくなった。
早瀬家の門の前に立った。背の高い塀に囲まれた閉鎖的な家だ。親父とは外で会えばいいから用はない。母と父が離婚調停中であること。父が千尋製菓から退くこと。それに影響されてなのか、祖父からは黒崎家の二葉という娘との縁談を求めている。早瀬家の意思だ。祖父と叔父が食らいついてくる。
何を守る必要があるのか?名声と世間体を大事にしている人達だ。社交界のポジションを維持するためだ。本当にくだらない。長男として迎えられた以上、義務を押し付けられる。
今から会いに行く相手も、被害ともいえる影響を受けた子だ。学業よりも、音楽関係に秀でた子だ。音大への進学を勧められても嫌がった。好きなことをやれるというのに。上手い生徒はいくらでもいる。打ちのめされたくないからだ。否定されることも嫌がったからだった。
母は莉奈の進学や就職などの全ての事に関わり、彼女よりも先に決定していた。ある種の共依存の関係性になった。本人は母の希望に応えるようにしてきた。いい子の莉奈であり続けようとした。自分で何も決めることが出来ず、柔軟性まで失ってしまった。
実際に社会に出ると、上司から注意されたり怒られたりすることばかりだ。それにも耐性がなかった。自分が悪いことを認めないようだ。会社で上手くいかない原因の一つだ。いい子でいれば問題なかった、学生時代とは違う。それを母が教えなかったのが腹が立つ。
(母も会社勤めはしたはずだ。でも、早瀬家のお嬢様には誰も叱れない。莉奈も同じじゃないのか?よっぽどのことか?……あれは強烈だった。母を軽蔑した日だ。あれも原因だろう)
忘れる事が出来ない。当時の莉奈は小学6年生だった。母との3人で買い物に行った先での出来事だ。店員が会計後のつり銭の額を間違えた。それに対して、莉奈が店を出た後で口にした。
(態度も悪かったし、ムカツく。万引きでもしてやろうかな……か)
莉奈の発言を聞いた母が叱りつけるものだと思っていた。しかし、意外にも反対の事を口にした。同じような気持ちになったことがあると言い出した。そして、莉奈がこう言った。お母さんも間違った事を言うのねと。俺が叱っても聞く耳を持たなかった。
(お兄ちゃんはいい子だもんね、か……)
少なくとも6年間は口を聞いていない。社会人になった後の彼女のことを知らない。
カチャ、ガーーー。
セキュリティを解除して門を開いた。何年ぶりに帰ろうが勝手は分かっている。システムを変更すれば入らずに済むのだが。もしそうなれば、両親から解除の方法を教えられるだろう。俺はそれを覚えてしまう。心の底から拒否が出来ない。
(親父がこの家を出て行くのは……、年明けか。不貞行為があると騒がれたくないからだろう。お母さんが言うだろな。私は悪くない!あの人が悪いの!って……)
いつの代からそうなったのか?生みの母がこの家を嫌がり、外の世界に飛び出したのは大正解だろう。4歳まで一緒に暮らしていたが、どんな人だったか記憶はない。
当時はマンションで暮らしていた。たまに男性が訪れては俺と話した。本当の父親ではない。黒い瞳をしていたからだ。その人から質問されて、それに答える形だ。なぞなぞクイズか?そういう風に思っていた。優しい目をしていた人だった。こう聞かれたことがある。
おじさんの家で暮らさないか?お兄ちゃん達が住んでいるよ。きっと気が合う。広い庭がある。ひまわりと白い花が咲いているよと。
(一度遊びに行ったことがあると思う。女性に会って、ピアノを弾かせてもらった……)
ガタ……。
洋館の玄関の前に立った。俺が遊びに連れて行ってもらったあの家は明るかったはずだ。この家とは反対だ。都合のいい記憶のすり替えだとは思いたくない。ドアを開こうとしてやめた。インターフォンを鳴らすことにした。ここは自分の家ではない。
「……こんにちは」
「……おかえりなさいませ。どうぞ」
お手伝いさんが出てきて、ドアが開かれた。自分が住んでいた頃のお手伝いさんは、すでに働いていない。壁のクロスを貼り換えたばかりなのか、薬剤の匂いがしている。わずかなものでも気がつくほど、久しぶりに来たということか。
この玄関ホールの先には、二階へ続く階段がある。そこを上がれば莉奈の部屋がある。ノックすれば開かれるだろうか?
実家の早瀨家に向かっているところだ。2年ぶりだろうか?この住宅街に訪れたのは。黒崎製菓へ移ってきたあたりに、実家へ顔を出して以来だ。この角を曲がれば佐伯家がある。叔母さんに挨拶をして帰ろう。理久は大学だろうか?久弥は家にいるだろうか?今日は幼なじみとして話がしたくなった。
早瀬家の門の前に立った。背の高い塀に囲まれた閉鎖的な家だ。親父とは外で会えばいいから用はない。母と父が離婚調停中であること。父が千尋製菓から退くこと。それに影響されてなのか、祖父からは黒崎家の二葉という娘との縁談を求めている。早瀬家の意思だ。祖父と叔父が食らいついてくる。
何を守る必要があるのか?名声と世間体を大事にしている人達だ。社交界のポジションを維持するためだ。本当にくだらない。長男として迎えられた以上、義務を押し付けられる。
今から会いに行く相手も、被害ともいえる影響を受けた子だ。学業よりも、音楽関係に秀でた子だ。音大への進学を勧められても嫌がった。好きなことをやれるというのに。上手い生徒はいくらでもいる。打ちのめされたくないからだ。否定されることも嫌がったからだった。
母は莉奈の進学や就職などの全ての事に関わり、彼女よりも先に決定していた。ある種の共依存の関係性になった。本人は母の希望に応えるようにしてきた。いい子の莉奈であり続けようとした。自分で何も決めることが出来ず、柔軟性まで失ってしまった。
実際に社会に出ると、上司から注意されたり怒られたりすることばかりだ。それにも耐性がなかった。自分が悪いことを認めないようだ。会社で上手くいかない原因の一つだ。いい子でいれば問題なかった、学生時代とは違う。それを母が教えなかったのが腹が立つ。
(母も会社勤めはしたはずだ。でも、早瀬家のお嬢様には誰も叱れない。莉奈も同じじゃないのか?よっぽどのことか?……あれは強烈だった。母を軽蔑した日だ。あれも原因だろう)
忘れる事が出来ない。当時の莉奈は小学6年生だった。母との3人で買い物に行った先での出来事だ。店員が会計後のつり銭の額を間違えた。それに対して、莉奈が店を出た後で口にした。
(態度も悪かったし、ムカツく。万引きでもしてやろうかな……か)
莉奈の発言を聞いた母が叱りつけるものだと思っていた。しかし、意外にも反対の事を口にした。同じような気持ちになったことがあると言い出した。そして、莉奈がこう言った。お母さんも間違った事を言うのねと。俺が叱っても聞く耳を持たなかった。
(お兄ちゃんはいい子だもんね、か……)
少なくとも6年間は口を聞いていない。社会人になった後の彼女のことを知らない。
カチャ、ガーーー。
セキュリティを解除して門を開いた。何年ぶりに帰ろうが勝手は分かっている。システムを変更すれば入らずに済むのだが。もしそうなれば、両親から解除の方法を教えられるだろう。俺はそれを覚えてしまう。心の底から拒否が出来ない。
(親父がこの家を出て行くのは……、年明けか。不貞行為があると騒がれたくないからだろう。お母さんが言うだろな。私は悪くない!あの人が悪いの!って……)
いつの代からそうなったのか?生みの母がこの家を嫌がり、外の世界に飛び出したのは大正解だろう。4歳まで一緒に暮らしていたが、どんな人だったか記憶はない。
当時はマンションで暮らしていた。たまに男性が訪れては俺と話した。本当の父親ではない。黒い瞳をしていたからだ。その人から質問されて、それに答える形だ。なぞなぞクイズか?そういう風に思っていた。優しい目をしていた人だった。こう聞かれたことがある。
おじさんの家で暮らさないか?お兄ちゃん達が住んでいるよ。きっと気が合う。広い庭がある。ひまわりと白い花が咲いているよと。
(一度遊びに行ったことがあると思う。女性に会って、ピアノを弾かせてもらった……)
ガタ……。
洋館の玄関の前に立った。俺が遊びに連れて行ってもらったあの家は明るかったはずだ。この家とは反対だ。都合のいい記憶のすり替えだとは思いたくない。ドアを開こうとしてやめた。インターフォンを鳴らすことにした。ここは自分の家ではない。
「……こんにちは」
「……おかえりなさいませ。どうぞ」
お手伝いさんが出てきて、ドアが開かれた。自分が住んでいた頃のお手伝いさんは、すでに働いていない。壁のクロスを貼り換えたばかりなのか、薬剤の匂いがしている。わずかなものでも気がつくほど、久しぶりに来たということか。
この玄関ホールの先には、二階へ続く階段がある。そこを上がれば莉奈の部屋がある。ノックすれば開かれるだろうか?
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