回転木馬の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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24-1 母との会話

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 9月17日、火曜日。午前6時。

 カレンダーを見ると、72候の欄には、玄鳥去・つばめさると書かれている。

「夏に子育てしていたツバメを見かけなくなったら、秋が深くなってきた証拠。……マロン系のお菓子が増えてきたねー」
「……黒崎製菓でも取扱いが増えたよ」
「変わりやすいと言われる秋の空。……ヴィジブルレイ。すぐに人気がなくなるかなー」
「……ネガティブゆうと。まだ始まる前だぞ」
「人気がダイレクトに返ってくるもん」 
「はいはい。これでも先に食べておけ」
「へへへ……」

 これから朝ご飯を食べるところだ。早瀬から差し出されたのは、ミネストローネスープだ。晩ご飯の分と、朝ごはんの分を分けておいた。今朝は大豆を追加した。俺が初めて作った。ゴロゴロ大きすぎるニンジンが、カップから飛び出している。

 コト……。

 スープカップをテーブルに置いた。ホカホカの湯気が立っているのを見ると、気持ちがホッとした。

 1ヶ月前の打ち上げパーティーを皮切りに、デビューに向けての活動が一気に増した。バンド練習と、デビューステージの構成を頭に叩き入れることをやっている。約2週間後には、ベテルギウスのカバーアルバムが発売される。その中の№3、”ヴィジブルレイ” という楽曲に、ギタリストとして参加した。ボーカルは夏樹だ。

 10月1日にカバーアルバム参加でプロデビュー、10月30日には、ヴィジブルレイのメンバーとしてのデビューを迎える。

 まだ10代であるため、契約を始めとして、色んな場面で親の同意を必要とした。IKUとの所属契約、ヴィジブルレイとしての契約については、保護者の同意が必要だった。父からは音楽活動を応援されている。一旦は親として反対された。それが嬉しかったのが不思議だ。

 母も保護者だが、今回の契約には関わっていない。デビューすることだけを伝えてある。父と宮田さんが上手くいっていることを知っているから、俺にも関わって来ようとしないと思う。あくまでも想像でしかない。

(お父さんが付いているから。いまさら話したくないだろう。会社があるし、付き合っている人もいるし……)

 両親の仲たがいが母の会社の件だと察した。最近になって気づけたことだ。母の方が先に有名になったから、男としてのプライドが許さなかったのではないかと思っている。あくまでも想像だ。パートナーが成功するのは嬉しいことだと思う。たしかに忙しくて家に居ないのは、すれ違いの原因になる。お互いに何か工夫努力したのか?それはないと思う。

 早瀬のことを眺めた。楽しそうに料理を作っている。会社では人望も厚いそうだ。桜木さんからそう聞いた。忙しいのに、俺のことをサポートして、ここまで導いてくれた。

(いつか両親みたいになるのかな?すれ違っていって……。まだ新人だからいいのかな……)

 ネガティブのループが始まった。ここでやることは決まっている。そばに居る時には、すぐに話すことだ。背後から抱きつきたい。いつもならステップを踏むが、今はそういう空気ではない。

「裕理さーん」
「どうした?」
「ネガティブが始まったんだ。そっちに行ってもいい?」
「おいで」
「うん……」

 ずっと欲しかった時間を手に入れた。この関係が変化するのか?そんな悪い妄想をしている。それを口にすると、早瀬が豪快に笑い出した。

「ははははーー。手元が狂ったじゃないか」
「ホッとしたよーー。それはないんだねーー」
「あたりまえだ。もし気になるなら、君のことを応援していない。有名になっても変化はないと断言できる。どうしてなのか分かるか?」
「俺のことが好きだから?」
「それが一番の理由だ。それとね、劣等感のポイントが違うからだ。大抵の男が劣等感を持っているだろう?」
「そうなんだ?俺は劣等感の塊だけどさ……。裕理さんも持っているの?」
「俺だって人間だ。……上手く出来ないって落ち込むタイプと、他人と自分をくらべて優越感を持つタイプ。この二つがある。俺も君も、落ち込むタイプだ。そうだろう?優越感を持っているか?」
「ううん。持たないよ」
「だからだ。悠人君が有名になっても、足を引っ張ることはしない。寂しくて駄々をこねるぐらいだ」
「へへへ。そんな裕理さんなら大歓迎だよー」

(そうなのか。劣等感からもパートナーと上手くいかなくなるのか。お父さんは劣等感の塊なのかな……)

 今までのことを思い出すと腑に落ちるようで、そうではない。俺と同じように祖父から注意されて育った人だ。早瀬に出会っていなければ、俺は父のような男になったのかも知れない。すると、早瀬が言った。

「弱々しくて気が小さい。それが男だ。俺も同じだ」
「裕理さんは強いだろー。あ……、ラインが入った」

 この時間に送ってくるのは加藤さんだ。しかし、いざ開いてみると、”森井美夕” からだった。母からのメッセージを読んだ。

「この時間にか?朝の方が連絡が取りやすいのか……」
「そうかもねー。株主総会が近いから、夜は忙しいって。”あの店のパスタランチがおいしいわよ“って、仕事モードでハキハキ言うもん。ビックリするよー」

 最近は誘ってもらえない。そもそも、二回しか行かなかった。ラインの内容は短いものだった。電話で話したいと書いてある。家に居るときがいいと。穏やかなことではないと察した。恋人を紹介するなら、こんな言い方はしないはずだ。
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