回転木馬の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 ぐーーきゅるるるるーーー。

「悠人君。グルグル言っているぞ」
「へへへ。おやつを食べていなかったからだよ。一緒に食べたかったから」
「嬉しいことを言ったな。悠人……」
「んん?」
「キス攻撃だぞーー」

 その言葉通りに、顔中にキスをされた。早くご飯を食べて、0時のアルバム楽曲配信に備えたいのに。

「腹の虫には少し我慢してもらう。こっちを向いてごらん」
「離れてよーー」
「やっと元気が出たかのか。ネガティブゆうとー」
「そんなことないよーっ」
「そんなことはある。ユーリの魔法のアイテムを買ってきた。身に着けると、ポジティブが分けてもらえる」
「どこにあるの?これ?」

 テーブルに促されて進むと、早瀬が紙袋から小さな正方形の箱を取り出した。白の布に白のリボンが掛けられている。結婚指輪を買った店のものだ。ということは、アクセサリーだろう。

「へへへ。プレゼント?」
「他の誰にするんだ?こういうアイテムを」
「ヒーローユーリはモテるもん!あっちでこっちで、ステキって……あああ……」

 先週のレストランでの光景を思い出した。黒崎製菓が経営する店で、大人の世界が広がっていた。ドレスコードがあったから、いつもの外食とは反対で、キチンとした服装だった。早瀬が周りから視線を浴びているから、俺としてはヤキモチを妬いた。

「ゆうとー。この間の店でのことか?ベッドで仲直りしたじゃないか。ちゃんと2回して、君の方も……」
「げえええええっ。変なこと言うなーーっ」
「“裕理さん。もっと、もっと、もっと”」
「もう!言ってないから……」

 さっそく開封したいが、すぐに開けるのは勿体ない気がする。どうしようかと迷っていると、開けてごらんと促された。

「どんな物かな?ネックレスがあるからね。ブレスレット?指輪じゃないよね」
「煙が出てくるかも知れないぞ?」
「もうーー」
「レンリノエダーマンかもしれない」
「もう!感激が薄れるだろーー」
「モウモウ言うとウシになるぞー?」
「ヤギになっちゃえ。このラッピングでも食べていろよー」

 白いリボンを口の中に入れてやろうとした。もちろん本気だ。しかし、反射神経がいいから容易く避けられた。そして、今度は俺の頭の上に乗せられた。笑い声を立てて、さらに何かしようとしている。

「可愛いぞー」
「かっこ悪いぞーー」
「いいよ?悠人の前ならどんな俺でもOKだ」
「裕理さん……」
「カッコいいミュージシャンになれ!クールな男とは大して変わらないぞ?言葉が変わっただけだ……」
「本気で笑うなよ!」
「ははははー」
「きいいいいっ」

 右足を振り上げてキックしようとすると、足首を掴まれてしまった。そして、後ろの椅子に座らされた後、くすぐられ始めた。ホールドされているから逃げ出せない。

「ここもかー?」
「わわわっ、やめてよーーっ」
「こっちはどうだーー」
「わああ、くすぐったい……」

 ゴン!

 ムチャな体制だったから、起き上ろうとしてテーブルに頭をぶつけてしまった。今日は何度目だろう。どうして続くのか?早瀬には話してある。見上げると、不思議そうな顔になっている。心配していない。なんて人なのか。

「どうしたの?」
「サクヤの呪いだろうな。軽く頭をぶつけておけと」
「そうかもしれないなー。毒々しい魔法使いの呪いだよ!痛みがおさまったよー」

 抱き起された後、早瀬が隣の椅子に腰かけた。頭を撫でられた後、真面目な顔で見つめられた。そして、おでこ同士が合わされた。

「……頭をぶつけておけと言われただろう?理由がある。キミは頭のいい子だ。耳がよくて、些細な音のズレにも敏感だ。バンド仲間と上手くいかなかっただろう?」
「うん。喧嘩ばかりだった。リズムのズレを指摘した時とか」
「その子には分からないことだったかも知れない。もちろん、分かりやすいズレでも同じだったろう。キミの音楽の才能が高いからだ。悔しかったんだろう。……IRON ANGELは、メンバー全員がそれを受け止めた。高めようと努力した。だから上手くいったんだ。いい意味でのプライドの高さがある」
「そうだと思う。負けていられない。変な意味での競争はなかったよ」
「これからはプロに囲まれる。君の方がヘコむだろうし、反対に技術が高いかもしれない。思いきり妬みを受けるぞー?向けられるのは止まないし、君の方こそ自分と比べて落ち込むだろう。だから頭を……」
「頭をぶつけて鈍感なふりをしろ?」
「そのとおり。リーダーになる男の必須条件だ。5年後にはバンドを立ち上げているだろう。もっと早いかもしれない」
「マジで?佐久弥が言っていたの?」
「さあ?それは分からない。自信を持て!」
「へへへ……」

 どうしよう?嬉しいじゃないか。すると、視界が曇って来た。コンタクトが曇ったことしよう。それにしては潤っている。鈍感なふりをしよう。
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