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カタ……。箱を開けると、小さなチャームが入っていた。雫の形をしている。
「ドロップだね。佐久弥からバンドに誘われたこと知っているの?昨日、話があったばかりだけど……」
「迎えに行ったときに話があった。こういう計画だけどって。いいんじゃないか?って、返事をしておいた」
「佐久弥に見合うようになりたい」
雫の形のチャームを手に取った。いい機会だから聞いてみたくなった。どうしてこのバンド名を考えついたのかを。上から降ってきたのだろうか。そういうことは多いと聞く。
「ディアドロップの名前を考えた時、どんな感じだった?名前の由来は?」
「亡くなったバンドメンバーの名前が由来だよ。アンディープで活動していた時、もう一人もオファーを受けた。佐久弥と一緒にプロの道へ進むことを選んだけど、その返事をした一か月後に、事故で亡くなった」
「話してもいいの?俺が聞き出したけど……」
「今日話すと決めていた。プレッシャーに感じて欲しくない。自信の付いた今だからこそ伝えたい。……亡くなったのは、ベーシストのSHIZUKUだ」
「だから親愛なる雫なのか……」
涙腺が崩壊した。頭をぶつけて泣いて、いいことや、悲しいことを聞いて泣いている。なんて忙しい日だろう。
「SHIZUKUの字は、静と久で静久なんだけど、性格は真逆だった。佐久弥が怒っていたレベルだよ。……久しぶりに静かになってくれ!って。理久が懐いていた。なんでも慎重に考えて行動する子だった。物を言う時も考えていた。今と真逆だろう?」
「そうだけど。理久は深く考えていないふりをしていると思う」
「それは俺達のせいかもしれない」
「ほお……」
静久さんとは佐久弥が大学で出会ってバンドを組み、よく佐伯家に遊びにきていたそうだ。早瀬も一緒に。静久さんは理久のことをイジっては笑わせていたそうだ。--理久君と同じタイプに会ったことがない。またとない、ユニークな君のことが好きだ。そう言われて理久が喜び、お兄ちゃんと呼んで慕っていた。
「……静久が理久にアドバイスをした。そんなに深く考えるなって。それを使って佐久弥がバンド名をつけた。ーーNot deep。深くないっていう意味だろう?……その時に、静久がよけいなことを言った。”もっとディープだと?久弥君、どうしたんだ?”って。しかも理久のいる前で言ったから、佐久弥が怒ったよ。君の場合は深く考えろ!って。仕方がないから、俺が”Undeep”って名付けた。……理久は言いつけを守っているんだろう」
「空気を読まないふりをする時、つらそうな顔をしているよ。元気な子、天真爛漫な子になっているんだ。そうじゃないといけないなんて言っていないだろ?」
「もちろんだ。個性的なことを認めてくれた人だ。ずばっと言葉にしてくれた。……深く考えないことで上手くいくようになったから、OKだって思っただろう」
そういうことか。悪い呪いではない。しかし、自分で苦しめている。比べられることではないが、俺と夏樹にも重なる部分がある。さらに、早瀬から教えてもらった。佐久弥が生まれ変わるステージを観て、理久も天真爛漫な子のふりから脱却すると宣言したことを。
「ディアドロップを思いついたときの話を聞いてくれるか?」
「うん」
早瀬から話を聞いた。静久さんの49日法要で行ったお寺の庭には、朝露が残っていたそうだ。葉っぱについた雫には光が反射して、小さな虹プリズムが出来ていた。その頃はベテルギウスがデビューしていた。植本さんと布川さんが、こう話したそうだ。
(……太陽の光に反射するプリズムのようだ。まるで可視光線だなーー)
そこで思いついたのが、楽曲 ”ヴィジブルレイ” だ。俺たちは英語表記の ”Visible ray” としてデビューする。こんなつながりがあったのか。
「今夜0時。その楽曲でプロデビューする君に、親愛なる雫をプレゼントする。だから頑張れ。いつでもそばにいる」
「ヘコんでも起き上るから!ナツツバキみたいに」
「ああ、そうしよう」
「七転び八起きだよーー。よく見ておいてよーー」
「いつだって見ている」
「へへへ……」
夏椿は一日花。その日に咲いても落ちてしまう。それでもめげずに、来年も花を咲かせる。けっして派手ではない、綺麗な白い花。七転び八起きだ。
白い花に落ちた朝露の雫からは、太陽からの光でプリズムが放たれる。角度を変えて眺めると、波長の長さで色が変化する。まるで可視光線のようだ。
「一緒にステージに立ってくれ」
「うん……っ。もちろんだよ!」
ドロップのチャームをチェーンに通した後、ネックレスを付けてもらった。悲しいのにうれし泣きしている俺には、さらにキスが与えられた。
「俺にとっても、佐久弥にとっても大事な名前だ。キミと夏樹君には、継いでもらいたい。友情の証だ」
「うん!うぇーー、離してよーー」
やっぱり今日は忙しい日だ。頭をぶつけて泣いて、悲しい思い出に笑ってしまい、プレッシャーと意気込みを与えられた。胸には雫が輝いている。こういう時は言葉はいらないだろう。抱き着くことで気持ちを伝えた。頑張るよ。ありがとうと。
「ドロップだね。佐久弥からバンドに誘われたこと知っているの?昨日、話があったばかりだけど……」
「迎えに行ったときに話があった。こういう計画だけどって。いいんじゃないか?って、返事をしておいた」
「佐久弥に見合うようになりたい」
雫の形のチャームを手に取った。いい機会だから聞いてみたくなった。どうしてこのバンド名を考えついたのかを。上から降ってきたのだろうか。そういうことは多いと聞く。
「ディアドロップの名前を考えた時、どんな感じだった?名前の由来は?」
「亡くなったバンドメンバーの名前が由来だよ。アンディープで活動していた時、もう一人もオファーを受けた。佐久弥と一緒にプロの道へ進むことを選んだけど、その返事をした一か月後に、事故で亡くなった」
「話してもいいの?俺が聞き出したけど……」
「今日話すと決めていた。プレッシャーに感じて欲しくない。自信の付いた今だからこそ伝えたい。……亡くなったのは、ベーシストのSHIZUKUだ」
「だから親愛なる雫なのか……」
涙腺が崩壊した。頭をぶつけて泣いて、いいことや、悲しいことを聞いて泣いている。なんて忙しい日だろう。
「SHIZUKUの字は、静と久で静久なんだけど、性格は真逆だった。佐久弥が怒っていたレベルだよ。……久しぶりに静かになってくれ!って。理久が懐いていた。なんでも慎重に考えて行動する子だった。物を言う時も考えていた。今と真逆だろう?」
「そうだけど。理久は深く考えていないふりをしていると思う」
「それは俺達のせいかもしれない」
「ほお……」
静久さんとは佐久弥が大学で出会ってバンドを組み、よく佐伯家に遊びにきていたそうだ。早瀬も一緒に。静久さんは理久のことをイジっては笑わせていたそうだ。--理久君と同じタイプに会ったことがない。またとない、ユニークな君のことが好きだ。そう言われて理久が喜び、お兄ちゃんと呼んで慕っていた。
「……静久が理久にアドバイスをした。そんなに深く考えるなって。それを使って佐久弥がバンド名をつけた。ーーNot deep。深くないっていう意味だろう?……その時に、静久がよけいなことを言った。”もっとディープだと?久弥君、どうしたんだ?”って。しかも理久のいる前で言ったから、佐久弥が怒ったよ。君の場合は深く考えろ!って。仕方がないから、俺が”Undeep”って名付けた。……理久は言いつけを守っているんだろう」
「空気を読まないふりをする時、つらそうな顔をしているよ。元気な子、天真爛漫な子になっているんだ。そうじゃないといけないなんて言っていないだろ?」
「もちろんだ。個性的なことを認めてくれた人だ。ずばっと言葉にしてくれた。……深く考えないことで上手くいくようになったから、OKだって思っただろう」
そういうことか。悪い呪いではない。しかし、自分で苦しめている。比べられることではないが、俺と夏樹にも重なる部分がある。さらに、早瀬から教えてもらった。佐久弥が生まれ変わるステージを観て、理久も天真爛漫な子のふりから脱却すると宣言したことを。
「ディアドロップを思いついたときの話を聞いてくれるか?」
「うん」
早瀬から話を聞いた。静久さんの49日法要で行ったお寺の庭には、朝露が残っていたそうだ。葉っぱについた雫には光が反射して、小さな虹プリズムが出来ていた。その頃はベテルギウスがデビューしていた。植本さんと布川さんが、こう話したそうだ。
(……太陽の光に反射するプリズムのようだ。まるで可視光線だなーー)
そこで思いついたのが、楽曲 ”ヴィジブルレイ” だ。俺たちは英語表記の ”Visible ray” としてデビューする。こんなつながりがあったのか。
「今夜0時。その楽曲でプロデビューする君に、親愛なる雫をプレゼントする。だから頑張れ。いつでもそばにいる」
「ヘコんでも起き上るから!ナツツバキみたいに」
「ああ、そうしよう」
「七転び八起きだよーー。よく見ておいてよーー」
「いつだって見ている」
「へへへ……」
夏椿は一日花。その日に咲いても落ちてしまう。それでもめげずに、来年も花を咲かせる。けっして派手ではない、綺麗な白い花。七転び八起きだ。
白い花に落ちた朝露の雫からは、太陽からの光でプリズムが放たれる。角度を変えて眺めると、波長の長さで色が変化する。まるで可視光線のようだ。
「一緒にステージに立ってくれ」
「うん……っ。もちろんだよ!」
ドロップのチャームをチェーンに通した後、ネックレスを付けてもらった。悲しいのにうれし泣きしている俺には、さらにキスが与えられた。
「俺にとっても、佐久弥にとっても大事な名前だ。キミと夏樹君には、継いでもらいたい。友情の証だ」
「うん!うぇーー、離してよーー」
やっぱり今日は忙しい日だ。頭をぶつけて泣いて、悲しい思い出に笑ってしまい、プレッシャーと意気込みを与えられた。胸には雫が輝いている。こういう時は言葉はいらないだろう。抱き着くことで気持ちを伝えた。頑張るよ。ありがとうと。
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