【完結】29歳で「売れ残り」とお見合い勧告されましたが、裏では最強のアルファ部長が「運命だ」と逃がしてくれません

Marine

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 俺はぼんやりと、上質なファブリックのソファに腰かけていた。
 目の前には嘘みたいな夜景。
 そして、左側からはシャワーの水音が聞こえてくる。
 スモークガラスの向こうには、引き締まった筋肉質のシルエットが見える。
 
 夜景よりもそっちを見てしまう俺はおかしいのだろうか。

――この部屋、いくらなんだろう。

 タクシーの中で『腹が空いたんで、コンビニ寄ってもいいですか?』なんて聞いて、
 『あとでルームサービスで食べればいいだろう』と返事されたことを思い出した。
 めまいがしてきた。
 ……この部屋で、ルームサービス。一体、いくらするのだろうか。

 キュッ、と水音が止まり、白いバスローブを羽織った桐生部長が現れた。
 濡れた髪から落ちた滴が、はだけた胸元につうっと滑り込む。
 
 ヤバイ、この人、こんなにエロかったのか?
 肉食獣に射すくめられた鹿みたいに、目が離せない。

「お、俺もっ、シャワー浴びてきますっ!」

 やっとのことで駆け出した――が、
 すれ違いざまに奥襟を掴んで、ぐっと引き寄せられた。

「わぁっ!」
「おい、どこに行く気だ?」
「えっ、シャ、シャワーを……」

 固まっている俺の襟から、桐生部長はゆっくりと手を離した。
 その手はすぐに俺のジャケットに回り――ボタンを外し始める。
 脱がされたジャケットはソファに放られ、彼のそれと重なった。

 だが、そこで終わりではなかった。手はさらにシャツへと伸び、淡々とボタンを外していく。
 そこまできて、ようやく俺は、自分が脱がされているのだと気づいた。
 
「あ、あの、自分で……」

 桐生部長は俺をじろりと見た。

「お前を開けるのは、俺だ」

 そう言い切った言葉は強いのに、手はいつも通りに優しい。
 シャツの前を開けると、湿った汗とフェロモンの香りが広がった。
 それを吸い込んで、桐生部長は俺の胸に顔を近づけた。

――匂いを嗅がれるだけでも恥ずかしいのに、まさかこのまま?
 
 俺は泣きそうになりながら「シャワーに行かせてください」と懇願した。

「……正気か? この匂いを落とすなんて」

 衝撃の言葉と共に、一日の汗と汚れと蒸れがこびりついた乳首が、彼の口の中に――吸い込まれていく。

「や、やだっ、きたない、から……」
「それも全部、俺のものだ」

 舌が動き出す。汚れを全て舐め取られている。
 恥ずかしさが……脳を突き抜けていく。

 ホテルの高級シャンプーの香りが彼から立ち上ってくる。
 それなのに、俺はこんなに汚れたままで……。

「……んっ」

 つんとした痛みが乳首を刺し、じわっと先端が熱くなった。

「やめて、くだ……きれいに、して、から……」
「駄目だ」

 切迫した短い返事が耳を打つ。
 彼の瞳は、黄金色に輝いていた。

 さんざん吸い付かれて、じんじんしている乳首から、彼は唇を離した。
 突起は完全にピンと立ち上がってしまっている。

 それを恥ずかしいと思う間もなく、彼がうなじをぺろりと舐めた。
 肌を生暖かい舌が這う。

「あっ、や……」
「フェロモンの……匂い……お前のものは、全て俺が……食べてやる」

 うなじも、首筋も、胸も……全ての汚れをこそげるように舌が這い回る。
 汚れを舐め取られていると思うと、あり得ないほど恥ずかしい……それなのに、気持ちいい。
 上半身が唾液でぬらぬらと光るくらいに舐められて、やっとシャワーに行くことを許して貰えた。
 
 それにしても、彼は俺のフェロモンに狂ったようになっている。
 息が上がっても、貪るように口を離さなかった。
 まだ彼は混乱しているのか……?
 そういえば、フェロモン暴走で混乱したアルファは、つがいのようにふるまうと言っていた。
 こんな高いスイートルーム、たしかにつがいじゃないと与えられないよな。


――混乱しているだけだ。期待しちゃだめだ……ってことは分かっているはずなのに。なんで……。
……なんで、悲しくなるんだろう。

 タクシーの中でつないだ彼の手の熱が蘇ってきた。
 あのとき、凄くどきどきした……。

 俺はバスルームから出てリビングへ向かった。
 彼はベッドに座って俺を待っていた。
 ベッドの位置は部屋の奥にあり、少し高くなっている。
 リビングとはガラスで仕切られているため、ソファよりも高い位置から夜景を楽しむことができた。
 
 しかし、彼は夜景には目もくれずに最初からバスルームを凝視していた。
 そういえば、スモークガラスになっているんだった。
 
 彼の意味ありげな視線が気になって振り向くと――スモークが消えて、クリアなガラスが目に入った。
 シャワールームが……丸見え!?

「……えっ」

 あまりのことに突っ立っていると、桐生部長の唇の端が悪戯っぽくつり上がった。
 無言のまま、手にしたリモコンのスイッチを入れたり消したりしている。
 そのたびに、スモークからクリアに、クリアからスモークにとガラスが変わっていく。

「み、みてたんですか?」
「俺のものを見て何が悪い」
「おっ、俺は! ものなんかじゃ……」

 言いかえしても、彼の表情は涼しいままだった。

「そうだな。だったら人間らしく愛してやる」

 手のひらを上に向けて――その中指が、クイっと曲がった。
 ふだんはスーツを着こなした、マナーの完璧な男が見せる、行儀の悪い仕草。
 その長い中指に、目が釘付けになる。
 
「来いよ」

 夜景を背景に悠然とベッドで寛ぐ彼は、まさに帝王だった。
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