【完結】29歳で「売れ残り」とお見合い勧告されましたが、裏では最強のアルファ部長が「運命だ」と逃がしてくれません

Marine

文字の大きさ
14 / 29

週末の代償①

しおりを挟む
 ハイヤーで本社前に横づけ、という悪夢からは逃れたものの、俺と桐生部長は、お揃いのおしゃれなカフェの紙コップを片手に出社することになった。

――何であなたも降りるんですか。

 心のなかで呟いたが、口に出す勇気はなかった。
 
 まあ、大丈夫だろう。
 受付のオメガたちは俺なんて眼中にない。
 彼が出社したら、自然とそっちに群がるから、俺はこっそりその隙にエレベーターに……。

 広いエントランスに入ると、早速、ソファーに腰かけておしゃべりをしていたオメガたちが寄ってきた。

「桐生部長、おはようございます」
「わぁ、今日も素敵なスーツですね」
「そうか? 金曜日と同じなんだが。なあ、牧田?」

 俺はビクッと立ち止まってしまった。
 だって、あまりにも心臓に悪い台詞を堂々と言うから。

「なにそれ、意味深~」
「きゃぁ」
「ははは、ほら行くぞ、もうすぐ営業部の朝礼だ」

 桐生部長は突っ立っている俺の背をぽんと叩いた。
「……!!」
 頭上から彼の手が降りて来て、うっかりこぼしそうになった紙コップを支えてくれた。


 桐生部長と一緒にエレベーターに乗り込んで、俺ははっとした。
 朝のエレベーターは混雑していて、中には社員がたくさんいる。
 こんな中で、もし……彼が、悪戯をしかけてきたらどうしよう。
 たとえば、こっそり指を絡ませるとか……?
 
 思わず桐生部長の顔を見る。
 彼はエレベーターの階数表示を目で追っていたが、俺の視線に気付いたのかこちらを見た。
 その口角が、少しだけ上がった。
 
 心臓が音を立てる。
 ホテルのエレベーターでの会話が、耳の中で再生された。
 『何を考えている?』
 『部屋で、俺に抱かれることか?』
 指先が緊張して冷たくなっていって――彼の身動き一つで、手がぴくりと反応した。
 
 チンッ
 エレベーターのドアが開き、パーカーや、ゆる可愛いデザインの服を着こなしたオメガたちが、最新のマックブックを片手に入ってきた。
 オメガにはクリエイターが多い。彼らはデザインセンスの塊のような、エリート集団だ。
 それゆえに、勤務形態はわりと自由になっている。
 
「桐生部長、おはようございます」
「おはよう」

 容姿、才能、性格。
 俺が彼らに敵うものなんて、何一つない。
 同じオメガなのに、こうも違うものかと、エレベーターの隅に視線を落とした。
 
 そのとき、指先に何かが触れた。
 彼の指だった。
 それは、俺の指先を一本一本確かめるように触れていき、ふわりと離れた。
 まるで『俺のものがここにあるな』と点検しているようだ。
 
 オメガたちは15階の福利厚生フロアで降りていった。
 専用のリラックスラウンジもここにある。
 しかし、俺たちスーツの営業が目指すのは、38階のエンタープライズ事業本部だ。
 
 人がだんだん少なくなっていく中、彼との距離が近くなっていく。
 心臓が早鐘を打つ中、エレベーターが到着を告げた。

「……行くぞ」

 桐生部長は何事もなかったような顔で降りていく。
 俺は熱を持った右手を、ぎゅっと握りしめてから彼の背中を追った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

冷酷なアルファ(氷の将軍)に嫁いだオメガ、実はめちゃくちゃ愛されていた。

水凪しおん
BL
これは、愛を知らなかった二人が、本当の愛を見つけるまでの物語。 国のための「生贄」として、敵国の将軍に嫁いだオメガの王子、ユアン。 彼を待っていたのは、「氷の将軍」と恐れられるアルファ、クロヴィスとの心ない日々だった。 世継ぎを産むための「道具」として扱われ、絶望に暮れるユアン。 しかし、冷たい仮面の下に隠された、不器用な優しさと孤独な瞳。 孤独な夜にかけられた一枚の外套が、凍てついた心を少しずつ溶かし始める。 これは、政略結婚という偽りから始まった、運命の恋。 帝国に渦巻く陰謀に立ち向かう中で、二人は互いを守り、支え合う「共犯者」となる。 偽りの夫婦が、唯一無二の「番」になるまでの軌跡を、どうぞ見届けてください。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~

水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。 アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。 氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。 「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」 辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。 これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!

隠れオメガの整備士は自由になりたい。なのに暴走する最強騎士を身体を張って止めたら、運命の番だとバレて過保護な専属契約を結ばされました

水凪しおん
BL
※オメガバース設定。激しい戦闘描写や、執着攻めによるマーキング描写、軽度の性的な接触の描写がありますので、15歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。 汚染された惑星を浄化する生体兵器『機装(ギア)』。 その搭乗者は優れた能力を持つ『アルファ』に限られ、彼らの精神を安定させる鎮静剤として『オメガ』が存在する世界。 整備士のエリアンは、オメガであることを隠し、ベータと偽って軍の最前線で働いていた。 オメガは道具のように扱われるこの社会で、自由を守るための必死の嘘だった。 だがある日、軍最強のエリートパイロット・クレイドの機装が暴走する事故に遭遇する。 死を覚悟して止めに入ったエリアンだったが、暴走する機体はなぜか彼にだけ反応し、沈静化した。 それは、隠していたオメガのフェロモンが、クレイドと強烈な『共鳴』を起こした瞬間だった。 「見つけた。俺の対になる存在を」 正体がバレたと戦慄するエリアンに対し、冷徹なはずのクレイドが向けたのは、処罰ではなく執着に満ちた熱い視線で……? 孤独なエリート騎士×身分を隠した健気な整備士。 星の命運と本能が交錯する、近未来SFオメガバース!

処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます

ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。 しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。 ——このままじゃ、王太子に処刑される。 前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。 中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。 囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。 ところが動くほど状況は悪化していく。 レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、 カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、 隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。 しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。 周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり—— 自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。 誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う—— ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。

隣の番は、俺だけを見ている

雪兎
BL
Ωである高校生の湊(みなと)は、幼いころから体が弱く、友人も少ない。そんな湊の隣に住んでいるのは、幼馴染で幼少期から湊に執着してきたαの律(りつ)。律は湊の護衛のように常にそばにいて、彼に近づく人間を片っ端から遠ざけてしまう。 ある日、湊は学校で軽い発情期の前触れに襲われ、助けてくれたのもやはり律だった。逃れられない幼馴染との関係に戸惑う湊だが、律は静かに囁く。「もう、俺からは逃げられない」――。 執着愛が静かに絡みつく、オメガバース・あまあま系BL。 【キャラクター設定】 ■主人公(受け) 名前:湊(みなと) 属性:Ω(オメガ) 年齢:17歳 性格:引っ込み思案でおとなしいが、内面は芯が強い。幼少期から体が弱く、他人に頼ることが多かったため、律に守られるのが当たり前になっている。 特徴:小柄で華奢。淡い茶髪で色白。表情はおだやかだが、感情が表に出やすい。 ■相手(攻め) 名前:律(りつ) 属性:α(アルファ) 年齢:18歳 性格:独占欲が非常に強く、湊に対してのみ甘く、他人には冷たい。基本的に無表情だが、湊のこととなると感情的になる。 特徴:長身で整った顔立ち。黒髪でクールな雰囲気。幼少期に湊を助けたことをきっかけに執着心が芽生え、彼を「俺の番」と心に決めている。

付き合っているのに喧嘩ばかり。俺から別れを言わなければならないとさよならを告げたが実は想い合ってた話。

雨宮里玖
BL
サラリーマン×サラリーマン 《あらすじ》 恋人になってもうすぐ三年。でも二人の関係は既に破綻している。最近は喧嘩ばかりで恋人らしいこともしていない。お互いのためにもこの関係を終わらせなければならないと陸斗は大河に別れを告げる——。 如月大河(26)営業部。陸斗の恋人。 小林陸斗(26)総務部。大河の恋人。 春希(26)大河の大学友人。 新井(27)大河と陸斗の同僚。イケメン。

氷の支配者と偽りのベータ。過労で倒れたら冷徹上司(銀狼)に拾われ、極上の溺愛生活が始まりました。

水凪しおん
BL
※この作品には、性的描写の表現が含まれています。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。 オメガであることを隠し、メガバンクで身を粉にして働く、水瀬湊。 過労と理不尽な扱いで、心身ともに限界を迎えた夜、彼を救ったのは、冷徹で知られる超エリートα、橘蓮だった。 「君はもう、頑張らなくていい」 ――それは、運命の番との出会い。 圧倒的な庇護と、独占欲に戸惑いながらも、湊の凍てついた心は、次第に溶かされていく。 理不尽な会社への華麗なる逆転劇と、極上に甘いオメガバース・オフィスラブ!

処理中です...