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# Act0. 国王の嘲笑
しおりを挟む【Side:国王バルガス】
石造りの冷え切った玉座の間。
ここでは「拝領の謁見」が執り行われていた。
通常なら、功臣に対しての恩賞は大広間で執り行い、そこには大勢の貴族たちが参列するはずだ。
だが、この玉座の間には王と後宮女官長のベアトリクス。そして立会人の貴族フェルナーしかいない。
国王バルガスは、跪く銀髪の美丈夫に、冷ややかな視線を送った。
「近年、お前の活躍は目覚ましいものがある……。辺境の蛮族どもを平らげ、魔王の残党を屠った程度で、勘違いするなよ。お前のような野良犬、代わりなどいくらでもいる」
「はい」
近衛騎士団長 アレクセイは、従順に頭を下げたままだ。
「十年来、ことあるごとにあの女――メリザンドを寄越せと喚いていたが……ようやく拝領させてやる。ちょうど毒を集め過ぎて、処理に困っていたゴミだからな。だが忘れるな、あの女は我が国の汚れを一身に集める『生きた汚物入れ』だ。後宮の結界なしには、数日と持たずにその身を毒に焼かれて死ぬだろう。女を生かしたければ、これまで以上に犬として働け。……それと」
バルガスは口角を歪め、アレクセイの首に巻かれている黒いチョーカーを指差した。
「お前との間にできる子供も、母親譲りの良い『器』になる。生まれたらすぐに国に渡すように。母親と同じように後宮に隔離してゴミ箱として働かせてやる」
「……はっ」
ギリ、と歯ぎしりが滲むような返事に、バルガスは気持ちが高ぶっていくのを感じた。
この美しく、強く、誇り高い、全てに恵まれたような騎士の首輪は儂が握っている。
こいつをどうするのも自分の胸先三寸で決まるのだ。
「あの女のお前との記憶は……毒で消えてしまったようだ。お前は人食い狼の血を引くものとして、恐れられるかもしれんなぁ……」
「……!!」
アレクセイの顔に、驚愕と絶望が混ざるのを見て、バルガスは笑いが止まらなかった。
いつ言おうかと楽しみにしていた言葉。
下げ渡す時にしようと心に決めて、この日を待ち望んでいたのだ。
この完璧な男のすました顔が一瞬で崩れさったのを見るのはたまらないほどゾクゾクする。
「なあフェルナー卿。この男、今にも泣きそうではないか。滑稽だな」
「左様でございますな、陛下。そんなゴミ箱のような女、私なら金をもらっても願い下げだというのに。しかし約束通りに渡すとは、陛下もお優しいことで」
国王の隣で、けばけばしい衣装を纏った男――フェルナーが、笑い声を上げた。
約束なんて反故にしてもよかったのだが、最近は特に魔物たちの勢力が強くなってきている。
ここで恩を売って、もっと働かせるのが得策だろう。
なに、あの女は後宮の結界の浄化が無ければ生きられない。奴は今まで以上に忠誠を尽くし、ここに通い詰めることになるだろう。
「あの陰気な女がようやく後宮からいなくなってくれて、ホッといたしましたわ。あの方がいらっしゃるだけで、離宮の空気が淀んでカビ臭くなるようでございましたもの」
国王の傍らに控えていた、後宮の女官長、ベアトリクスが高慢な笑みを浮かべた。
「でも、後宮の序列の最下層にいてくれたおかげで、令嬢たちの間でそれほどの諍いは起こらなくて……みんなで仲良くメリザンドをいじめてくれたので、そこは助かっていましたの」
国王は満足げに頷いた。
「お前は本当に機転が利いて有能だな。後宮のことは任せておいて正解だ。だがもう毒を集め過ぎたあの女にそこまでの利用価値はないだろう。この男に下げ渡すのは困っていたゴミ処理にちょうどいい」
「ええ。ようやく後宮の隅に溜まっていた泥を掻き出した気分ですわ。これからは、あのような卑しい器を気にすることなく、美しい令嬢たちと清らかなお茶会を楽しめますわね」
国王バルガスはベアトリクスと笑い合いながら、騎士団長を片手で追い払うようなしぐさを見せた。
「なんだ、まだいたのか。もう下がれ」
「……はっ」
退室していく銀髪の背中を見送りながら、バルガスは自らの支配を確信した、下卑た笑みを浮かべていた。
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