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# act33.帰還②
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王都を離れて三日目、田舎に行くにしたがって、どんよりした空気はだんだん澄んできた。
馬車に揺られながら、私は隣に座っているアレクセイのぬくもりを感じていた。
王宮でバルガスを倒してから、少年王の擁立を革命派に託し、シグルドには治安維持と身辺警護を頼んできた。
そして邸に帰り、荷物を積んで、フェンリシアに帰郷するために馬車を走らせていた。
護衛にはフェンリシアからついてきたという側近の二人が、馬車と並走している。
馬を走らせているのは御者のクレイ。
家令のヴァルトは後から来てくれることになっていたが、ジーンはカイと共に残り、国を建て直す決意を固めてくれた。
「……メル」
二人でいる時の甘い声が鼓膜をくすぐる。
「礼を言う……ついてきてくれて」
「いいえ……」
彼は第七王子とはいえ、国に尽くす義務がある。いずれフェンリシアに戻らなければならなかった。
しかし、私を取り戻すために、十年もこの国にいたのだ。
私がついていくのは当然だった。
向こうはどんな環境なのか、私は何をすればいいのか分からない。
でも、彼がしてくれた以上のことを返したい。
「君の実家を通り過ぎることになるけど、今いくと驚かせてしまうし、不安にさせるだろう。だから、フェンリシアで落ち着いてから挨拶に行こうと思うが、それでいいかな」
「はい。ありがとうございます」
父母に会うことを考えると、どきどきする。
早く会いたい反面、私が聖女になって神殿にいると信じ込んでいる現状を思うと、まずはフェンリシアで落ち着いてから書状を出して会いに行くのが、母の心臓の為にも良さそうだ。
少し事務的な会話が続くと、彼の温もりが欲しくなる。
彼もそう感じたのか、逞しい腕がからだにまわるのを感じて嬉しくなった。
そっと身を寄せると、彼はさらに抱き寄せて来て……ん?
すう、と深く髪の匂いを吸い込まれた。
「ちょっ、ちょっと……」
ゆっくりと彼のからだの重みが伝わってくる。
(メル……)
今度は、吐息だけの囁き。
きっと疲れているんだ。ここまでずっと一人で頑張ってきたから。
私の肩に頭を乗せて、彼の呼吸は長くリラックスしたものになっていた。
うとうとしているみたい。私の匂いに安心したように。
私は彼の頭を撫でて、抱きしめるように膝に乗せた。
彼はされるがままになって、膝の上でふうっと大きく息をついた。
馬車の揺れが心地いい。
小さな窓の外はだんだんと雪景色に変わっていって――ふと外からコツコツと音がした。
並走している護衛の騎士だろうか。
そう思った瞬間、銀色の髪が煌めいた。
(大丈夫)
二人の合図の親指を上げるサイン。
ヘルムの向こうに、まだ若いフロストブルーの瞳が見えた……気がした。
瞬きをすると、窓の外には誰もいなかった。身を乗り出して後ろを見ると、少し後方に並走する騎士の姿が見える。
でも、あの懐かしい青年とは雰囲気が違っていた。
(ありがとう……)
また風に混じって声が聞こえた。
今、膝に抱いている銀髪の騎士を少し若くしたような声。
その寝顔を見つめているうちに、引き締まった頬にぽたりと滴が落ちた。
私は急いで指でその滴を拭った。
馬車に揺られながら、私は隣に座っているアレクセイのぬくもりを感じていた。
王宮でバルガスを倒してから、少年王の擁立を革命派に託し、シグルドには治安維持と身辺警護を頼んできた。
そして邸に帰り、荷物を積んで、フェンリシアに帰郷するために馬車を走らせていた。
護衛にはフェンリシアからついてきたという側近の二人が、馬車と並走している。
馬を走らせているのは御者のクレイ。
家令のヴァルトは後から来てくれることになっていたが、ジーンはカイと共に残り、国を建て直す決意を固めてくれた。
「……メル」
二人でいる時の甘い声が鼓膜をくすぐる。
「礼を言う……ついてきてくれて」
「いいえ……」
彼は第七王子とはいえ、国に尽くす義務がある。いずれフェンリシアに戻らなければならなかった。
しかし、私を取り戻すために、十年もこの国にいたのだ。
私がついていくのは当然だった。
向こうはどんな環境なのか、私は何をすればいいのか分からない。
でも、彼がしてくれた以上のことを返したい。
「君の実家を通り過ぎることになるけど、今いくと驚かせてしまうし、不安にさせるだろう。だから、フェンリシアで落ち着いてから挨拶に行こうと思うが、それでいいかな」
「はい。ありがとうございます」
父母に会うことを考えると、どきどきする。
早く会いたい反面、私が聖女になって神殿にいると信じ込んでいる現状を思うと、まずはフェンリシアで落ち着いてから書状を出して会いに行くのが、母の心臓の為にも良さそうだ。
少し事務的な会話が続くと、彼の温もりが欲しくなる。
彼もそう感じたのか、逞しい腕がからだにまわるのを感じて嬉しくなった。
そっと身を寄せると、彼はさらに抱き寄せて来て……ん?
すう、と深く髪の匂いを吸い込まれた。
「ちょっ、ちょっと……」
ゆっくりと彼のからだの重みが伝わってくる。
(メル……)
今度は、吐息だけの囁き。
きっと疲れているんだ。ここまでずっと一人で頑張ってきたから。
私の肩に頭を乗せて、彼の呼吸は長くリラックスしたものになっていた。
うとうとしているみたい。私の匂いに安心したように。
私は彼の頭を撫でて、抱きしめるように膝に乗せた。
彼はされるがままになって、膝の上でふうっと大きく息をついた。
馬車の揺れが心地いい。
小さな窓の外はだんだんと雪景色に変わっていって――ふと外からコツコツと音がした。
並走している護衛の騎士だろうか。
そう思った瞬間、銀色の髪が煌めいた。
(大丈夫)
二人の合図の親指を上げるサイン。
ヘルムの向こうに、まだ若いフロストブルーの瞳が見えた……気がした。
瞬きをすると、窓の外には誰もいなかった。身を乗り出して後ろを見ると、少し後方に並走する騎士の姿が見える。
でも、あの懐かしい青年とは雰囲気が違っていた。
(ありがとう……)
また風に混じって声が聞こえた。
今、膝に抱いている銀髪の騎士を少し若くしたような声。
その寝顔を見つめているうちに、引き締まった頬にぽたりと滴が落ちた。
私は急いで指でその滴を拭った。
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