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「……詰みましたわ。ええ、論理的にも、物理的にも、そして運命的にも、完全なるチェックメイトですわ」
卒業パーティーの壇上。大陸中の重鎮たちが平伏し、背後には「逃がす気ゼロ」の笑顔を浮かべたアルフォンス。そして目の前には、感動で鼻水を流しながらメモを取るリュミエール。
シビラは、自分の人生という盤面が、あまりにも鮮やかに封じ込められたことを悟った。
しかし、アルフォンスの追撃はこれだけでは終わらなかった。
「皆様、静粛に。……今日、僕はこの場で、一人の男として、最愛の女性に答えを乞いたい」
アルフォンスはシビラの前に跪くと、懐から小さな、だがこの世の何よりも眩い輝きを放つ箱を取り出した。
中に入っていたのは、ノイシュタイン家に代々伝わる国宝級のブルーダイヤモンドではない。アルフォンスが自ら鉱山に足を運び、自らの魔力で磨き上げたという、伝説の「誓いの魔石」で作られた指輪だった。
「シビラ・フォン・ノイシュタイン。君は僕を『無能な王子』と蔑み、国を捨てようとした。だが、そんな君の冷たさも、傲慢さも、そして誰よりも温かいその本性も、すべてが僕の生きる理由だ」
(……ちょっと、殿下! 公衆の面前で私の黒歴史を蒸し返さないでくださいまし!)
シビラは顔を真っ赤にしたが、アルフォンスの瞳はどこまでも真剣だった。
「大陸最高管理者の地位も、王妃の座も、君にとってはただの重荷かもしれない。……なら、その重荷をすべて僕が半分背負おう。君が休みたいときは僕が盾になり、君が働きたいときは僕がペンになろう。……シビラ、僕の妻になってくれないか。これは命令でも、契約でもない。僕の、生涯一度きりの願いだ」
会場が、水を打ったように静まり返った。
(……ズルいですわ。こんな、全大陸の代表たちが証人の席で、あんなに綺麗な目をして……)
シビラは、握り締めていた扇をそっと閉じた。
逃げ道を探す思考回路が、彼の熱に溶かされていく。
有能すぎる自分が作り上げたこの状況は、もう、彼女自身の手では壊せない。
「……殿下。あなたは、本当にお馬鹿さんですわね」
シビラは震える声で、だがはっきりと告げた。
「私を妻にするということは、生涯、私の小言と、膨大な仕事の割り振りに耐えなければならないということですのよ? 毎日、隠居したいと喚く私を、なだめ続けなければならないんですのよ?」
「ああ、望むところだ。君の小言は僕にとってのセレナーデ(小夜曲)だよ」
「……なら、仕方がありませんわね。……その指輪、受け取って差し上げますわ。ただし! 契約書には『愛妻弁当の拒否権』と『有給休暇の完全消化』を明記させていただきますからね!」
シビラが差し出した左手の薬指に、アルフォンスは至宝の指輪を嵌めた。
その瞬間、会場は割れんばかりの歓声に包まれた。
「おめでとうございます! シビラ様! アルフォンス様!」
「大陸に平和を! 聖女様に永遠の休息を(無理だろうけど)!」
リュミエールは「あああ、最高ですわ……!!」と叫びながら、その場でバタリと倒れ(尊死)、カイルは「これで……これでようやく、祝言の準備という名の残業に移行できる……」と遠い目をして涙を流した。
アルフォンスは、シビラを強く抱き寄せ、その額に優しく口づけをした。
「愛しているよ、シビラ。……さあ、結婚式の準備を始めようか。まずは招待客一万人のリストアップからだ」
「……一万人!? 今すぐ隠居届を書き直してきますわ!!」
シビラの絶叫は、幸せな鐘の音のように響き渡った。
悪役令嬢としての隠居計画は、こうして「大陸で最も愛され、最も働かされる王妃」への道へと、完全なる方向転換を遂げたのである。
卒業パーティーの壇上。大陸中の重鎮たちが平伏し、背後には「逃がす気ゼロ」の笑顔を浮かべたアルフォンス。そして目の前には、感動で鼻水を流しながらメモを取るリュミエール。
シビラは、自分の人生という盤面が、あまりにも鮮やかに封じ込められたことを悟った。
しかし、アルフォンスの追撃はこれだけでは終わらなかった。
「皆様、静粛に。……今日、僕はこの場で、一人の男として、最愛の女性に答えを乞いたい」
アルフォンスはシビラの前に跪くと、懐から小さな、だがこの世の何よりも眩い輝きを放つ箱を取り出した。
中に入っていたのは、ノイシュタイン家に代々伝わる国宝級のブルーダイヤモンドではない。アルフォンスが自ら鉱山に足を運び、自らの魔力で磨き上げたという、伝説の「誓いの魔石」で作られた指輪だった。
「シビラ・フォン・ノイシュタイン。君は僕を『無能な王子』と蔑み、国を捨てようとした。だが、そんな君の冷たさも、傲慢さも、そして誰よりも温かいその本性も、すべてが僕の生きる理由だ」
(……ちょっと、殿下! 公衆の面前で私の黒歴史を蒸し返さないでくださいまし!)
シビラは顔を真っ赤にしたが、アルフォンスの瞳はどこまでも真剣だった。
「大陸最高管理者の地位も、王妃の座も、君にとってはただの重荷かもしれない。……なら、その重荷をすべて僕が半分背負おう。君が休みたいときは僕が盾になり、君が働きたいときは僕がペンになろう。……シビラ、僕の妻になってくれないか。これは命令でも、契約でもない。僕の、生涯一度きりの願いだ」
会場が、水を打ったように静まり返った。
(……ズルいですわ。こんな、全大陸の代表たちが証人の席で、あんなに綺麗な目をして……)
シビラは、握り締めていた扇をそっと閉じた。
逃げ道を探す思考回路が、彼の熱に溶かされていく。
有能すぎる自分が作り上げたこの状況は、もう、彼女自身の手では壊せない。
「……殿下。あなたは、本当にお馬鹿さんですわね」
シビラは震える声で、だがはっきりと告げた。
「私を妻にするということは、生涯、私の小言と、膨大な仕事の割り振りに耐えなければならないということですのよ? 毎日、隠居したいと喚く私を、なだめ続けなければならないんですのよ?」
「ああ、望むところだ。君の小言は僕にとってのセレナーデ(小夜曲)だよ」
「……なら、仕方がありませんわね。……その指輪、受け取って差し上げますわ。ただし! 契約書には『愛妻弁当の拒否権』と『有給休暇の完全消化』を明記させていただきますからね!」
シビラが差し出した左手の薬指に、アルフォンスは至宝の指輪を嵌めた。
その瞬間、会場は割れんばかりの歓声に包まれた。
「おめでとうございます! シビラ様! アルフォンス様!」
「大陸に平和を! 聖女様に永遠の休息を(無理だろうけど)!」
リュミエールは「あああ、最高ですわ……!!」と叫びながら、その場でバタリと倒れ(尊死)、カイルは「これで……これでようやく、祝言の準備という名の残業に移行できる……」と遠い目をして涙を流した。
アルフォンスは、シビラを強く抱き寄せ、その額に優しく口づけをした。
「愛しているよ、シビラ。……さあ、結婚式の準備を始めようか。まずは招待客一万人のリストアップからだ」
「……一万人!? 今すぐ隠居届を書き直してきますわ!!」
シビラの絶叫は、幸せな鐘の音のように響き渡った。
悪役令嬢としての隠居計画は、こうして「大陸で最も愛され、最も働かされる王妃」への道へと、完全なる方向転換を遂げたのである。
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