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「……シリル卿。今、我が国の諜報部から届いたというこの報告書、シュレッダーにかける前に一度、聖水で清めたほうがよろしいでしょうか? 文字面から漂う狂気が、私の網膜を物理的に削りに来ているのですが」
騎士団本部の事務室。私は、シリル卿が持ってきた「極秘」とスタンプされた紙束を、指先でつまみ上げながら問いかけた。
シリル卿は、かつてないほど険しい表情で、けれど口元はプルプルと震わせながら答えた。
「……ああ。私も目を疑った。アシュレイ殿下が、君を取り戻すために立ち上げた国家規模の作戦……その名も『オペレーション・ツッコミ』だ」
「………………シリル卿。今すぐ、その名前を考案した者の脳内に、直接冷水をぶっかけてきてもらえませんか? 作戦名を聞いただけで、私の喉が過労死を予感して悲鳴を上げています」
私は深く、深くため息をつき、椅子に背を預けた。
報告書によれば、アシュレイ王子は「ヴェールは騎士団長に洗脳され、ツッコミを禁じられたまま監禁されている」という、極彩色の妄想に支配されているらしい。
「見てくれ、この作戦要綱。……『第一段階:王子自らが騎士団駐屯地の前で、最高難易度のボケを披露し、ヴェールの野生のツッコミ本能を呼び覚ます』だそうだ」
「……野生のツッコミ本能って何ですか。私はサバンナの猛獣か何かですか? 大体、『最高難易度のボケ』って、昨日の夕食時にあなたが言った『このメンチカツ、あまりに美味しすぎて私の胃袋がダンスを踊り、今、食道でアンコールが起きている』レベルの寒いやつですか?」
「……っ! ……あれは、私なりの最大限の賛辞だったのだが……。……やはり、寒かったか?」
シリル卿がショックを受けたように肩を落とした。
「ええ、北極圏並みの寒さでしたよ。おかげで、私の心臓が一時停止して、救急車を呼びそうになりました。……まあ、あなたのボケはいいんです。問題は殿下ですよ。見てください、この『ボケの爆弾』と称されたリストを」
私は報告書の続きを読み上げた。
『・馬ではなく、巨大なカピバラに跨って騎士団に乗り込む。
・マントの代わりに、大量の「生ハム」を繋ぎ合わせたものを羽織り、空腹を演出する。
・聖女リリアンに「私は実は、しゃべる植物だったのですわ」と言わせ、ヴェールに剪定(せんてい)を迫る。』
「…………。シリル卿、今すぐ国境を封鎖してください。このボケが市街地に漏れ出したら、国民の知的水準が数十年単位で後退します。生ハムのマントって何ですか。歩くたびに脂が滴って、街中の犬を召喚するおつもりですか?」
「……ふっ、……ははははは! 生ハムのマント! それはもはや、ファッションではなく献立だな!」
シリル卿はついに耐えきれず、机を叩いて笑い出した。
「笑っている場合じゃありませんよ! カピバラが可哀想です! あんな重たい王子を乗せたら、カピバラの平穏な精神が崩壊しますよ。それからリリアン様! しゃべる植物って、彼女の知性はすでに雑草レベルですが、わざわざそれを自称する必要がどこにあるんですか!」
「……く、……ははは! 雑草レベル……っ! ヴェール、君のキレ味は、殿下という砥石(といし)を得て、さらに神の領域に近づいているな!」
シリル卿は涙を拭きながら、私の手を取った。
「安心しろ。この『自爆作戦』は、私が全力で阻止……いや、騎士団の総力を挙げて『観賞』することにする。君が彼をどう料理するか、特等席で拝ませてもらおう」
「観賞しないでください、仕事してください。……でも、そうですね。そこまでして私を王宮に連れ戻したいなら、一度徹底的に『自分のボケがいかに寒く、かつ不衛生であるか』を分からせてあげる必要がありますね」
私は、引き出しから一番太い赤ペンを取り出した。
「シリル卿。明日の決戦(笑)、騎士団の門の前に、特大の『採点ボード』を用意しておいてください。殿下のボケを、一点刻みで公開処刑してあげますから」
「……了解した。……ヴェール。君を怒らせると、隣国の軍隊よりも恐ろしいことが、今この瞬間に証明されたよ」
シリル卿の爆笑が響く中、私は静かに復讐の……いいえ、教育的指導のプランを練り始めた。
アシュレイ王子、あなたは大きな間違いを犯している。
私のツッコミは、あなたを愛しているから出るものではない。
そこに「正さねばならない不条理」があるから、私の魂が叫んでいるだけなのだ。
「オペレーション・ツッコミ」——そのオチが、王子の涙で濡れることになるのを、私は確信していた。
騎士団本部の事務室。私は、シリル卿が持ってきた「極秘」とスタンプされた紙束を、指先でつまみ上げながら問いかけた。
シリル卿は、かつてないほど険しい表情で、けれど口元はプルプルと震わせながら答えた。
「……ああ。私も目を疑った。アシュレイ殿下が、君を取り戻すために立ち上げた国家規模の作戦……その名も『オペレーション・ツッコミ』だ」
「………………シリル卿。今すぐ、その名前を考案した者の脳内に、直接冷水をぶっかけてきてもらえませんか? 作戦名を聞いただけで、私の喉が過労死を予感して悲鳴を上げています」
私は深く、深くため息をつき、椅子に背を預けた。
報告書によれば、アシュレイ王子は「ヴェールは騎士団長に洗脳され、ツッコミを禁じられたまま監禁されている」という、極彩色の妄想に支配されているらしい。
「見てくれ、この作戦要綱。……『第一段階:王子自らが騎士団駐屯地の前で、最高難易度のボケを披露し、ヴェールの野生のツッコミ本能を呼び覚ます』だそうだ」
「……野生のツッコミ本能って何ですか。私はサバンナの猛獣か何かですか? 大体、『最高難易度のボケ』って、昨日の夕食時にあなたが言った『このメンチカツ、あまりに美味しすぎて私の胃袋がダンスを踊り、今、食道でアンコールが起きている』レベルの寒いやつですか?」
「……っ! ……あれは、私なりの最大限の賛辞だったのだが……。……やはり、寒かったか?」
シリル卿がショックを受けたように肩を落とした。
「ええ、北極圏並みの寒さでしたよ。おかげで、私の心臓が一時停止して、救急車を呼びそうになりました。……まあ、あなたのボケはいいんです。問題は殿下ですよ。見てください、この『ボケの爆弾』と称されたリストを」
私は報告書の続きを読み上げた。
『・馬ではなく、巨大なカピバラに跨って騎士団に乗り込む。
・マントの代わりに、大量の「生ハム」を繋ぎ合わせたものを羽織り、空腹を演出する。
・聖女リリアンに「私は実は、しゃべる植物だったのですわ」と言わせ、ヴェールに剪定(せんてい)を迫る。』
「…………。シリル卿、今すぐ国境を封鎖してください。このボケが市街地に漏れ出したら、国民の知的水準が数十年単位で後退します。生ハムのマントって何ですか。歩くたびに脂が滴って、街中の犬を召喚するおつもりですか?」
「……ふっ、……ははははは! 生ハムのマント! それはもはや、ファッションではなく献立だな!」
シリル卿はついに耐えきれず、机を叩いて笑い出した。
「笑っている場合じゃありませんよ! カピバラが可哀想です! あんな重たい王子を乗せたら、カピバラの平穏な精神が崩壊しますよ。それからリリアン様! しゃべる植物って、彼女の知性はすでに雑草レベルですが、わざわざそれを自称する必要がどこにあるんですか!」
「……く、……ははは! 雑草レベル……っ! ヴェール、君のキレ味は、殿下という砥石(といし)を得て、さらに神の領域に近づいているな!」
シリル卿は涙を拭きながら、私の手を取った。
「安心しろ。この『自爆作戦』は、私が全力で阻止……いや、騎士団の総力を挙げて『観賞』することにする。君が彼をどう料理するか、特等席で拝ませてもらおう」
「観賞しないでください、仕事してください。……でも、そうですね。そこまでして私を王宮に連れ戻したいなら、一度徹底的に『自分のボケがいかに寒く、かつ不衛生であるか』を分からせてあげる必要がありますね」
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「……了解した。……ヴェール。君を怒らせると、隣国の軍隊よりも恐ろしいことが、今この瞬間に証明されたよ」
シリル卿の爆笑が響く中、私は静かに復讐の……いいえ、教育的指導のプランを練り始めた。
アシュレイ王子、あなたは大きな間違いを犯している。
私のツッコミは、あなたを愛しているから出るものではない。
そこに「正さねばならない不条理」があるから、私の魂が叫んでいるだけなのだ。
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