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「……殿下、いい加減にその『自家製勲章』を外してください。さっきから動くたびに、隣の伯爵夫人のドレスに引っかかって、強制的に二人羽織のような状態になっていますよ。それは愛の絆ではなく、単なる物理的な拘束です」
舞踏会の中心で、私のハリセン……もとい特注扇子が、王子の胸元で鋭い音を立てた。
アシュレイ王子は、勲章同士が絡まって身動きが取れなくなりながらも、必死に胸を張った。
「くっ、ヴェール……! お前は相変わらず私の高貴な装いを理解せん女だな! これは、私が民衆と触れ合った証……いわば『心の勲章』が具現化したものなのだ!」
「具現化した結果、中身が『商店街の福引き三等賞』なのが問題だと言っているんです。それからリリアン様、その鏡のドレス。今、シャンデリアの光を反射して、天井の歴史ある絵画の一部が焦げ始めていますよ。聖女が歴史的建造物を破壊してどうするんですか。放火魔としてギルドに登録されたいんですか?」
「まあ! ひどいですわ! これは私の内なる光が、外の世界に溢れ出しているだけですのよ! あつっ……あら? なんだか自分の背中も熱くなってきましたわ!」
リリアンが自分の反射光でセルフ熱中症になりかけ、バタバタと暴れる。
その拍子に、彼女のドレスに貼り付けられた鏡が数枚剥がれ、床で粉々に砕け散った。
会場に集まった貴族たちは、もはや「断罪」よりも「火災」の心配をして、一歩、また一歩と後退していく。
「……シリル卿。今です。この地獄の光景を終わらせるために、あなたの『最強の騎士』としての力を使ってください。具体的に言うと、あの二人を布でぐるぐる巻きにして、涼しい地下室へ搬送してください」
私が指示を飛ばすと、隣でずっと笑いを堪えていたシリル卿が、ようやく一歩前に出た。
「……了解した、我が最愛の軍師殿。……だが、その前に一つだけ、私にも言わせてもらいたい」
シリル卿は、混乱の渦中にある王子とリリアンを冷徹な目で見下ろした。
その全身から放たれる圧倒的な威圧感に、王子は勲章をジャラジャラ鳴らしながら震え上がった。
「し、シリル……! お前もこの女の毒舌に汚染されたのか!? 目を覚ませ! お前のような英雄には、もっとこう……フワフワした、鏡のように輝く聖女が相応しいはずだ!」
「……殿下。あいにく、私の好みは『フワフワしたもの』でも『反射するもの』でもない。……私の心を射抜いたのは、この世の不条理を容赦なく切り裂く、この女性の『言葉』だけだ」
シリル卿は、衆人環視の中で、私の肩を力強く抱き寄せた。
王宮中の貴族たちが、驚愕のあまり息を呑む。
「ヴェール・ローゼライトは、何の取り柄もない女ではない。……彼女のツッコミは、迷走するこの国を正す『導きの光』だ。彼女がいなければ、あなたは今頃、パンの靴を履いて崖から飛び降りていただろう」
「な、な……っ!!」
「私は、彼女を愛している。彼女が放つ毒舌の一言一言が、私の魂を震わせ、生きる喜びを与えてくれる。……彼女こそが、私の生涯をかけて守り、そしてその鋭い言葉に一生晒され続けたいと願う、唯一の女性だ」
シリル卿はそのまま、私を包み込むように深く抱きしめた。
彼の白銀の礼服から、清潔な香りと、騎士らしい逞しい鼓動が伝わってくる。
「……。……。……シリル卿」
私は、彼の腕の中で、顔を真っ赤にしながら呟いた。
「……今のセリフ、もし私が『恥ずかしくて今すぐ消えたいです』というツッコミを入れたら、あなたはそのまま私の言葉を『至高の愛の囁き』として脳内で変換するつもりですか?」
「……ふふ。……当然だろう? 君が何を言おうと、私には『好きだ』と聞こえるようになっているんだ」
「重症ですよ。……シリル卿。一つ、物理的なオチをつけてもよろしいですか?」
「なんだ?」
「……あなたの抱きしめる力が強すぎて、私の背中のファスナーが、さっきのリリアン様の鏡と同じように悲鳴を上げて……今、一ミリほど弾けました」
「…………っ!! す、すまない!!」
シリル卿が慌てて私を離すと、背後で「パチンッ」という小気味良い音が響いた。
まさに、感動の告白が『極上のオチ』へと変わった瞬間だった。
「……ほら、見てください。シリアスな空気を作ろうとするから、衣装が追いつかないんですよ。……殿下、リリアン様。私たちの『愛』……いえ、私の『ツッコミの矛先』は、もう決まりました。あなたたちの迷走に付き合う暇は、一分一秒もありませんわ!」
私は、背中の弾けた部分を手で押さえながらも、勝ち誇ったように扇子を広げた。
会場には、シリル卿の爆笑と、王子の絶叫、そして聖女の「あつーい!」という叫びが入り混じり、前代未聞の「爆笑舞踏会」として歴史に刻まれることとなった。
真実の愛は、甘い言葉ではなく、絶妙なタイミングの「オチ」と共に、私の胸に深く刻まれていた。
舞踏会の中心で、私のハリセン……もとい特注扇子が、王子の胸元で鋭い音を立てた。
アシュレイ王子は、勲章同士が絡まって身動きが取れなくなりながらも、必死に胸を張った。
「くっ、ヴェール……! お前は相変わらず私の高貴な装いを理解せん女だな! これは、私が民衆と触れ合った証……いわば『心の勲章』が具現化したものなのだ!」
「具現化した結果、中身が『商店街の福引き三等賞』なのが問題だと言っているんです。それからリリアン様、その鏡のドレス。今、シャンデリアの光を反射して、天井の歴史ある絵画の一部が焦げ始めていますよ。聖女が歴史的建造物を破壊してどうするんですか。放火魔としてギルドに登録されたいんですか?」
「まあ! ひどいですわ! これは私の内なる光が、外の世界に溢れ出しているだけですのよ! あつっ……あら? なんだか自分の背中も熱くなってきましたわ!」
リリアンが自分の反射光でセルフ熱中症になりかけ、バタバタと暴れる。
その拍子に、彼女のドレスに貼り付けられた鏡が数枚剥がれ、床で粉々に砕け散った。
会場に集まった貴族たちは、もはや「断罪」よりも「火災」の心配をして、一歩、また一歩と後退していく。
「……シリル卿。今です。この地獄の光景を終わらせるために、あなたの『最強の騎士』としての力を使ってください。具体的に言うと、あの二人を布でぐるぐる巻きにして、涼しい地下室へ搬送してください」
私が指示を飛ばすと、隣でずっと笑いを堪えていたシリル卿が、ようやく一歩前に出た。
「……了解した、我が最愛の軍師殿。……だが、その前に一つだけ、私にも言わせてもらいたい」
シリル卿は、混乱の渦中にある王子とリリアンを冷徹な目で見下ろした。
その全身から放たれる圧倒的な威圧感に、王子は勲章をジャラジャラ鳴らしながら震え上がった。
「し、シリル……! お前もこの女の毒舌に汚染されたのか!? 目を覚ませ! お前のような英雄には、もっとこう……フワフワした、鏡のように輝く聖女が相応しいはずだ!」
「……殿下。あいにく、私の好みは『フワフワしたもの』でも『反射するもの』でもない。……私の心を射抜いたのは、この世の不条理を容赦なく切り裂く、この女性の『言葉』だけだ」
シリル卿は、衆人環視の中で、私の肩を力強く抱き寄せた。
王宮中の貴族たちが、驚愕のあまり息を呑む。
「ヴェール・ローゼライトは、何の取り柄もない女ではない。……彼女のツッコミは、迷走するこの国を正す『導きの光』だ。彼女がいなければ、あなたは今頃、パンの靴を履いて崖から飛び降りていただろう」
「な、な……っ!!」
「私は、彼女を愛している。彼女が放つ毒舌の一言一言が、私の魂を震わせ、生きる喜びを与えてくれる。……彼女こそが、私の生涯をかけて守り、そしてその鋭い言葉に一生晒され続けたいと願う、唯一の女性だ」
シリル卿はそのまま、私を包み込むように深く抱きしめた。
彼の白銀の礼服から、清潔な香りと、騎士らしい逞しい鼓動が伝わってくる。
「……。……。……シリル卿」
私は、彼の腕の中で、顔を真っ赤にしながら呟いた。
「……今のセリフ、もし私が『恥ずかしくて今すぐ消えたいです』というツッコミを入れたら、あなたはそのまま私の言葉を『至高の愛の囁き』として脳内で変換するつもりですか?」
「……ふふ。……当然だろう? 君が何を言おうと、私には『好きだ』と聞こえるようになっているんだ」
「重症ですよ。……シリル卿。一つ、物理的なオチをつけてもよろしいですか?」
「なんだ?」
「……あなたの抱きしめる力が強すぎて、私の背中のファスナーが、さっきのリリアン様の鏡と同じように悲鳴を上げて……今、一ミリほど弾けました」
「…………っ!! す、すまない!!」
シリル卿が慌てて私を離すと、背後で「パチンッ」という小気味良い音が響いた。
まさに、感動の告白が『極上のオチ』へと変わった瞬間だった。
「……ほら、見てください。シリアスな空気を作ろうとするから、衣装が追いつかないんですよ。……殿下、リリアン様。私たちの『愛』……いえ、私の『ツッコミの矛先』は、もう決まりました。あなたたちの迷走に付き合う暇は、一分一秒もありませんわ!」
私は、背中の弾けた部分を手で押さえながらも、勝ち誇ったように扇子を広げた。
会場には、シリル卿の爆笑と、王子の絶叫、そして聖女の「あつーい!」という叫びが入り混じり、前代未聞の「爆笑舞踏会」として歴史に刻まれることとなった。
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