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煌びやかなシャンデリア、最高級のワイン、そして着飾った貴族たち。
王宮で開催された夜会は、まさに「無駄遣いの極致」といった様相を呈していた。
その中心で、第一王子クロードが、隣に寄り添う男爵令嬢ルルナの肩を抱き寄せ、私を指差した。
「ウリエル・フォン・グロスタ公爵令嬢! 貴様のような心の冷え切った女、もはや婚約者として認めるわけにはいかない! 今この場をもって、貴様との婚約を破棄する!」
静まり返る会場。
周囲の貴族たちは、私を憐れむような、あるいは冷笑するような視線で見てくる。
しかし、私の脳内では別の現象が起きていた。
『婚約破棄』という単語が入力された瞬間、巨大なそろばんが「パチパチ」と軽快な音を立てて弾かれたのだ。
「……今、なんと仰いました?」
「聞こえなかったのか? 婚約破棄だ! 私は真実の愛、ルルナと共に歩むことに決めたのだ!」
私は無意識に口角が上がるのを必死に抑え、震える声を出した。
もちろん、悲しみではなく、あまりの「収支改善」への喜びに震えているのだ。
「……っ。左様でございますか。殿下、そのご決断は……確定事項と考えてよろしいでしょうか?」
「当然だ! 二度と取り消さぬ!」
よし、言質は取った。
私は胸の中でガッツポーズを決め、即座に脳内の帳簿を更新した。
婚約維持費:月額一五〇万ゴールド。
季節ごとの贈り物代:年間一二〇〇万ゴールド。
殿下の「思いつき」による慈善事業への寄付金:測定不能。
これらすべてが、今この瞬間、私の資産から支出されることはなくなる。
「ああ、なんてこと……。夢のようですわ……」
「フン、ショックで現実逃避を始めたか。だが許さんぞ、ウリエル。ルルナに対して行った数々の嫌がらせの罪、償ってもらう!」
「嫌がらせ、ですか?」
私は思わず、ルルナが身にまとっているドレスをじっと見つめた。
「そ、そうですわ! ウリエル様、私に『その安物の香水、鼻が曲がるから近くに来ないで』なんて仰いましたわよね!」
ルルナが涙ぐみながら訴える。
私は首を傾げた。
「安物? いえ、正確には『その一瓶一〇万ゴールドもする合成香料たっぷりの香水は、価格に対する費用対効果が悪すぎるので、石鹸で体を洗ったほうがマシです』と申し上げたはずですが?」
「な、なんですって!?」
「殿下、彼女のドレスについても以前申し上げましたよね。そのシルクは王室御用達の工房のものですが、裁断ミスを隠すために余計なレースを三割増しで使っています。完全なぼったくりですわ」
「黙れ! ルルナの美しさに値段をつけようというのか、この守銭奴め!」
クロード殿下は顔を真っ赤にして怒鳴った。
彼は知らないのだろう。
そのルルナがつけている宝石の維持費さえ、公爵家の「婚約者援助枠」から計上されていたことを。
「守銭奴……。最高の褒め言葉ですわ。殿下、一つ確認させていただきますが、婚約破棄ということは、これまで私がお貸ししていた『公爵家の所有物』もすべてお返しいただけますのよね?」
「貸していただと? そんなもの、一時の情けで私が受け取ってやっていたものばかりだろうが!」
「まあ、そう仰るなら話が早いですわ。今すぐ、その首元のタイピンと、ルルナ様が身につけているエメラルドのイヤリング、それから、その靴のバックルも回収させていただきます」
「なっ……!?」
私は扇でルルナを指し示した。
「ルルナ様。そのエメラルド、時価で二〇〇万ゴールドは下りません。それは我が家に代々伝わる資産の一つ。婚約者でもない貴女に無償で提供する義理は、一ミリたりともございませんの」
「え、ええっ!? これ、クロード様が『君の瞳と同じ色の星を見つけてきた』って仰ってプレゼントしてくださったのに!」
「星ではなく、私の家の金庫にあったものですわ。殿下、公金横領ならぬ、婚約者資産の横流しとは……見上げ入る王子様ですこと」
私は優雅にカーテシーをした。
周囲の貴族たちがザワつき始める。
憐れみの視線は、今や「泥棒扱い」された王子と男爵令嬢へと向けられていた。
「くっ、返す! 返せばいいのだろう! こんなもの、呪われた金で買った装飾品などこちらから願い下げだ!」
クロード殿下がタイピンを毟り取り、床に投げ捨てようとした。
「お待ちになって! 床に傷がついたら修繕費が発生しますわ! 丁寧に私のハンカチの上へ置いてくださいませ!」
「……貴様、本当に可愛げのない女だな!」
「可愛げで腹は膨れませんから。ああ、ついでに殿下が先ほど飲み干したそのヴィンテージワイン、一本五〇万ゴールドですが、これも私の実家からの献上品リストに入っております。こちらは消化済みですので、領収書を切って王宮の会計局に回しておきますわね」
クロード殿下は絶句し、ルルナは顔を青くしてイヤリングを外そうと四苦八苦している。
「では、私はこれにて失礼いたします。婚約破棄に伴う事務手続きは、明日、私の顧問弁護士と会計士を軍団で引き連れて参りますので」
「軍団……?」
「はい。一文の誤差も許さない、我が家の精鋭たちです。それでは皆様、ごきげんよう。これからの私の人生、黒字確定(ハッピーエンド)を確信しておりますわ!」
私は、呆然と立ち尽くす元婚約者たちを背に、軽やかな足取りで会場を後にした。
出口へ向かう私の足音は、もはや「チャリン、チャリン」と金貨が鳴る音にしか聞こえなかった。
夜風が心地よい。
馬車に乗り込むと、私はすぐに手帳を取り出した。
「さて、まずは浮いた婚約維持費で、ずっと欲しかった領地の最新型製粉機を三台……いえ、バルク買いで五台注文しましょうか」
ウリエル・フォン・グロスタ。
彼女にとっての失恋は、史上最高のコストカット・プロジェクトの成功を意味していた。
王宮で開催された夜会は、まさに「無駄遣いの極致」といった様相を呈していた。
その中心で、第一王子クロードが、隣に寄り添う男爵令嬢ルルナの肩を抱き寄せ、私を指差した。
「ウリエル・フォン・グロスタ公爵令嬢! 貴様のような心の冷え切った女、もはや婚約者として認めるわけにはいかない! 今この場をもって、貴様との婚約を破棄する!」
静まり返る会場。
周囲の貴族たちは、私を憐れむような、あるいは冷笑するような視線で見てくる。
しかし、私の脳内では別の現象が起きていた。
『婚約破棄』という単語が入力された瞬間、巨大なそろばんが「パチパチ」と軽快な音を立てて弾かれたのだ。
「……今、なんと仰いました?」
「聞こえなかったのか? 婚約破棄だ! 私は真実の愛、ルルナと共に歩むことに決めたのだ!」
私は無意識に口角が上がるのを必死に抑え、震える声を出した。
もちろん、悲しみではなく、あまりの「収支改善」への喜びに震えているのだ。
「……っ。左様でございますか。殿下、そのご決断は……確定事項と考えてよろしいでしょうか?」
「当然だ! 二度と取り消さぬ!」
よし、言質は取った。
私は胸の中でガッツポーズを決め、即座に脳内の帳簿を更新した。
婚約維持費:月額一五〇万ゴールド。
季節ごとの贈り物代:年間一二〇〇万ゴールド。
殿下の「思いつき」による慈善事業への寄付金:測定不能。
これらすべてが、今この瞬間、私の資産から支出されることはなくなる。
「ああ、なんてこと……。夢のようですわ……」
「フン、ショックで現実逃避を始めたか。だが許さんぞ、ウリエル。ルルナに対して行った数々の嫌がらせの罪、償ってもらう!」
「嫌がらせ、ですか?」
私は思わず、ルルナが身にまとっているドレスをじっと見つめた。
「そ、そうですわ! ウリエル様、私に『その安物の香水、鼻が曲がるから近くに来ないで』なんて仰いましたわよね!」
ルルナが涙ぐみながら訴える。
私は首を傾げた。
「安物? いえ、正確には『その一瓶一〇万ゴールドもする合成香料たっぷりの香水は、価格に対する費用対効果が悪すぎるので、石鹸で体を洗ったほうがマシです』と申し上げたはずですが?」
「な、なんですって!?」
「殿下、彼女のドレスについても以前申し上げましたよね。そのシルクは王室御用達の工房のものですが、裁断ミスを隠すために余計なレースを三割増しで使っています。完全なぼったくりですわ」
「黙れ! ルルナの美しさに値段をつけようというのか、この守銭奴め!」
クロード殿下は顔を真っ赤にして怒鳴った。
彼は知らないのだろう。
そのルルナがつけている宝石の維持費さえ、公爵家の「婚約者援助枠」から計上されていたことを。
「守銭奴……。最高の褒め言葉ですわ。殿下、一つ確認させていただきますが、婚約破棄ということは、これまで私がお貸ししていた『公爵家の所有物』もすべてお返しいただけますのよね?」
「貸していただと? そんなもの、一時の情けで私が受け取ってやっていたものばかりだろうが!」
「まあ、そう仰るなら話が早いですわ。今すぐ、その首元のタイピンと、ルルナ様が身につけているエメラルドのイヤリング、それから、その靴のバックルも回収させていただきます」
「なっ……!?」
私は扇でルルナを指し示した。
「ルルナ様。そのエメラルド、時価で二〇〇万ゴールドは下りません。それは我が家に代々伝わる資産の一つ。婚約者でもない貴女に無償で提供する義理は、一ミリたりともございませんの」
「え、ええっ!? これ、クロード様が『君の瞳と同じ色の星を見つけてきた』って仰ってプレゼントしてくださったのに!」
「星ではなく、私の家の金庫にあったものですわ。殿下、公金横領ならぬ、婚約者資産の横流しとは……見上げ入る王子様ですこと」
私は優雅にカーテシーをした。
周囲の貴族たちがザワつき始める。
憐れみの視線は、今や「泥棒扱い」された王子と男爵令嬢へと向けられていた。
「くっ、返す! 返せばいいのだろう! こんなもの、呪われた金で買った装飾品などこちらから願い下げだ!」
クロード殿下がタイピンを毟り取り、床に投げ捨てようとした。
「お待ちになって! 床に傷がついたら修繕費が発生しますわ! 丁寧に私のハンカチの上へ置いてくださいませ!」
「……貴様、本当に可愛げのない女だな!」
「可愛げで腹は膨れませんから。ああ、ついでに殿下が先ほど飲み干したそのヴィンテージワイン、一本五〇万ゴールドですが、これも私の実家からの献上品リストに入っております。こちらは消化済みですので、領収書を切って王宮の会計局に回しておきますわね」
クロード殿下は絶句し、ルルナは顔を青くしてイヤリングを外そうと四苦八苦している。
「では、私はこれにて失礼いたします。婚約破棄に伴う事務手続きは、明日、私の顧問弁護士と会計士を軍団で引き連れて参りますので」
「軍団……?」
「はい。一文の誤差も許さない、我が家の精鋭たちです。それでは皆様、ごきげんよう。これからの私の人生、黒字確定(ハッピーエンド)を確信しておりますわ!」
私は、呆然と立ち尽くす元婚約者たちを背に、軽やかな足取りで会場を後にした。
出口へ向かう私の足音は、もはや「チャリン、チャリン」と金貨が鳴る音にしか聞こえなかった。
夜風が心地よい。
馬車に乗り込むと、私はすぐに手帳を取り出した。
「さて、まずは浮いた婚約維持費で、ずっと欲しかった領地の最新型製粉機を三台……いえ、バルク買いで五台注文しましょうか」
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