婚約破棄、感謝いたしますわ!節約狂いの悪役令嬢、浮いた婚約維持費で領地を救う

小梅りこ

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「……はぁ。セバス、この封筒の紙質を見てちょうだい。最高級の羊皮紙に、王家の魔力封印。これ一通で、我が領地の農家三軒が一年間暮らせるだけのコストがかかっていますわ」

私は、届けられたばかりの手紙を指先でつまみ、心底嫌そうに振ってみせた。
そこへ、泥だらけの長靴を履いたまま、カシアン様が執務室に飛び込んできた。

「ウリエル、王宮の使いが来ているというのは本当か? まさか、また寄付金の催促ではあるまいな」

「いえ。今回はもっと滑稽ですわよ。……『至急、王宮の財政再建を支援せよ。さすれば、貴様の追放を解除し、公爵令嬢としての地位を完全に復権させてやる』ですって」

私は手紙を放り出し、背もたれに深く体を預けた。
カシアン様はそれを拾い読み、盛大に鼻で笑った。

「……復権だと? どの口が言う。今の貴様は、私の領地を黒字化させ、すでに王都の商会からも一目置かれる実業家だぞ。あんな不採算な王宮に戻るメリットなど、一銭もないだろうに」

「全くですわ。追放という名の『コストカット』を勧めてくれたのはあちら。今さら『買い戻し(買収)』を提案してくるなんて、市場価値を読み違えるにも程がありますわね」

階下からは、王宮の特使が必死にセバスに詰め寄る声が聞こえてくる。
私は溜め息をつき、渋々立ち上がった。

「仕方ありませんわ。とりあえず、今の私の『時給』を分からせてあげましょう。……セバス、特使を客間に。あ、お茶は出さなくて結構よ。お湯だけで十分です」

客間に入ると、そこには以前、私を鼻で笑っていた王宮の若手文官が、青白い顔で座っていた。

「ウリエル様……! ああ、よくぞお会いいただけました! どうか、どうかお力をお貸しください! 王宮の金庫が……本当に、底をついたのです!」

「あら、ご挨拶ですわね。まずは名刺と、相談料の前払いをお願いします」

「そ、相談料……?」

文官が目を丸くする。
私は懐から、昨日作成したばかりの『ウリエル・コンサルティング料金表』を突きつけた。

「基本相談料、三〇分で一万ゴールド。出張費、宿泊費は別。さらに、元婚約者に関わる案件の場合、不快指数に伴う割増料金が五〇パーセント加算されます」

「な、なんという高額な……! 王宮は今、パン一斤買うのにも苦労しているというのに!」

「あら、それは大変。では、その苦労をあと三〇分ほど味わってからお帰りになります? 私の時間は一秒ごとに価値が上がっているのです。……さて、三〇分経過しましたわ。一万五千ゴールド、現金か、即時決済可能な債権でいただけますかしら?」

文官はガタガタと震えながら、懐から宝石のついた家紋入りの指輪を取り出した。
私はそれをセバスに渡し、即座に鑑定させる。

「お嬢様、質流れ価格で約二万ゴールドかと」

「よろしい。五千ゴールド分は、次の三〇分の予約金として預かっておきますわ。……で、本題は何かしら? あのおバカな王子様とルルナ様が、宝物庫の金貨を全部食べてしまったとでも?」

「……。食べてはいませんが、似たようなものです。ルルナ様が『結婚式の予行演習』と称して、毎日五千人を集めた豪華なパーティを繰り返しておりまして……。クロード殿下も『愛の予行演習に妥協は許さない』と、全額国庫から支出を許可されました」

隣で聞いていたカシアン様が、額を押さえて絶句している。

「予行演習に国庫を使うのか……。それはもはや、政治ではなく集団自決だな」

「ええ、まさに。それで、いよいよ兵士たちの給与が未払いになり、王都の近衛騎士団がストライキを始めたのです。国王陛下も寝込んでしまい、もうウリエル様しか……!」

私は冷たく微笑み、手元のそろばんをジャラリと鳴らした。

「なるほど。つまり、あの方たちが散らかした『負債の山』を、私に片付けろと。……いいでしょう。お引き受けしますわ」

「お、本当ですか!? やはりウリエル様は王家への忠誠を……!」

「勘違いしないで。私は『忠誠』を売るつもりはありません。『再建案』を売るのです。……カシアン様、この案件、面白いことになりそうですわよ」

私は文官に対し、一枚の契約書を差し出した。

「契約条件。一、王宮の全支出権限を、一時的に私に委譲すること。一、クロード殿下とルルナ様の生活費を、私の指定する『最低保障額』まで削ること。一、そして――今回のコンサルティング成功報酬として、王家が所有する『北方鉱山の採掘権』をグロスタ領に譲渡すること」

「な、北方鉱山!? あそこは王家の重要な財源では……!」

「財源を活かせない無能に、所有権を主張する資格はありませんわ。嫌なら、その指輪を返して、今すぐお帰りください。あ、その場合でも相談料の一万五千ゴールドは没収(キャンセル料)させていただきます」

文官は、もはや選べる選択肢がないことを悟ったようだった。
彼は震える手で、契約書に王宮の代理印を押した。

「……。賢い選択ですわ。セバス、荷造りを。カシアン様、少しの間、領地の留守をお願いできますか?」

「……。いや、私も行く。あんな伏魔殿に貴様を一人で行かせるわけにはいかない。それに……奴らが貴様に無礼を働いたら、今度こそ私の剣で『物理的なリストラ』を執行してやらねば気が済まない」

「あら、カシアン様。それは護衛費用として高くつきそうですわね。……ふふ、楽しみですわ。王宮という名の『巨大な赤字垂れ流し機』を、どこまで筋肉質な組織に改造できるか」

私は窓の外に広がる王都の空を見据えた。
かつて私を追い出した者たちよ、覚悟なさい。
あなたたちが夢見た「真実の愛」を、私という現実(すうじ)が徹底的に粉砕して差し上げますわ!
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