婚約破棄、感謝いたしますわ!節約狂いの悪役令嬢、浮いた婚約維持費で領地を救う

小梅りこ

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王都の喧騒から外れた、薄暗い裏路地。
かつて「真実の愛」を叫び、王宮の財政を食いつぶした男爵令嬢ルルナは、今や泥にまみれた安物の服を纏い、路肩に座り込んでいた。

「どうして……どうして私がこんな目に遭わなきゃいけないのぉ……っ」

彼女の目の前には、空になった財布と、数枚の「督促状」が転がっている。
そこへ、コツコツと小気味よい靴音が響いた。

「あら、ルルナ様。そんなところで何をしてらっしゃいますの? その場所、路面占有許可証は取っていますかしら?」

ルルナが顔を上げると、そこには非の打ち所がないほど完璧に整えられたドレス姿の私――ウリエルが立っていた。
隣には、相変わらず冷徹な威圧感を放つカシアン様が、私の日傘を差してくれている。

「ウ、ウリエル様!? ひどいわ、クロード様ったら私を追い出したのよ! 『お前が金を使いすぎるからだ』なんて、愛があればお金なんて関係ないって言ったくせに!」

「愛は無形資産ですが、支出は現金資産(キャッシュ)を減らす確定要素ですもの。愛でパンは買えませんわよ、ルルナ様」

私は扇を広げ、ルルナの惨めな姿を上から下までスキャンした。

「……ふむ。その服、以前私が『雑巾にしたほうがマシ』と申し上げた麻の端切れで作られた既製品ですね。当時の購入価格の〇・〇一パーセントの価値も残っていませんわ」

「そんな数字の話なんていいわよぉ! 私、お腹が空いて死にそうなの! お願い、昔のよしみで何か食べさせて!」

私はため息をつき、セバスに目配せをした。
セバスは無言で、茶色の紙袋をルルナに差し出した。

「……これ、なんですの?」

「パンの耳ですわ。今朝、市場のパン屋で『廃棄寸前のものを一括購入(バルク買い)』した際のおまけです。無償で差し上げるのは教育に悪いので、後で路地の掃除一時間分と相殺(バーター)しておきますわね」

ルルナは震える手でパンの耳を掴み、貪るように食べ始めた。
かつて王宮で最高級のフォアグラを突っついていた女の姿とは、到底思えない。

「……おいしい。おいしいわぁ……っ!」

「でしょうね。空腹は最高のスパイスと言いますが、正確には『欠乏状態における味覚の感度上昇による満足度の最大化』ですわ。……でも、ルルナ様。貴女は大切なことを忘れています」

私が冷たく告げると、ルルナがパンの耳を口に含んだまま固まった。

「貴女がこれまで浪費した金額、および王宮の備品を勝手に売り払った代金。それらはすべて『損害賠償金』として、貴女のこれからの労働賃金から天引きされるよう、ギルドに手配しておきましたわ」

「え……? どういうことですのぉ?」

「簡単に言えば、貴女は死ぬまで『黒字』になることはありません。一生をかけて、私の計算した負債を完済していただくということですわ。……あ、安心してくださいな。利息は法定ギリギリの親切設計にしておきましたから」

ルルナの顔から、一気に血の気が引いていく。
それを見つめるカシアン様が、呆れたように口を開いた。

「……ウリエル。貴様、慈悲を見せるのかと思えば、死ぬまで徴収を続けるのか」

「当然ですわ、カシアン様。回収すべき債権を放棄するのは、経営者として最大の怠慢ですもの。……ルルナ様、そのパンの耳、しっかり味わって。それが貴女がこれからの人生で手に入れられる、数少ない『利益』ですわよ」

「嫌ぁぁぁ! こんなの、真実の愛の結末じゃないわぁぁぁ!」

ルルナの叫びが裏路地に虚しく響き渡る。
私は時計を確認し、優雅に背を向けた。

「さて、カシアン様。不採算個体の観察は終わりです。次は、王宮から回収した未稼働資産の競売(オークション)に向かいましょう。一分一秒が、金貨の音を奏でていますわ!」

「……。ああ、分かった。……。おい、ルルナ。パンの耳はよく噛んで食え。喉に詰めると医療費がかかるからな」

カシアン様の無慈悲なアドバイスと共に、私たちは路地を後にした。
真実の愛が破綻した後に残るのは、甘い思い出ではなく、冷酷なまでに正確な「請求書」だけなのだ。
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