婚約破棄、感謝いたしますわ!節約狂いの悪役令嬢、浮いた婚約維持費で領地を救う

小梅りこ

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王宮の大広間は、皮肉にもあの日と同じ熱気に包まれていた。
私がクロード殿下から「婚約破棄」を言い渡された、あの断罪パーティの夜と同じ場所に。

しかし、壇上に立っているのは殿下ではなく、帳簿を携えた私だ。
そして私の隣には、王家から全権を委託された証明である「金色のそろばん」を持ったセバスと、冷徹な守護者たるカシアン様が控えている。

「ウ、ウリエル! これはいったい何の真似だ! 私の私室から、コレクションの彫像や秘蔵のワインまで持ち出すとは!」

クロード殿下が、ボロボロになった平民用の服のまま、衛兵に左右を固められて叫んでいる。
その隣では、泥遊びでもしたかのように汚れたルルナ様が、力なく座り込んでいた。

「何の真似、ですって? 失礼ね。私はただ、この国から『不採算部門』を完全に切り離すための儀式を行っているだけですわ」

私は優雅に、一通の公文書を高く掲げた。

「皆様、注目なさい。本日、国王陛下の御名において、第一王子クロード、および元男爵令嬢ルルナを『国家経済的無能者』として公に断罪いたします!」

「経済的……無能者だと!?」

クロード殿下が目を見開く。
広間に集まった貴族たちから、どよめきが上がった。

「左様でございます。殿下、貴方がこの一年間で費やした娯楽費は、王宮の防衛予算の二割に相当します。それに対し、貴方が生み出した国益は……セバス、計算して」

「はい。算定の結果、マイナス八億ゴールドでございます」

「……だそうですわ。愛だの真実だのと美しい言葉を並べていらっしゃいましたが、数字で見れば貴方はただの『歩く国家予算食い潰し機』。もはや王位継承権などという高価な資産を保持する資格はありませんわね」

私は無慈悲にそろばんをジャッ、と弾いた。

「ウリエル様ぁ……! そんな、数字ばかりで人を判断するなんて酷いですわぁ! 心……人の心はないのですかぁ!?」

ルルナ様が涙ながらに訴える。
私は彼女を見下ろし、冷たく微笑んだ。

「心、ですか。ルルナ様。貴女が『心が潤うわぁ』と言って買い漁ったドレスの一着で、王都の孤児が一週間、温かい食事を摂れたことをご存知? 貴女の心を満たすコストが、国民の生存コストを上回っている。これを『害悪』と呼ばずして何と呼びますの?」

「うっ……、それは……」

「殿下、そしてルルナ様。貴方がたは今日、この場をもって王族および貴族の籍を完全に抹消されます。資産も、名誉も、そしてその『無駄に高いプライド』も、すべて国庫へ返上していただきますわ」

カシアン様が、一歩前に出て剣の鞘を鳴らした。

「……。往生際が悪いぞ、クロード。貴様が愛と呼んだものの正体は、他人の労働を搾取して得た甘い蜜に過ぎなかった。……その代償を、これからの人生ですべて支払うがいい」

「ノックス辺境伯……貴様まで! ウリエル、頼む、考え直してくれ! 私は……私は本当にお前を愛していたんだ!」

クロード殿下が、往苦しいほど情けない声で縋りついてくる。
私は彼の目を真っ直ぐに見つめ、最後の一撃を放った。

「愛していた、ですか。……。殿下、私の査定では、貴方のその言葉の市場価値は現在『ゼロ』ですわ。むしろ、聞かされる時間の分だけ私の人件費が損失(ロス)になっています。……セバス、彼らを退場させてちょうだい。清掃業者を呼んで、この場所を徹底的に消毒するのも忘れずに」

「かしこまりました。……。さあ、殿下。いえ、クロード氏。速やかに移動を。滞在時間が一分延びるごとに、貴方の将来の借金に利息が加算されますぞ」

「い、嫌だ! 私は王子だ! 離せ! 離せぇぇ!」

引きずられていく二人の叫び声が、広間に虚しく響き渡る。
貴族たちは、かつての主役が没落していく様を、ただ黙って見守るしかなかった。

私は、嵐の去った広間を見渡し、深く息を吐いた。

「……。さて、不採算部門の処理は終わりましたわね。カシアン様、お待たせいたしました」

「……。ああ。見事な断罪だったな、ウリエル。……。これでようやく、この国もまともな『経営』ができるようになるわけだ」

カシアン様が私の肩を抱き寄せ、少しだけ誇らしげに目を細めた。
彼の温もりに触れると、張り詰めていた私の心の計算機も、少しだけ「リラックス」モードに切り替わる。

「ええ。ですが、まだ終わりではありませんわよ。これから、この王宮の全備品のオークションを開始します。……。皆様! まだお帰りになっては困りますわ。掘り出し物がたくさんありますから、しっかりとお金(国益)を落としていってくださいませね!」

私の宣言に、貴族たちが今度は戦々恐々としながら財布を確認し始めた。

「さあ、第一回・王宮資産大処分市の始まりですわ! 一ペニーの無駄も許しませんわよ!」

婚約破棄から始まった私の戦いは、ついに国家規模の「黒字化」へと到達しようとしていた。
私の人生の貸借対照表は、今、かつてないほどの輝きを放っている。
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