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「ミカル・ド・ラ・ヴァリエール! 貴様のような冷酷非道な女との婚約など、本日この時をもって破棄させてもらう!」
きらびやかなシャンデリアが輝く卒業パーティーの真っ只中。
第一王子リュカ・フォン・アスランの怒声が、ホール全体に響き渡った。
周囲の貴族たちは息を呑み、憐れみと嘲笑の視線を一斉に私へと向ける。
その中心で、リュカ王子は可憐な男爵令嬢セシルの肩を抱き寄せ、正義のヒーローさながらのドヤ顔をキメていた。
対する私はといえば、扇で口元を隠すこともなく、ただ無表情に懐中時計を見つめていた。
「……あと三分ですわね」
「は? 何がだ」
「殿下。貴方のその冗長な演説が始まってから、すでに七分が経過しております。私の計算によれば、こうした『断罪劇』の平均的な所要時間は十分。つまり、あと三分で結論を出していただかないと、私の今夜の予定が狂いますの」
「予定……? 貴様、自分が今どんな状況に置かれているのか分かっているのか!」
リュカ王子が顔を真っ赤にして詰め寄ってくる。
隣のセシル様は、不安そうに「ミカルお姉さま……」と呟いているが、彼女の瞳にはなぜか期待の光が宿っているように見えるのは気のせいだろうか。
「分かっておりますわ。婚約破棄、国外追放、あるいは修道院行き。妥当なところでしょう。ですが殿下、時間は有限です。この後の馬車の予約、および領地への引越し業者の手配を十五分刻みで組んでおりますの。さあ、早く『お前のような悪女は出て行け』と仰ってくださいませ。復唱しましょうか?」
「き、貴様ぁ……! 反省の色が微塵もないな! セシルへの執拗な嫌がらせ、教科書を池に投げ込み、ドレスにインクをかけ、挙句の果てには階段から突き落とそうとしただろう!」
私は手帳を取り出し、素早くページを捲った。
「ええと、教科書は水没による耐久実験。ドレスのインクは、彼女の顔色が青白かったので色彩のアクセントを提案しただけですわ。階段に関しては、彼女の運動不足を懸念して背中を少し押して差し上げただけ。すべては効率的な女王教育の一環……と言いたいところですが、説明するのも非効率ですので、全部私がやりましたということで結構ですわ」
「認めたな! この悪女め!」
「はいはい、悪女ですわ。オーホッホッホ! ……これで満足かしら? あと二分ですわよ。早く、追放の宣言を」
あまりの潔さに、周囲のヤジすら止まってしまった。
本来なら、ここで私が泣き崩れたり、あるいは醜く言い訳をしたりして、王子がそれを論破するというのがこの手の娯楽の様式美なのだが。
リュカ王子は、毒気を抜かれたように口をパクパクとさせている。
そこへ、彼の側近である若き宰相、ギルバート・ウィンストンが静かに歩み寄ってきた。
「殿下、ミカル様の仰る通りです。パーティーの終了時刻も迫っておりますし、速やかに手続きを進めましょう」
「ギ、ギルバート……。お前までそんな事務的な……」
「私は事実を述べているだけです。ミカル様、こちらが婚約解消の合意書です。事前に用意しておいたものですが、不備があれば……」
「読み上げる時間が惜しいので、要点だけ。慰謝料は不要、公爵家からの速やかな退去、および王都への立ち入り禁止。……よし、完璧ですわね。ペンを貸してくださいな」
私はギルバートから羽ペンをひったくると、流れるような筆致でサインを書き込んだ。
その間、わずか五秒。
「はい、終わりましたわ! それでは殿下、セシル様。どうぞお幸せに。末永く、非効率な愛を育んでくださいませ」
「ま、待て! ミカル! まだ私は貴様に言い足りないことが――」
「定休日ですわ」
私がぴしゃりと言い放つと、リュカ王子が呆然と固まった。
「……ていきゅうび?」
「ええ。今日、この瞬間をもちまして、私は『公爵令嬢』および『王子の婚約者』という激務から解放されました。つまり、明日からは私の人生における『悪役令嬢』の定休日ですの。誰に何を言われようと、私は私の好きなように、爆速で人生を謳歌させていただきますわ!」
私はドレスの裾を豪快に持ち上げると、呆気にとられる一同を背に、出口へと向かって歩き出した。
「あ、ミカルお姉さま! あの、私も後で追いかけてもいいですか!?」
背後でセシル様が何か不穏なことを叫んでいたような気がしたが、私は聞こえない振りをすることにした。
ホールの時計は、ちょうど午後九時を指していた。
完璧だ。一分一秒の狂いもない。
「さあ、まずは領地へ帰って、三年分の日曜を取り戻しますわよ!」
夜風に吹かれながら、私は心からの笑顔を浮かべた。
こうして、私の「定休日」という名の暴走が始まったのである。
きらびやかなシャンデリアが輝く卒業パーティーの真っ只中。
第一王子リュカ・フォン・アスランの怒声が、ホール全体に響き渡った。
周囲の貴族たちは息を呑み、憐れみと嘲笑の視線を一斉に私へと向ける。
その中心で、リュカ王子は可憐な男爵令嬢セシルの肩を抱き寄せ、正義のヒーローさながらのドヤ顔をキメていた。
対する私はといえば、扇で口元を隠すこともなく、ただ無表情に懐中時計を見つめていた。
「……あと三分ですわね」
「は? 何がだ」
「殿下。貴方のその冗長な演説が始まってから、すでに七分が経過しております。私の計算によれば、こうした『断罪劇』の平均的な所要時間は十分。つまり、あと三分で結論を出していただかないと、私の今夜の予定が狂いますの」
「予定……? 貴様、自分が今どんな状況に置かれているのか分かっているのか!」
リュカ王子が顔を真っ赤にして詰め寄ってくる。
隣のセシル様は、不安そうに「ミカルお姉さま……」と呟いているが、彼女の瞳にはなぜか期待の光が宿っているように見えるのは気のせいだろうか。
「分かっておりますわ。婚約破棄、国外追放、あるいは修道院行き。妥当なところでしょう。ですが殿下、時間は有限です。この後の馬車の予約、および領地への引越し業者の手配を十五分刻みで組んでおりますの。さあ、早く『お前のような悪女は出て行け』と仰ってくださいませ。復唱しましょうか?」
「き、貴様ぁ……! 反省の色が微塵もないな! セシルへの執拗な嫌がらせ、教科書を池に投げ込み、ドレスにインクをかけ、挙句の果てには階段から突き落とそうとしただろう!」
私は手帳を取り出し、素早くページを捲った。
「ええと、教科書は水没による耐久実験。ドレスのインクは、彼女の顔色が青白かったので色彩のアクセントを提案しただけですわ。階段に関しては、彼女の運動不足を懸念して背中を少し押して差し上げただけ。すべては効率的な女王教育の一環……と言いたいところですが、説明するのも非効率ですので、全部私がやりましたということで結構ですわ」
「認めたな! この悪女め!」
「はいはい、悪女ですわ。オーホッホッホ! ……これで満足かしら? あと二分ですわよ。早く、追放の宣言を」
あまりの潔さに、周囲のヤジすら止まってしまった。
本来なら、ここで私が泣き崩れたり、あるいは醜く言い訳をしたりして、王子がそれを論破するというのがこの手の娯楽の様式美なのだが。
リュカ王子は、毒気を抜かれたように口をパクパクとさせている。
そこへ、彼の側近である若き宰相、ギルバート・ウィンストンが静かに歩み寄ってきた。
「殿下、ミカル様の仰る通りです。パーティーの終了時刻も迫っておりますし、速やかに手続きを進めましょう」
「ギ、ギルバート……。お前までそんな事務的な……」
「私は事実を述べているだけです。ミカル様、こちらが婚約解消の合意書です。事前に用意しておいたものですが、不備があれば……」
「読み上げる時間が惜しいので、要点だけ。慰謝料は不要、公爵家からの速やかな退去、および王都への立ち入り禁止。……よし、完璧ですわね。ペンを貸してくださいな」
私はギルバートから羽ペンをひったくると、流れるような筆致でサインを書き込んだ。
その間、わずか五秒。
「はい、終わりましたわ! それでは殿下、セシル様。どうぞお幸せに。末永く、非効率な愛を育んでくださいませ」
「ま、待て! ミカル! まだ私は貴様に言い足りないことが――」
「定休日ですわ」
私がぴしゃりと言い放つと、リュカ王子が呆然と固まった。
「……ていきゅうび?」
「ええ。今日、この瞬間をもちまして、私は『公爵令嬢』および『王子の婚約者』という激務から解放されました。つまり、明日からは私の人生における『悪役令嬢』の定休日ですの。誰に何を言われようと、私は私の好きなように、爆速で人生を謳歌させていただきますわ!」
私はドレスの裾を豪快に持ち上げると、呆気にとられる一同を背に、出口へと向かって歩き出した。
「あ、ミカルお姉さま! あの、私も後で追いかけてもいいですか!?」
背後でセシル様が何か不穏なことを叫んでいたような気がしたが、私は聞こえない振りをすることにした。
ホールの時計は、ちょうど午後九時を指していた。
完璧だ。一分一秒の狂いもない。
「さあ、まずは領地へ帰って、三年分の日曜を取り戻しますわよ!」
夜風に吹かれながら、私は心からの笑顔を浮かべた。
こうして、私の「定休日」という名の暴走が始まったのである。
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