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「……ほう。我が領の誇る最高級の羊毛を、一束につき一銀貨で買い叩こうと? 随分と景気のいいお話ですわね」
領都の広場。そこには、派手な絹の服を着た中年の男と、その取り巻きたちが、地元の羊毛農家を囲んで威圧的な態度を取っていた。
私はアリステア様を背後に従え、扇をゆっくりと動かしながら、その輪の中に割って入った。
「な、なんだお前は! 女子供の出る幕じゃない。これは正当な商談だぞ!」
「正当、ですか。……閣下、今の言葉を聞きました? この男、辞書を買い替える予算をケチったせいで、言葉の意味を履き違えているようですわ」
私はアリステア様に視線を送った。
彼は一歩前に出ると、その凶悪な面構えで商人の鼻先を睨みつける。
「……俺の領地で『正当』を語るなら、俺の納得する数字を出せ。さもなくば、その舌を維持費削減のために切り落としてやろうか?」
「ひっ、ひいいいいっ! こ、公爵閣下……!?」
商人の顔が、一瞬で土気色に変わった。
どうやら私の後ろの「歩く死神」の正体にようやく気づいたらしい。
「さて、商談を続けましょうか。……そちらの帳簿、少し拝見しましたけれど。この羊毛を隣国で売る際のマージン、通常の三倍に設定していますわね? しかも、国境の通行税を『裏道』を使って脱税することで、利益を上乗せする計画かしら」
「な、何を根拠にそんなデタラメを!」
「デタラメ? 失礼ね。私は王都で、あなたのような三流商人が使う『節税という名の犯罪』を、腐るほど見てきましたの。……あと、その服。刺繍に金糸を使っているように見せて、実際は安物の黄銅でしょう? 見栄を張るための虚飾に金をかけ、肝心の仕入れ値を叩く……。節約家として、最も許し難い『無駄』だわ」
私は一歩、また一歩と商人に詰め寄る。
かつてカイル王子の側近たちを震え上がらせた「氷の悪女」の迫力を全開にする。
「いいですか。我が領の羊毛は、アリステア様が品種改良に投資し、農家が飼料代を切り詰めて育てた結晶です。それを不当な安値で買い取るということは……私に対する『宣戦布告』と受け取ってよろしいのかしら?」
「……め、滅相もございません! で、では、適正価格で……」
「あら、適正価格? そんな甘い話、あるわけないでしょう」
私は冷酷に言い放った。
アリステア様が、面白そうに口角を上げるのがわかった。
「不当な商談を試みたことへのペナルティ。そして、我が領の農家に対する精神的慰謝料。これらを差し引くと……。そうね、あなたが持ってきたその『質の悪い』輸入品、すべて現在の市場価格の半値で私が買い取って差し上げますわ。……もちろん、一括支払いですけれど、利息分としてさらに一割カットね」
「そ、そんな!? 赤字だ! 破産してしまう!」
「破産? 素晴らしい。無能な経営者が市場から消えるのは、経済の健全化にとって最大の節約ですわ。……閣下、騎士団の皆様を呼んでいただけます? この方々の荷物、密輸の疑いで徹底的に『検品』……いえ、没収する必要がありますから」
「承知した。……おい、聞こえたか。一欠片の釘すら逃さず回収しろ。リウの計算を狂わせるゴミは、一つ残らず俺が処理する」
アリステア様の合図で、周囲を囲んでいた騎士たちが一斉に動き出した。
商人は腰を抜かし、その場で泣き崩れた。
一銅貨を惜しんで暴利を貪ろうとした結果、彼は全財産を失うことになったのだ。
「……ふう。お疲れ様でした、閣下。これで今期の『臨時収入』は、予定の倍になりそうですわね」
嵐が去った後の広場で、私は家計簿を閉じ、満足げな溜息をついた。
「リウ。お前の交渉術……いや、あれはもう『略奪』に近いな。だが、これほどまでに爽快な略奪は初めてだ」
アリステア様が、感銘を受けたように私の腰を引き寄せた。
彼の強面は相変わらずだが、その瞳には私への深い心酔の色が浮かんでいる。
「略奪だなんて。私はただ、領地の利益を最大化しただけですわ」
「ああ。お前が黒字を叩き出すたび、俺の心はお前に毟り取られていくようだ」
「……あら。閣下の心なら、維持費はかかりませんし、いくらでもいただいておきますわ」
「フッ。……では、この『臨時収入』の一部を使って、今夜は少し贅沢をしないか? ……例えば、照明の魔石をもう一段階明るくするとか」
「……却下ですわ。そんなの無駄遣いでしょう? その分は、来期の肥料の備蓄に回します! 暗いのが嫌なら、私に寄り添っていればいいではありませんか」
「……なるほど。それは、どんな魔石よりも温かくて経済的だな」
私たちは、戦利品(没収した荷物)を運ぶ騎士たちの行列を見送りながら、仲睦まじく……そして徹底的に財布の紐を締め直しながら、城への道を歩いた。
だが、この勝利の知らせは、皮肉なことに王都にいる「あの男」の耳にも届くことになる。
私たちの黒字を狙う最大の「無駄の権化」が、すぐそこまで迫っていた。
領都の広場。そこには、派手な絹の服を着た中年の男と、その取り巻きたちが、地元の羊毛農家を囲んで威圧的な態度を取っていた。
私はアリステア様を背後に従え、扇をゆっくりと動かしながら、その輪の中に割って入った。
「な、なんだお前は! 女子供の出る幕じゃない。これは正当な商談だぞ!」
「正当、ですか。……閣下、今の言葉を聞きました? この男、辞書を買い替える予算をケチったせいで、言葉の意味を履き違えているようですわ」
私はアリステア様に視線を送った。
彼は一歩前に出ると、その凶悪な面構えで商人の鼻先を睨みつける。
「……俺の領地で『正当』を語るなら、俺の納得する数字を出せ。さもなくば、その舌を維持費削減のために切り落としてやろうか?」
「ひっ、ひいいいいっ! こ、公爵閣下……!?」
商人の顔が、一瞬で土気色に変わった。
どうやら私の後ろの「歩く死神」の正体にようやく気づいたらしい。
「さて、商談を続けましょうか。……そちらの帳簿、少し拝見しましたけれど。この羊毛を隣国で売る際のマージン、通常の三倍に設定していますわね? しかも、国境の通行税を『裏道』を使って脱税することで、利益を上乗せする計画かしら」
「な、何を根拠にそんなデタラメを!」
「デタラメ? 失礼ね。私は王都で、あなたのような三流商人が使う『節税という名の犯罪』を、腐るほど見てきましたの。……あと、その服。刺繍に金糸を使っているように見せて、実際は安物の黄銅でしょう? 見栄を張るための虚飾に金をかけ、肝心の仕入れ値を叩く……。節約家として、最も許し難い『無駄』だわ」
私は一歩、また一歩と商人に詰め寄る。
かつてカイル王子の側近たちを震え上がらせた「氷の悪女」の迫力を全開にする。
「いいですか。我が領の羊毛は、アリステア様が品種改良に投資し、農家が飼料代を切り詰めて育てた結晶です。それを不当な安値で買い取るということは……私に対する『宣戦布告』と受け取ってよろしいのかしら?」
「……め、滅相もございません! で、では、適正価格で……」
「あら、適正価格? そんな甘い話、あるわけないでしょう」
私は冷酷に言い放った。
アリステア様が、面白そうに口角を上げるのがわかった。
「不当な商談を試みたことへのペナルティ。そして、我が領の農家に対する精神的慰謝料。これらを差し引くと……。そうね、あなたが持ってきたその『質の悪い』輸入品、すべて現在の市場価格の半値で私が買い取って差し上げますわ。……もちろん、一括支払いですけれど、利息分としてさらに一割カットね」
「そ、そんな!? 赤字だ! 破産してしまう!」
「破産? 素晴らしい。無能な経営者が市場から消えるのは、経済の健全化にとって最大の節約ですわ。……閣下、騎士団の皆様を呼んでいただけます? この方々の荷物、密輸の疑いで徹底的に『検品』……いえ、没収する必要がありますから」
「承知した。……おい、聞こえたか。一欠片の釘すら逃さず回収しろ。リウの計算を狂わせるゴミは、一つ残らず俺が処理する」
アリステア様の合図で、周囲を囲んでいた騎士たちが一斉に動き出した。
商人は腰を抜かし、その場で泣き崩れた。
一銅貨を惜しんで暴利を貪ろうとした結果、彼は全財産を失うことになったのだ。
「……ふう。お疲れ様でした、閣下。これで今期の『臨時収入』は、予定の倍になりそうですわね」
嵐が去った後の広場で、私は家計簿を閉じ、満足げな溜息をついた。
「リウ。お前の交渉術……いや、あれはもう『略奪』に近いな。だが、これほどまでに爽快な略奪は初めてだ」
アリステア様が、感銘を受けたように私の腰を引き寄せた。
彼の強面は相変わらずだが、その瞳には私への深い心酔の色が浮かんでいる。
「略奪だなんて。私はただ、領地の利益を最大化しただけですわ」
「ああ。お前が黒字を叩き出すたび、俺の心はお前に毟り取られていくようだ」
「……あら。閣下の心なら、維持費はかかりませんし、いくらでもいただいておきますわ」
「フッ。……では、この『臨時収入』の一部を使って、今夜は少し贅沢をしないか? ……例えば、照明の魔石をもう一段階明るくするとか」
「……却下ですわ。そんなの無駄遣いでしょう? その分は、来期の肥料の備蓄に回します! 暗いのが嫌なら、私に寄り添っていればいいではありませんか」
「……なるほど。それは、どんな魔石よりも温かくて経済的だな」
私たちは、戦利品(没収した荷物)を運ぶ騎士たちの行列を見送りながら、仲睦まじく……そして徹底的に財布の紐を締め直しながら、城への道を歩いた。
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