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結婚式の翌朝。
普通の公爵夫人なら、甘い新婚の朝をベッドの中で過ごすところでしょう。
けれど、私は違います。
「……閣下。昨日の祝儀と、持ち寄られた特産品の『余剰分』の換金計算が終わりましたわ。……見てください、この数字! 経費を差し引いても、純利益で金貨百五十枚の黒字ですわ!」
私は寝衣(リメイクした古布だ)のまま、アリステア様の執務室に駆け込んだ。
アリステア様もまた、寝癖のついた頭で、昨日届いたばかりの『領地内水路の維持費削減案』を眺めていた。
「……ほう。予想以上の利回りだな。お前の『ご祝儀の適正価格ガイドライン』を配布したのが効いたか」
「ええ。無理な金額を包ませず、その分を領内での消費に回してもらう。……これぞ、持続可能な慶事(けいじ)の形ですわ」
私たちは、朝一番の「黒字の報告」を、どんな愛の囁きよりも甘美に受け止め合っていた。
だが、その平穏を破るように、城門から馬の激しい嘶(いなな)きが聞こえてきた。
「……誰だ、こんな朝早くから。来客用の茶葉を一煎(いっせん)分、無駄にさせる気か」
アリステア様が不機嫌そうに窓の下を睨む。
そこにいたのは、我が実家、アルマンド公爵家の紋章をつけた、泥だらけの馬車だった。
「お、お父様……!?」
私が玄関に駆け下りると、そこにはやつれ果て、目に深いクマを作ったアルマンド公爵が立っていた。
手には、昨日セバスが噂していた『先代の秘密の帳簿』をしっかりと握りしめている。
「リウ……! 助けてくれ、リウ! 我がアルマンド家は、もう終わりだ!」
「落ち着いてください、お父様。……とりあえず、立ち話はカロリーの無駄ですわ。中へ入って、出がらしのお茶でも飲みながら話しましょう」
応接室(暖房は切ってある)で、父は震える手で帳簿を広げた。
「カイル殿下が廃嫡された余波だ……。王家は今、あらゆる公爵家の『過去の帳簿』を穿(ほじ)り返して、不足している国庫を埋めようとしている。……そして見つかってしまったのだ。先々代が残した、巨額の『幽霊債務(ゆうれいさいむ)』が!」
「幽霊債務……?」
「ああ。書類上は存在しないはずの借金だ。だが、王家の監査官……あのジャスティス卿が、リウに剥ぎ取られた法服の恨みを持って、執念で掘り当ておったのだ! このままでは、アルマンド家は全財産を没収され、取り潰しになってしまう!」
父はテーブルに突っ伏して号泣した。
しかし、私は悲鳴を上げる代わりに、父の手からその帳簿をひったくった。
アリステア様も、私の肩越しにその数字を覗き込む。
「……ほう。なるほどな。複雑な二重帳簿と、架空の投資案件のパレードだ。……リウ、これを見てみろ」
「ええ、見えましたわ。……お父様、これ、『終わり』ではありません。……最高の『ボーナスステージ』ですわよ!」
私は、興奮で震える手で計算機(魔道具式)を叩き始めた。
「……いいですか? この債務、よく見れば利息計算が当時の法定上限を超えています。……さらにここ! 返済済みの記録が、別の項目の『修繕費』の中に紛れ込んでいますわ。……これらをすべて再計算して、王家の『徴税ミス』として逆提訴すれば……!」
「逆提訴……!? 相手は王家だぞ!?」
「関係ありませんわ。数字に貴賤(きせん)はございません。……閣下、法的な手続きはお願いします。私はこれから、三日三晩かけてこの帳簿の『無駄』をすべて洗い出し、逆に王家から『過払い金』を毟(むし)り取って差し上げますわ!」
私の瞳には、かつて「悪役令嬢」と呼ばれた時以上の、冷酷で攻撃的な光が宿っていた。
アリステア様も、私のその表情を見て、恍惚(こうこつ)とした表情を浮かべる。
「……リウ。お前が帳簿を睨むその顔……やはり、どんな絶世の美女よりも恐ろしく、そして愛おしい。……分かった、俺が全力で法的な包囲網を敷こう」
「お、お前たち……。結婚早々、何をそんなに楽しそうに……」
父が呆然とする中、私たちは早速、実家の財政再建プロジェクトという名の「王家への反撃」を開始した。
一方その頃、王都の地下牢で、カイル王子はミアさんの後任として入った新米メイドから「一滴の水も無駄にするな」と厳しく指導され、泣きながら床を磨いていた。
「……あたくし、ミアさんに教えてもらった通りにやってるだけですわよぅ」
牢の外で、掃除の修行を終えて王都に派遣されたミアさんが、誇らしげに腕組みをしていた。
王都、最高裁判所。
かつて私が「法服の刺繍」まで剥ぎ取ったジャスティス卿が、新品の(しかし以前より明らかに質の落ちる)法服に身を包み、壇上から私を睨みつけていた。
「リウ・アルマンド! そしてアリステア公爵! 今日こそは逃さんぞ。この先々代の帳簿に記された『未払いの軍事支援金』……利息を含め、金貨三万枚! 即刻支払えなければ、アルマンド家は取り潰しだ!」
法廷内は、王都の貴族たちの冷ややかな視線で満ちている。
彼らにとって、自分たちを「浪費家」とバカにした私と、恐ろしい隣国の公爵が没落するのは最高の見世物なのだ。
「……三万枚、ですか。閣下、聞きました? これほどの巨額の数字を、こんなガタガタの帳簿一冊で請求してくるなんて。算数からやり直したほうがよろしくなくて?」
私は扇をパチンと閉じ、アリステア様と視線を交わした。
アリステア様は、隣で腕を組み、その凶悪な面構えでジャスティス卿を真っ向から威圧している。
「……ああ。三万枚もあれば、我が領なら最新式の灌漑システムが三つは作れるな。そんな大金を、この『インクの滲みだらけのゴミ』のために払う気は一ミンもない」
「ふん、強がりを! 証拠は揃っているのだ!」
ジャスティス卿が勝ち誇ったように書類を叩く。
私はゆっくりと一歩前に出た。
私の手には、この三日間、不眠不休(魔力の最小消費で済むキャンドル一本で耐えた)で精査した『反論の計算書』が握られている。
「ジャスティス卿。……この帳簿の百四十二ページ、四行目をご覧くださいな。……そこに記された『馬一頭につき金貨十枚』という価格設定。当時の王都の市場価格指数と照らし合わせると、三割も割高ですわね」
「……な、何だと?」
「さらに、その下の『輸送経費』。……これ、当時の物流ギルドの記録には存在しないルートを使っていることになっています。つまり……架空請求ですわ。……お父様、先々代の記録係は随分と『クリエイティブ』な仕事がお好きだったようですわね」
後ろで震えていた父が、ひっ、と短い悲鳴を上げる。
「リ、リウ……。そんな昔のことを指摘しても……」
「いいえ、お父様。ここからが本番ですわ。……ジャスティス卿。王家がこの『幽霊債務』を根拠にアルマンド家から過去百年に渡って徴収してきた『特別軍事税』。……これ、利息の複利計算をやり直したところ、とんでもないことが判明しましたの」
私は不敵に微笑み、さらにもう一枚、巨大なグラフが描かれた紙を広げた。
「……徴収ミスによる過払い。および、当時の王家が一方的に設定した不当な金利。……これらをすべて相殺し、現在の物価スライドに合わせて再計算すると……」
私は電卓(フル稼働で熱を持っている)を叩き、その数字を大声で宣言した。
「……王家がアルマンド家に返還すべき金額は、金貨五万枚。……差し引きで、王家が私に金貨二万枚を支払う義務が発生しますわ!!」
法廷に、墓場のような静寂が訪れた。
ジャスティス卿は口を金魚のようにパクパクさせ、傍聴席の貴族たちは椅子から転げ落ちそうになっている。
「な、ななな……馬鹿な! 王家が金を払うなど、前代未聞だ!」
「前代未聞? いいえ、これは『適正な会計処理』ですわ。……閣下、法的な最終確認を」
アリステア様が一歩前に出た。
その足音が、死神の足音のように法廷に響く。
「……ジャスティス。我が領の法務チーム(時給を削って精鋭のみを揃えた)が、すでに王国の憲法と照らし合わせ、この請求の妥当性を確認済みだ。……もしこれに応じないというのなら、我が公爵領は『経済的封鎖』をもって、貴殿らの不当な搾取に対抗させてもらう。……冬の間に小麦が届かなくなっても、文句は言うなよ?」
「ひ、ひいいいっ! あ、アリステア閣下……!」
「さあ、お選びになって、ジャスティス卿。……このまま私の計算を認めて二万枚払うか。……それとも、私がさらに王家の過去五百年の帳簿をすべて洗い出し、さらなる過払い金を発見して王家を破産させるか。……どちらが『お得』かしら?」
私は、冷徹な節約の聖女……いや、復讐の会計士としての笑みを浮かべた。
ジャスティス卿は、もはや恐怖で白目を剥き、その場に崩れ落ちた。
「……勝負あり、ですわね」
法廷を出る際、私は呆然と立ち尽くす貴族たちに向かって、優雅に一礼した。
「皆様。一銅貨の誤差を笑う者は、二万枚の金貨に泣く。……これを機に、家計簿をつけることをお勧めしますわ。……あ、おすすめの安い羽ペンなら、うちの領で販売しておりますわよ?」
アリステア様にエスコートされ、私は堂々と最高裁を後にした。
背後で、アルマンド公爵が「わ、わしの娘は……本物の魔女だったのか……」と呟いていたが、それは最高の褒め言葉として受け取っておくことにした。
「……リウ。お前の計算、途中で少しだけ数字を盛らなかったか?」
馬車の中、アリステア様が可笑しそうに私を見た。
「あら、閣下。それは『交渉上のバッファ』というものですわ。……あ、でも二万枚の利益は確定ですわよ。これで来期の新婚旅行……いえ、『隣国への市場拡大視察』の予算が潤いますわね!」
「……フッ。お前となら、地獄の底の帳簿整理でも楽しめそうだ」
私たちは、勝利の余韻を噛み締めながら、自分たちの城へと帰路についた。
すべての敵を倒し、すべての赤字を黒字に変え。
私たちの物語は、ついに最高の「決算」へと向かう。
普通の公爵夫人なら、甘い新婚の朝をベッドの中で過ごすところでしょう。
けれど、私は違います。
「……閣下。昨日の祝儀と、持ち寄られた特産品の『余剰分』の換金計算が終わりましたわ。……見てください、この数字! 経費を差し引いても、純利益で金貨百五十枚の黒字ですわ!」
私は寝衣(リメイクした古布だ)のまま、アリステア様の執務室に駆け込んだ。
アリステア様もまた、寝癖のついた頭で、昨日届いたばかりの『領地内水路の維持費削減案』を眺めていた。
「……ほう。予想以上の利回りだな。お前の『ご祝儀の適正価格ガイドライン』を配布したのが効いたか」
「ええ。無理な金額を包ませず、その分を領内での消費に回してもらう。……これぞ、持続可能な慶事(けいじ)の形ですわ」
私たちは、朝一番の「黒字の報告」を、どんな愛の囁きよりも甘美に受け止め合っていた。
だが、その平穏を破るように、城門から馬の激しい嘶(いなな)きが聞こえてきた。
「……誰だ、こんな朝早くから。来客用の茶葉を一煎(いっせん)分、無駄にさせる気か」
アリステア様が不機嫌そうに窓の下を睨む。
そこにいたのは、我が実家、アルマンド公爵家の紋章をつけた、泥だらけの馬車だった。
「お、お父様……!?」
私が玄関に駆け下りると、そこにはやつれ果て、目に深いクマを作ったアルマンド公爵が立っていた。
手には、昨日セバスが噂していた『先代の秘密の帳簿』をしっかりと握りしめている。
「リウ……! 助けてくれ、リウ! 我がアルマンド家は、もう終わりだ!」
「落ち着いてください、お父様。……とりあえず、立ち話はカロリーの無駄ですわ。中へ入って、出がらしのお茶でも飲みながら話しましょう」
応接室(暖房は切ってある)で、父は震える手で帳簿を広げた。
「カイル殿下が廃嫡された余波だ……。王家は今、あらゆる公爵家の『過去の帳簿』を穿(ほじ)り返して、不足している国庫を埋めようとしている。……そして見つかってしまったのだ。先々代が残した、巨額の『幽霊債務(ゆうれいさいむ)』が!」
「幽霊債務……?」
「ああ。書類上は存在しないはずの借金だ。だが、王家の監査官……あのジャスティス卿が、リウに剥ぎ取られた法服の恨みを持って、執念で掘り当ておったのだ! このままでは、アルマンド家は全財産を没収され、取り潰しになってしまう!」
父はテーブルに突っ伏して号泣した。
しかし、私は悲鳴を上げる代わりに、父の手からその帳簿をひったくった。
アリステア様も、私の肩越しにその数字を覗き込む。
「……ほう。なるほどな。複雑な二重帳簿と、架空の投資案件のパレードだ。……リウ、これを見てみろ」
「ええ、見えましたわ。……お父様、これ、『終わり』ではありません。……最高の『ボーナスステージ』ですわよ!」
私は、興奮で震える手で計算機(魔道具式)を叩き始めた。
「……いいですか? この債務、よく見れば利息計算が当時の法定上限を超えています。……さらにここ! 返済済みの記録が、別の項目の『修繕費』の中に紛れ込んでいますわ。……これらをすべて再計算して、王家の『徴税ミス』として逆提訴すれば……!」
「逆提訴……!? 相手は王家だぞ!?」
「関係ありませんわ。数字に貴賤(きせん)はございません。……閣下、法的な手続きはお願いします。私はこれから、三日三晩かけてこの帳簿の『無駄』をすべて洗い出し、逆に王家から『過払い金』を毟(むし)り取って差し上げますわ!」
私の瞳には、かつて「悪役令嬢」と呼ばれた時以上の、冷酷で攻撃的な光が宿っていた。
アリステア様も、私のその表情を見て、恍惚(こうこつ)とした表情を浮かべる。
「……リウ。お前が帳簿を睨むその顔……やはり、どんな絶世の美女よりも恐ろしく、そして愛おしい。……分かった、俺が全力で法的な包囲網を敷こう」
「お、お前たち……。結婚早々、何をそんなに楽しそうに……」
父が呆然とする中、私たちは早速、実家の財政再建プロジェクトという名の「王家への反撃」を開始した。
一方その頃、王都の地下牢で、カイル王子はミアさんの後任として入った新米メイドから「一滴の水も無駄にするな」と厳しく指導され、泣きながら床を磨いていた。
「……あたくし、ミアさんに教えてもらった通りにやってるだけですわよぅ」
牢の外で、掃除の修行を終えて王都に派遣されたミアさんが、誇らしげに腕組みをしていた。
王都、最高裁判所。
かつて私が「法服の刺繍」まで剥ぎ取ったジャスティス卿が、新品の(しかし以前より明らかに質の落ちる)法服に身を包み、壇上から私を睨みつけていた。
「リウ・アルマンド! そしてアリステア公爵! 今日こそは逃さんぞ。この先々代の帳簿に記された『未払いの軍事支援金』……利息を含め、金貨三万枚! 即刻支払えなければ、アルマンド家は取り潰しだ!」
法廷内は、王都の貴族たちの冷ややかな視線で満ちている。
彼らにとって、自分たちを「浪費家」とバカにした私と、恐ろしい隣国の公爵が没落するのは最高の見世物なのだ。
「……三万枚、ですか。閣下、聞きました? これほどの巨額の数字を、こんなガタガタの帳簿一冊で請求してくるなんて。算数からやり直したほうがよろしくなくて?」
私は扇をパチンと閉じ、アリステア様と視線を交わした。
アリステア様は、隣で腕を組み、その凶悪な面構えでジャスティス卿を真っ向から威圧している。
「……ああ。三万枚もあれば、我が領なら最新式の灌漑システムが三つは作れるな。そんな大金を、この『インクの滲みだらけのゴミ』のために払う気は一ミンもない」
「ふん、強がりを! 証拠は揃っているのだ!」
ジャスティス卿が勝ち誇ったように書類を叩く。
私はゆっくりと一歩前に出た。
私の手には、この三日間、不眠不休(魔力の最小消費で済むキャンドル一本で耐えた)で精査した『反論の計算書』が握られている。
「ジャスティス卿。……この帳簿の百四十二ページ、四行目をご覧くださいな。……そこに記された『馬一頭につき金貨十枚』という価格設定。当時の王都の市場価格指数と照らし合わせると、三割も割高ですわね」
「……な、何だと?」
「さらに、その下の『輸送経費』。……これ、当時の物流ギルドの記録には存在しないルートを使っていることになっています。つまり……架空請求ですわ。……お父様、先々代の記録係は随分と『クリエイティブ』な仕事がお好きだったようですわね」
後ろで震えていた父が、ひっ、と短い悲鳴を上げる。
「リ、リウ……。そんな昔のことを指摘しても……」
「いいえ、お父様。ここからが本番ですわ。……ジャスティス卿。王家がこの『幽霊債務』を根拠にアルマンド家から過去百年に渡って徴収してきた『特別軍事税』。……これ、利息の複利計算をやり直したところ、とんでもないことが判明しましたの」
私は不敵に微笑み、さらにもう一枚、巨大なグラフが描かれた紙を広げた。
「……徴収ミスによる過払い。および、当時の王家が一方的に設定した不当な金利。……これらをすべて相殺し、現在の物価スライドに合わせて再計算すると……」
私は電卓(フル稼働で熱を持っている)を叩き、その数字を大声で宣言した。
「……王家がアルマンド家に返還すべき金額は、金貨五万枚。……差し引きで、王家が私に金貨二万枚を支払う義務が発生しますわ!!」
法廷に、墓場のような静寂が訪れた。
ジャスティス卿は口を金魚のようにパクパクさせ、傍聴席の貴族たちは椅子から転げ落ちそうになっている。
「な、ななな……馬鹿な! 王家が金を払うなど、前代未聞だ!」
「前代未聞? いいえ、これは『適正な会計処理』ですわ。……閣下、法的な最終確認を」
アリステア様が一歩前に出た。
その足音が、死神の足音のように法廷に響く。
「……ジャスティス。我が領の法務チーム(時給を削って精鋭のみを揃えた)が、すでに王国の憲法と照らし合わせ、この請求の妥当性を確認済みだ。……もしこれに応じないというのなら、我が公爵領は『経済的封鎖』をもって、貴殿らの不当な搾取に対抗させてもらう。……冬の間に小麦が届かなくなっても、文句は言うなよ?」
「ひ、ひいいいっ! あ、アリステア閣下……!」
「さあ、お選びになって、ジャスティス卿。……このまま私の計算を認めて二万枚払うか。……それとも、私がさらに王家の過去五百年の帳簿をすべて洗い出し、さらなる過払い金を発見して王家を破産させるか。……どちらが『お得』かしら?」
私は、冷徹な節約の聖女……いや、復讐の会計士としての笑みを浮かべた。
ジャスティス卿は、もはや恐怖で白目を剥き、その場に崩れ落ちた。
「……勝負あり、ですわね」
法廷を出る際、私は呆然と立ち尽くす貴族たちに向かって、優雅に一礼した。
「皆様。一銅貨の誤差を笑う者は、二万枚の金貨に泣く。……これを機に、家計簿をつけることをお勧めしますわ。……あ、おすすめの安い羽ペンなら、うちの領で販売しておりますわよ?」
アリステア様にエスコートされ、私は堂々と最高裁を後にした。
背後で、アルマンド公爵が「わ、わしの娘は……本物の魔女だったのか……」と呟いていたが、それは最高の褒め言葉として受け取っておくことにした。
「……リウ。お前の計算、途中で少しだけ数字を盛らなかったか?」
馬車の中、アリステア様が可笑しそうに私を見た。
「あら、閣下。それは『交渉上のバッファ』というものですわ。……あ、でも二万枚の利益は確定ですわよ。これで来期の新婚旅行……いえ、『隣国への市場拡大視察』の予算が潤いますわね!」
「……フッ。お前となら、地獄の底の帳簿整理でも楽しめそうだ」
私たちは、勝利の余韻を噛み締めながら、自分たちの城へと帰路についた。
すべての敵を倒し、すべての赤字を黒字に変え。
私たちの物語は、ついに最高の「決算」へと向かう。
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