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「……嫌だ! 僕はここを離れないぞ! このナマコたちは、ラブカが僕のために遣わした愛の結晶なんだ! これを持って帰らなければ、彼女に顔向けができない!」
絶海の孤島、ナマコ島。
ついに到着した王国の救助船を前に、アルベルト王子は砂浜にしがみついて絶叫していた。
その姿は、かつての華やかな王子とは思えないほど全身がナマコの粘液でテラテラと輝き、異様な「生命のヌメリ」を放っている。
「殿下、いい加減にしてください! ナマコを百匹も船に積み込むスペースはありません! というか、臭いです!」
救助隊の隊長が、鼻をつまみながら呆れ果てた声を出す。
その後ろでは、ミィニャ様が「助かった……! やっとナマコ地獄から解放されるわ……!」と、救助隊員の足にすがりついて号泣していた。
「ミィニャ、君というやつは! ラブカがせっかく用意してくれたこの『愛の食卓』を、地獄と呼ぶのか!?」
「愛なわけないでしょうが! あいつ……あの女は、私たちを始末したつもりなんですのよ! 早く、早く王都に連れて帰って! ステーキが食べたいのよぉぉぉ!」
ミィニャ様の絶叫が響き渡る中、王子は無理やり担ぎ上げられ、ナマコと共に船へと放り込まれた。
王都では、あの「深海生放送」以来、ラブカを『深海の賢者』として崇める風潮と、王子を『ナマコに溺れた男』と憐れむ風潮が入り混じり、かつてない混乱が起きていたのである。
一方、その頃。
水深一万メートルの深海神殿では、私のペンが凄まじいスピードで紙の上を走っていた。
「……できたわ! カイト様、大叔父様! これこそが、人類の新たなるフロンティア、『ディープシー・メガロポリス』の設計図よ!」
私が机の上に広げたのは、神殿を中心に広がる、巨大な透明ドーム群の構想図だった。
各ドームは深海魚の回遊路で繋がれ、内部には最新の養殖プラントと研究施設が完備されている。
「……素晴らしい。お嬢様、これ、ただの家じゃなくて『都市』じゃないですか」
カイト様が、図面を覗き込みながら感嘆の声を漏らす。
彼は今、主様の排泄物から抽出した新素材で、都市を支える『人工支柱』の強度計算を行っていた。
「当たり前でしょう? 王都の連中が追いかけてこられないように、私たちはここで一つの『国』を作るのよ。法も常識も、すべて私が決める。……第一条、魚をグロテスクと呼ぶ者は国外追放!」
「……第二条、主様のヌメリを一日三回磨くこと。……これは私の希望だがな」
大叔父エドワードが、満足そうに髭を撫でた。
彼は、私が持ち込んだ現代の魔導理論と、自分の五十年分の知識を融合させ、深海でも快適に暮らせる「魔導エアコン」の開発に成功していた。
「でもラブカ様、これほど広大な都市を作るには、人手が足りません。私たち三人だけでは、主様の世話だけで手一杯ですよ」
「ふふ、カイト様。心配いらないわ。……さっきの放送の後、アンナから魔導通信で連絡があったの。……『王都で干されている変態学者たちが、お嬢様の元へ行きたがっている』ってね」
「……なんと。地上では居場所のない、純粋すぎるオタクたちが……」
「そう。彼らを、私の潜水艇で一人ずつこの深淵へ招待するのよ。……ここは、世界で一番深い場所にある、世界で一番熱い『オタクの聖域』になるわ!」
私の三白眼が、野望でギラギラと輝く。
王妃になって一人の男を支えるなんて、あまりに器が小さすぎたわ。
私はこの深海で、迷えるすべてのオタクたちの女王(クイーン)になるのよ!
「お嬢様、王都からの定期便……いえ、ジンさんたちの輸送船が、水深五百メートルまで物資を届けに来ましたよ。……何やら、王宮から『正式な国書』が届いているとか」
「国書? また王子からのプロポーズかしら。……しつこいわね、ナマコでも投下してあげようかしら」
私が受け取ったのは、国王陛下……アルベルト王子の父からの、直筆の手紙だった。
そこには、驚くべき内容が記されていた。
『ラブカ・ディープシー。……お前の深海魚への情熱、そして一万メートルの底で生き抜く知恵に免じ、ディープシー公爵領の海域すべてを「ラブカ特別自治区」として認める。……ただし、条件がある。……王都でナマコ愛を語り続け、周囲を困惑させているアルベルトを、どうにかしてくれ』
「……丸投げされたわね、王子」
私は手紙を握りつぶし、大叔父様とカイト様を見た。
「カイト様。……決まったわね。私たちの都市の、最初の『不法投棄物』の処理を」
「了解しました、艦長。……王子がこちらに来ようとしたら、主様の巨大な泡で追い返しましょうか」
「いいえ、もっといい方法があるわ。……彼を、ナマコ島の『永久観光大使』に任命しましょう。……あそこなら、誰にも邪魔されず、一生ナマコと愛を語り合えるもの」
深海の静寂の中に、私たちの愉快な笑い声が響く。
地上の喧騒は、もう、この厚い水の壁を通り抜けることはできない。
「さあ、カイト様! 建設を開始するわよ! まずは主様のための、世界一豪華な『黄金の寝床』からね!」
「はい、ラブカ様! どこまでも、あなたの夢に付き合います!」
悪役令嬢と呼ばれた私の人生は、今、一万メートルの底から、世界を震撼させる新たな文明へと進化しようとしていた。
絶海の孤島、ナマコ島。
ついに到着した王国の救助船を前に、アルベルト王子は砂浜にしがみついて絶叫していた。
その姿は、かつての華やかな王子とは思えないほど全身がナマコの粘液でテラテラと輝き、異様な「生命のヌメリ」を放っている。
「殿下、いい加減にしてください! ナマコを百匹も船に積み込むスペースはありません! というか、臭いです!」
救助隊の隊長が、鼻をつまみながら呆れ果てた声を出す。
その後ろでは、ミィニャ様が「助かった……! やっとナマコ地獄から解放されるわ……!」と、救助隊員の足にすがりついて号泣していた。
「ミィニャ、君というやつは! ラブカがせっかく用意してくれたこの『愛の食卓』を、地獄と呼ぶのか!?」
「愛なわけないでしょうが! あいつ……あの女は、私たちを始末したつもりなんですのよ! 早く、早く王都に連れて帰って! ステーキが食べたいのよぉぉぉ!」
ミィニャ様の絶叫が響き渡る中、王子は無理やり担ぎ上げられ、ナマコと共に船へと放り込まれた。
王都では、あの「深海生放送」以来、ラブカを『深海の賢者』として崇める風潮と、王子を『ナマコに溺れた男』と憐れむ風潮が入り混じり、かつてない混乱が起きていたのである。
一方、その頃。
水深一万メートルの深海神殿では、私のペンが凄まじいスピードで紙の上を走っていた。
「……できたわ! カイト様、大叔父様! これこそが、人類の新たなるフロンティア、『ディープシー・メガロポリス』の設計図よ!」
私が机の上に広げたのは、神殿を中心に広がる、巨大な透明ドーム群の構想図だった。
各ドームは深海魚の回遊路で繋がれ、内部には最新の養殖プラントと研究施設が完備されている。
「……素晴らしい。お嬢様、これ、ただの家じゃなくて『都市』じゃないですか」
カイト様が、図面を覗き込みながら感嘆の声を漏らす。
彼は今、主様の排泄物から抽出した新素材で、都市を支える『人工支柱』の強度計算を行っていた。
「当たり前でしょう? 王都の連中が追いかけてこられないように、私たちはここで一つの『国』を作るのよ。法も常識も、すべて私が決める。……第一条、魚をグロテスクと呼ぶ者は国外追放!」
「……第二条、主様のヌメリを一日三回磨くこと。……これは私の希望だがな」
大叔父エドワードが、満足そうに髭を撫でた。
彼は、私が持ち込んだ現代の魔導理論と、自分の五十年分の知識を融合させ、深海でも快適に暮らせる「魔導エアコン」の開発に成功していた。
「でもラブカ様、これほど広大な都市を作るには、人手が足りません。私たち三人だけでは、主様の世話だけで手一杯ですよ」
「ふふ、カイト様。心配いらないわ。……さっきの放送の後、アンナから魔導通信で連絡があったの。……『王都で干されている変態学者たちが、お嬢様の元へ行きたがっている』ってね」
「……なんと。地上では居場所のない、純粋すぎるオタクたちが……」
「そう。彼らを、私の潜水艇で一人ずつこの深淵へ招待するのよ。……ここは、世界で一番深い場所にある、世界で一番熱い『オタクの聖域』になるわ!」
私の三白眼が、野望でギラギラと輝く。
王妃になって一人の男を支えるなんて、あまりに器が小さすぎたわ。
私はこの深海で、迷えるすべてのオタクたちの女王(クイーン)になるのよ!
「お嬢様、王都からの定期便……いえ、ジンさんたちの輸送船が、水深五百メートルまで物資を届けに来ましたよ。……何やら、王宮から『正式な国書』が届いているとか」
「国書? また王子からのプロポーズかしら。……しつこいわね、ナマコでも投下してあげようかしら」
私が受け取ったのは、国王陛下……アルベルト王子の父からの、直筆の手紙だった。
そこには、驚くべき内容が記されていた。
『ラブカ・ディープシー。……お前の深海魚への情熱、そして一万メートルの底で生き抜く知恵に免じ、ディープシー公爵領の海域すべてを「ラブカ特別自治区」として認める。……ただし、条件がある。……王都でナマコ愛を語り続け、周囲を困惑させているアルベルトを、どうにかしてくれ』
「……丸投げされたわね、王子」
私は手紙を握りつぶし、大叔父様とカイト様を見た。
「カイト様。……決まったわね。私たちの都市の、最初の『不法投棄物』の処理を」
「了解しました、艦長。……王子がこちらに来ようとしたら、主様の巨大な泡で追い返しましょうか」
「いいえ、もっといい方法があるわ。……彼を、ナマコ島の『永久観光大使』に任命しましょう。……あそこなら、誰にも邪魔されず、一生ナマコと愛を語り合えるもの」
深海の静寂の中に、私たちの愉快な笑い声が響く。
地上の喧騒は、もう、この厚い水の壁を通り抜けることはできない。
「さあ、カイト様! 建設を開始するわよ! まずは主様のための、世界一豪華な『黄金の寝床』からね!」
「はい、ラブカ様! どこまでも、あなたの夢に付き合います!」
悪役令嬢と呼ばれた私の人生は、今、一万メートルの底から、世界を震撼させる新たな文明へと進化しようとしていた。
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