婚約破棄されたけど、公爵様とお姉さまに助けられました!~私は王子殿下と新たな一歩を踏み出します~

安奈

文字の大きさ
4 / 5

4話 アンリの屋敷へ その1(アルバ・ゴドウィン視点)

しおりを挟む
「ふん……男爵令嬢アンリの奴を、後腐れなく抱いてやろうかと考えていたのだが、失敗したか」

「も、申し訳ありませんでした、侯爵閣下……取り逃してしまい……」


「まあいい……それよりも、しっかりと後片付けをしておけ。壊れた装飾品などは、お前たちの給料では到底買えない物ばかりだからな」

「か、畏まりました……!」


 アンリの護衛達と私の護衛班が格闘戦を繰り広げたのは、私の私室での出来事だ。流石に刃物を取り扱う事件にするわけにもいかなかった為、抵抗された挙句に逃がしてしまった。くそ……役に立たん護衛共だ。


 まあ、格闘戦の際に、天井から下がっているシャンデリアや、私の大切なトロフィーなどが破壊されてしまった。腹立たしいので、アンリの家系に支払うよう命令してやるか。奴の父親は確か、騎士から男爵になった者のはず。武闘派らしいが、所詮は男爵でしかない。


 侯爵である私に逆らうことなど不可能なはずだ。


「閣下、一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「なんだ?」


 部屋の片づけをしていた者の一人が、私に話しかけて来た。そんな暇があるなら、さっさと散らばった装飾品等の破片を処理してほしいものだが。気まぐれに聞いてやることにした。


「アンリ令嬢を取り逃がしたのは申し訳ありません。しかし……あの令嬢、若しくは関係者が復讐に来ないでしょうか? なにせ……」


 私に話しかけている護衛は途中で言葉を止めたが、その先の言葉は「あなたはアンリ令嬢を犯しかけたのですから……」といった文言だろう。私の護衛はバカなのだろうか? 私とあいつは婚約者同士だったのだ。


 婚約関係は途切れたが、最後に後腐れなく抱くこと自体に、何の問題があろうか。しかもこの私がそうしてやると言っていたのに……アンリはそれを拒んで、屋敷から逃げ出した。


「復讐だと? ふはははは、面白いことを言うなゼル」


「アルバ侯爵……?」


 ゼルというのは、私に話しかけている護衛の男の名前だ。呆けた顔つきになっているが、これでも私の護衛なのか、この男は? 私の考えを理解できないようで、何が護衛だ。先ほどの失態と併せて、他の者達と一緒に左遷してやろうか。


「たかだか男爵家に何が出来ると言うのだ? 何か出来るものならば、ぜひ見せて欲しいね。ふはははははっ」


「侯爵閣下……」


 私は大笑いをしてみせる。本当に笑いが止まらないのだ。男爵と侯爵という立場にどれほどの差が開いていると思うのだ? さて、しかし復讐もどきをされるとすれば、それはそれで我慢ならん。例え、返り討ちに出来るとしても、それでは私の腹の虫が収まらんからな。


 私はこちらから、攻勢に出ることを決意した。


「万が一、復讐をされては面倒だ。念のために、こちらから攻勢を掛けるとしようか」


 私の言葉にゼルは驚いたような反応を返した。なんだこいつは? 全く予期していなかったのか? 


「し、しかし……あのような婚約破棄騒動の直後に行くとなると……」

「なんだ? なにか不満でもあるのか?」

「いえ、決してそういうわけではありませんが……」


 他の護衛達はともかく、ゼルに関しては乗り気ではないようだ。まったく使えん男だな、こいつは……。


「貴様、さっきはアンリを取り逃がす失態をしていて、よく私に意見ができるな? ずいぶんと偉くなったじゃないか、ん?」


「侯爵閣下、誤解です……! 決してそのようなつもりはありません……!」


 ゼルはその後も何かを言っていたが、言い訳以外の何物でもない。落ち着いたら、この男は地方へと飛ばしてやるとするか。クビにしたら、この男の家系の者と揉めることになるからな。一応は伯爵家の御曹司……面倒事は避けた方がいいかもしれん。ただ、左遷くらいならば、侯爵家のゴドウィン家には何も言って来られないはずだ。


「今すぐに向かう……と、言いたいところではあるが、流石に先ほどやらかしたばかりだからな。よし、数日以内に準備を整えて、アンリ・シーフォースの屋敷へと向かうぞ!」


 馬車で向かえば、一時間もかからずに到着はする。だがまあ、他の仕事があったりもするからな。適度に片付けてから向かうとするか。

 私のその提案には流石のゼルも納得せざるを得ないようだった。

「か、畏まりました……侯爵閣下の命に従います……」


「当たり前だ、馬鹿者が」


 しかし、ここまで護衛が抵抗してくるとはな。少し意外だった……相手の問題か? この場合はアンリだからか?


「……」


 妙な考えが浮かんだが、そんなものは杞憂だろう。さて、たっぷりと後悔してもらおうか、アンリ。この私に逆らったことをな……!
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」 婚約者として五年間尽くしたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。 他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

転生令嬢は学園で全員にざまぁします!~婚約破棄されたけど、前世チートで笑顔です~

由香
恋愛
王立学園の断罪の夜、侯爵令嬢レティシアは王太子に婚約破棄を告げられる。 「レティシア・アルヴェール! 君は聖女を陥れた罪で――」 群衆の中で嘲笑が響く中、彼女は静かに微笑んだ。 ――前の人生で学んだわ。信じる価値のない人に涙はあげない。 前世は異世界の研究者。理不尽な陰謀により処刑された記憶を持つ転生令嬢は、 今度こそ、自分の知恵で真実を暴く。 偽聖女の涙、王太子の裏切り、王国の隠された罪――。 冷徹な宰相補佐官との出会いが、彼女の運命を変えていく。 復讐か、赦しか。 そして、愛という名の再生の物語。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

平民とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の王と結婚しました

ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・ベルフォード、これまでの婚約は白紙に戻す」  その言葉を聞いた瞬間、私はようやく――心のどこかで予感していた結末に、静かに息を吐いた。  王太子アルベルト殿下。金糸の髪に、これ見よがしな笑み。彼の隣には、私が知っている顔がある。  ――侯爵令嬢、ミレーユ・カスタニア。  学園で何かと殿下に寄り添い、私を「高慢な婚約者」と陰で嘲っていた令嬢だ。 「殿下、どういうことでしょう?」  私の声は驚くほど落ち着いていた。 「わたくしは、あなたの婚約者としてこれまで――」

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

追放された悪役令嬢は辺境にて隠し子を養育する

3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ)
恋愛
 婚約者である王太子からの突然の断罪!  それは自分の婚約者を奪おうとする義妹に嫉妬してイジメをしていたエステルを糾弾するものだった。  しかしこれは義妹に仕組まれた罠であったのだ。  味方のいないエステルは理不尽にも王城の敷地の端にある粗末な離れへと幽閉される。 「あぁ……。私は一生涯ここから出ることは叶わず、この場所で独り朽ち果ててしまうのね」  エステルは絶望の中で高い塀からのぞく狭い空を見上げた。  そこでの生活も数ヵ月が経って落ち着いてきた頃に突然の来訪者が。 「お姉様。ここから出してさし上げましょうか? そのかわり……」  義妹はエステルに悪魔の様な契約を押し付けようとしてくるのであった。

処理中です...