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4話 アンリの屋敷へ その1(アルバ・ゴドウィン視点)
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「ふん……男爵令嬢アンリの奴を、後腐れなく抱いてやろうかと考えていたのだが、失敗したか」
「も、申し訳ありませんでした、侯爵閣下……取り逃してしまい……」
「まあいい……それよりも、しっかりと後片付けをしておけ。壊れた装飾品などは、お前たちの給料では到底買えない物ばかりだからな」
「か、畏まりました……!」
アンリの護衛達と私の護衛班が格闘戦を繰り広げたのは、私の私室での出来事だ。流石に刃物を取り扱う事件にするわけにもいかなかった為、抵抗された挙句に逃がしてしまった。くそ……役に立たん護衛共だ。
まあ、格闘戦の際に、天井から下がっているシャンデリアや、私の大切なトロフィーなどが破壊されてしまった。腹立たしいので、アンリの家系に支払うよう命令してやるか。奴の父親は確か、騎士から男爵になった者のはず。武闘派らしいが、所詮は男爵でしかない。
侯爵である私に逆らうことなど不可能なはずだ。
「閣下、一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
部屋の片づけをしていた者の一人が、私に話しかけて来た。そんな暇があるなら、さっさと散らばった装飾品等の破片を処理してほしいものだが。気まぐれに聞いてやることにした。
「アンリ令嬢を取り逃がしたのは申し訳ありません。しかし……あの令嬢、若しくは関係者が復讐に来ないでしょうか? なにせ……」
私に話しかけている護衛は途中で言葉を止めたが、その先の言葉は「あなたはアンリ令嬢を犯しかけたのですから……」といった文言だろう。私の護衛はバカなのだろうか? 私とあいつは婚約者同士だったのだ。
婚約関係は途切れたが、最後に後腐れなく抱くこと自体に、何の問題があろうか。しかもこの私がそうしてやると言っていたのに……アンリはそれを拒んで、屋敷から逃げ出した。
「復讐だと? ふはははは、面白いことを言うなゼル」
「アルバ侯爵……?」
ゼルというのは、私に話しかけている護衛の男の名前だ。呆けた顔つきになっているが、これでも私の護衛なのか、この男は? 私の考えを理解できないようで、何が護衛だ。先ほどの失態と併せて、他の者達と一緒に左遷してやろうか。
「たかだか男爵家に何が出来ると言うのだ? 何か出来るものならば、ぜひ見せて欲しいね。ふはははははっ」
「侯爵閣下……」
私は大笑いをしてみせる。本当に笑いが止まらないのだ。男爵と侯爵という立場にどれほどの差が開いていると思うのだ? さて、しかし復讐もどきをされるとすれば、それはそれで我慢ならん。例え、返り討ちに出来るとしても、それでは私の腹の虫が収まらんからな。
私はこちらから、攻勢に出ることを決意した。
「万が一、復讐をされては面倒だ。念のために、こちらから攻勢を掛けるとしようか」
私の言葉にゼルは驚いたような反応を返した。なんだこいつは? 全く予期していなかったのか?
「し、しかし……あのような婚約破棄騒動の直後に行くとなると……」
「なんだ? なにか不満でもあるのか?」
「いえ、決してそういうわけではありませんが……」
他の護衛達はともかく、ゼルに関しては乗り気ではないようだ。まったく使えん男だな、こいつは……。
「貴様、さっきはアンリを取り逃がす失態をしていて、よく私に意見ができるな? ずいぶんと偉くなったじゃないか、ん?」
「侯爵閣下、誤解です……! 決してそのようなつもりはありません……!」
ゼルはその後も何かを言っていたが、言い訳以外の何物でもない。落ち着いたら、この男は地方へと飛ばしてやるとするか。クビにしたら、この男の家系の者と揉めることになるからな。一応は伯爵家の御曹司……面倒事は避けた方がいいかもしれん。ただ、左遷くらいならば、侯爵家のゴドウィン家には何も言って来られないはずだ。
「今すぐに向かう……と、言いたいところではあるが、流石に先ほどやらかしたばかりだからな。よし、数日以内に準備を整えて、アンリ・シーフォースの屋敷へと向かうぞ!」
馬車で向かえば、一時間もかからずに到着はする。だがまあ、他の仕事があったりもするからな。適度に片付けてから向かうとするか。
私のその提案には流石のゼルも納得せざるを得ないようだった。
「か、畏まりました……侯爵閣下の命に従います……」
「当たり前だ、馬鹿者が」
しかし、ここまで護衛が抵抗してくるとはな。少し意外だった……相手の問題か? この場合はアンリだからか?
「……」
妙な考えが浮かんだが、そんなものは杞憂だろう。さて、たっぷりと後悔してもらおうか、アンリ。この私に逆らったことをな……!
「も、申し訳ありませんでした、侯爵閣下……取り逃してしまい……」
「まあいい……それよりも、しっかりと後片付けをしておけ。壊れた装飾品などは、お前たちの給料では到底買えない物ばかりだからな」
「か、畏まりました……!」
アンリの護衛達と私の護衛班が格闘戦を繰り広げたのは、私の私室での出来事だ。流石に刃物を取り扱う事件にするわけにもいかなかった為、抵抗された挙句に逃がしてしまった。くそ……役に立たん護衛共だ。
まあ、格闘戦の際に、天井から下がっているシャンデリアや、私の大切なトロフィーなどが破壊されてしまった。腹立たしいので、アンリの家系に支払うよう命令してやるか。奴の父親は確か、騎士から男爵になった者のはず。武闘派らしいが、所詮は男爵でしかない。
侯爵である私に逆らうことなど不可能なはずだ。
「閣下、一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
部屋の片づけをしていた者の一人が、私に話しかけて来た。そんな暇があるなら、さっさと散らばった装飾品等の破片を処理してほしいものだが。気まぐれに聞いてやることにした。
「アンリ令嬢を取り逃がしたのは申し訳ありません。しかし……あの令嬢、若しくは関係者が復讐に来ないでしょうか? なにせ……」
私に話しかけている護衛は途中で言葉を止めたが、その先の言葉は「あなたはアンリ令嬢を犯しかけたのですから……」といった文言だろう。私の護衛はバカなのだろうか? 私とあいつは婚約者同士だったのだ。
婚約関係は途切れたが、最後に後腐れなく抱くこと自体に、何の問題があろうか。しかもこの私がそうしてやると言っていたのに……アンリはそれを拒んで、屋敷から逃げ出した。
「復讐だと? ふはははは、面白いことを言うなゼル」
「アルバ侯爵……?」
ゼルというのは、私に話しかけている護衛の男の名前だ。呆けた顔つきになっているが、これでも私の護衛なのか、この男は? 私の考えを理解できないようで、何が護衛だ。先ほどの失態と併せて、他の者達と一緒に左遷してやろうか。
「たかだか男爵家に何が出来ると言うのだ? 何か出来るものならば、ぜひ見せて欲しいね。ふはははははっ」
「侯爵閣下……」
私は大笑いをしてみせる。本当に笑いが止まらないのだ。男爵と侯爵という立場にどれほどの差が開いていると思うのだ? さて、しかし復讐もどきをされるとすれば、それはそれで我慢ならん。例え、返り討ちに出来るとしても、それでは私の腹の虫が収まらんからな。
私はこちらから、攻勢に出ることを決意した。
「万が一、復讐をされては面倒だ。念のために、こちらから攻勢を掛けるとしようか」
私の言葉にゼルは驚いたような反応を返した。なんだこいつは? 全く予期していなかったのか?
「し、しかし……あのような婚約破棄騒動の直後に行くとなると……」
「なんだ? なにか不満でもあるのか?」
「いえ、決してそういうわけではありませんが……」
他の護衛達はともかく、ゼルに関しては乗り気ではないようだ。まったく使えん男だな、こいつは……。
「貴様、さっきはアンリを取り逃がす失態をしていて、よく私に意見ができるな? ずいぶんと偉くなったじゃないか、ん?」
「侯爵閣下、誤解です……! 決してそのようなつもりはありません……!」
ゼルはその後も何かを言っていたが、言い訳以外の何物でもない。落ち着いたら、この男は地方へと飛ばしてやるとするか。クビにしたら、この男の家系の者と揉めることになるからな。一応は伯爵家の御曹司……面倒事は避けた方がいいかもしれん。ただ、左遷くらいならば、侯爵家のゴドウィン家には何も言って来られないはずだ。
「今すぐに向かう……と、言いたいところではあるが、流石に先ほどやらかしたばかりだからな。よし、数日以内に準備を整えて、アンリ・シーフォースの屋敷へと向かうぞ!」
馬車で向かえば、一時間もかからずに到着はする。だがまあ、他の仕事があったりもするからな。適度に片付けてから向かうとするか。
私のその提案には流石のゼルも納得せざるを得ないようだった。
「か、畏まりました……侯爵閣下の命に従います……」
「当たり前だ、馬鹿者が」
しかし、ここまで護衛が抵抗してくるとはな。少し意外だった……相手の問題か? この場合はアンリだからか?
「……」
妙な考えが浮かんだが、そんなものは杞憂だろう。さて、たっぷりと後悔してもらおうか、アンリ。この私に逆らったことをな……!
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