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娘達の思惑

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 娘達が外へと走り去って行った。
 今まで反抗期など全くなかったので、今回のように家を出ていくケースは初めてだ。
 どうする? 娘達を追うか? だが本当の親子じゃないという事実に3人だけで話し合う時間も必要ではないのか?
 何が正解なのかわからない。本当の親なら正しい答えが導けるのだろうか⋯⋯。

「本当にごめんなさい。私のせいで⋯⋯」
「いや、リリーは悪くない。俺が娘達に真実を話していなかったせいだ」

 いつかは話さなければならないことだった。だから逆に今リリーが話してくれて良かったのかもしれない。もしかしたら娘達が13歳になってもタルホ村でのことを話せなかったかもしれないからな。

「それにしてもユクト⋯⋯あなたがそんなに狼狽えているの初めて見たわ。本当に父親をしていたのね」
「当たり前だろ? 俺はあの子達の父親だ。血が繋がっていようがいまいがそんなことは関係ない」

 そうだ。確かに初めは俺の判断の間違いでタルホ村を全滅させた義務感で娘達を育てていたが、今はセレナだから、ミリアだから、トアだから3人の父親をやっているんだ。
 ちゃんと俺の口から詳細を話すべきじゃないのか。

「悪い⋯⋯ちょっと出てくる」

 今は一刻も早く娘達に会いたい。そして1人の親としてしっかりと向き合いたい。

「うん。いってらっしゃい」

 もし娘達が俺を許してくれなくても許してくれるまで何だってやってやる。俺はもう

「ユクト」

 俺がドアを開け娘達の所に向かおうとしたその時、リリーに呼び止められる。

「原因を作った私が言うのもなんだけど3人があなたのことを大好きってことはすぐにわかったわ。本当の親以上にユクトのことを慕っていると思うの。だからそんなに心配そうな顔をしないで」

 そうだな⋯⋯リリーの言うとおりだ。俺が変な態度で娘達と接したら、それこそ娘達に心配をかけることになる。

「わかった。それじゃあ行ってくるよ」

 俺はリリーに見送られながら娘達を迎えに行くため、外へと向かうのであった。

「さて娘達は北東に行ったはずだ⋯⋯」

 俺は娘達が家を出ていった時気配を追跡していたので、すぐに居場所がわかった。
 生き物の気の力⋯⋯生命力を感じることによって短い距離であるならその者がどこにいるかがわかる。そして気の大きさでその者の強さも判明するが、わざと気を小さく見せている者も見るので油断は禁物だ。

「北東の森の入口の前に3人共いる」

 そこから進む様子はない。どうやら森には勝手に入っては行けないという俺の教えをちゃんと守っているようだ。

 これならすぐに追いつける。
 俺は娘達の気配を感じる北東へと急ぎ向かう。


 セレナside

 今日パパの知り合いであるリリーさんという綺麗な方が家を訪ねてきた。
 そしてその方が言うには私達はパパの子供ではないと。
 わけがわからなかった。
 パパと私達が本当の親子じゃない? 私達はタルホ村という所でパパに拾われた? 
 そんなことない! 私は⋯⋯私達はパパの娘! 

 でもさっきパパは親子じゃないって⋯⋯これからは親子としていられないのかな。今まで過ごしてきた12年間は偽物だったの⋯⋯。

 1人でいるとどうしても嫌な方向へと考えちゃう。

「おーいセレナ姉~」
「セレナお姉ちゃん~」

 私が走ってきた方向からミリアとトアちゃんの声が聞こえる。
 どんな時でも私の側にいてくれた2人⋯⋯今はとても心強く感じる。

「はあはあ⋯⋯早いよセレナ姉。ボク走るの苦手なんだから」
「ふうふう⋯⋯セレナお姉ちゃん⋯⋯」

 ミリアとトアちゃんは息を整え、地面に腰を下ろしている私を挟むように座った。

「セレナ姉どうしたの? 急に走り出して?」

 え? ミリアが先程のパパの言葉が何でもないかのように平然と話しかけてきた。

「な、何でミリアはそんなに平気でいられるの!? 私達パパの子供じゃなかっなのよ!」

 簡単に言ってしまうと赤の他人。パパとは血の繋がりが全くなかった。

「うん⋯⋯ボクも突然パパの子供じゃないって言われてビックリしたよ」

 けどミリアからは悲壮感が感じられない。むしろどこか嬉しそうに見える。

「トアも驚いたよ。パパに拾われたって聞いて」

 トアちゃんからも親子じゃないことに対する悲しい気持ちが感じられない。
 何なの!? 2人とも自分がパパの子供じゃなくても気にしないの!? ショックじゃないの!?

「ミリア、トアちゃん」
「ん?」
「セレナお姉ちゃんなあに?」
「私達はパパと血の繋がりがなかったのよ! 本当の親子じゃないの! それなのに何で2人そんなに平気そうな顔をしているの!? 私にはわからないよ⋯⋯2人も私と同じパパが大好きだと思っていたのに⋯⋯」

 私と違ってミリアとトアちゃんはパパが大切な人じゃなかったのみたい。
 自分の想いを口に出したら我慢できなくなって涙がポロポロと流れ出してきた。

「セレナ姉⋯⋯血の繋がりってそんなに大事かな?」
「親子でいるためには大切なことでしょ」
「けどパパは血の繋がりがなくてもボク達を本当の子供のように接してくれたと思うよ」

 確かにミリアの言うとおり、パパは私達に精一杯の愛情を注いでくれたと思うけど⋯⋯。

「トアも初めは悲しかったけど。でも⋯⋯」
「私は今も悲しい! パパの子供じゃないことも2人が私と同じ気持ちじゃないことも!」

 私は1人ぼっちなの? 親子の絆だけじゃなくて姉妹の絆もなかったの?
 そう思うと私の目から益々涙が溢れてきた。

「セレナお姉ちゃん⋯⋯」

 トアは初めて見るセレナの号泣になんて言えばいいのかわからなかった。
 そんな中、ミリアがセレナの前に立ち、真っ直ぐにその濡れた瞳を見据える。

「ボクはこの展開を待ち望んでいて正直笑いが止まらなかったよ」
「はっ?」

 今ミリアはなんて言ったの? 待ち望んでいた? 意味がわからない。ミリアの言葉に思わずまぬけな声を上げてしまいました。

「どういうことですか。内容次第では怒りますよ」

 いくらミリアでもパパとの親子の絆を茶化すなら許せません。

「ボク達とパパは血が繋がっていなかった」
「ええ」

 そんなわかりきったことを確認してどういうつもりなの。

「血が繋がってなかったらできること⋯⋯あるよね?」
「できること?」

 意味がわからない。血が繋がっていなかったら何ができるというの?

「セレナ姉は相変わらず頭が固いなあ」
「トアも初めわからなかったけどミリアお姉ちゃんに言われてわかったの」

 トアはとても嬉しそう⋯⋯というか頬を赤らめて身体をクネクネさせている。

「はあ⋯⋯」

 ミリアがやれやれといった感じでため息をついている。

「セレナ姉はパパのことが好きじゃないの?」
「大好きですよ!」

 しまった! 思わずミリアの問いに素直に答えてしまった!
 は、恥ずかしい⋯⋯。

 私は恥ずかしさのあまり顔を手で覆ってそっと指の隙間から2人の顔を見るとミリアとトアちゃんはニヤニヤと笑っていた。

「セレナ姉の今の姿萌えるね」
「セレナお姉ちゃん可愛い~」

 ああ、長女としての威厳が。穴があったら入りたい気持ちです。

「とりあえずセレナ姉をからかうのは後にして」
「後でからかうの!?」
「うん。もちろん」

 ミリアは見た目は可愛いし小悪魔って感じですけど今は悪魔に見えます。

「そ、それで何なの!? 早く教えなさい」
「しょうがないなあ。セレナ姉⋯⋯好きな人と好きな人ができることって何だと思う?」

 好きな人と好きな人ができること? それって⋯⋯。

 この後セレナの顔は真っ赤になり、そしてどこか嬉しそうな表情をしていたのであった。

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