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リリシア、運命の日

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 パーティーがあった翌日の早朝。

 帝国へ来て三日が経った。
 予定通りなら、今日の午後にフリーデン王国へと戻るはずだ。
 だがその前にリリシアは、皇帝陛下の自室でやるお茶会に招かれている。
 そうなると時間があまりないな。
 俺は朝食が終わった後、急ぎある人物にコンタクトを取った。
 それはある願いを叶えてもらうためで、ベストの答えはもらえなかったけどベターな答えはもらえた。
 そしてリリシアの部屋に戻ると、ちょうど皇帝陛下とのお茶会の時間となった。

「それではいってきます」 

 リリシアは武器を兵士に預け、扉の中へと入っていく。
 皇帝陛下の部屋の前でリリシアを見送った。
 部屋の前と言ってもこの扉を開けると廊下があり、その先に皇帝陛下の部屋があるのだ。
 そしてそこまでの道のりに窓などは一切なく、目の前の扉を潜らないと皇帝陛下の部屋にはたどり着けないのだ。

「今、皇帝陛下の部屋にいらっしゃるのはどなたか教えていただけませんか?」

 扉の前にいる兵士二人に俺は話しかける。

「リリシア王女の護衛とはいえ、その答えをお教えすることは出来ません」

 ごもっともな意見が返ってくる。
 余計な情報を伝えて、皇帝陛下を危険に晒す訳にはいかないからな。
 しかも俺は他国の人間だ。応える義理などないだろう。

「それなら俺に教えてくれないか?」

 突然背後から声が聞こえてくる。
 後ろを振り向くと、そこには金髪のイケメンの姿があった。

「こ、これはアルドリック様!」
「そういうのはいい」

 兵士は皇子の出現に慌てて頭を下げるが、アルドリックに制止される。

「しょ、承知しました。今この扉の奥にいるのは、皇帝陛下にリリシア王女、それと護衛の騎士二人となっています」
「サンキュー」

 アルドリックは礼を口にすると、俺達の隣に来る。

「誰だこいつ?」

 アルドリックと初めて会うザインは、思ったことを口にしてしまう。

「帝国の第三皇子のアルドリック様だ。口の聞き方に気をつけろよ」
「げっ! これはこれは失礼しました。確かにどことなく高貴なオーラが⋯⋯あまり感じられないな」

 ザインは注意したにもかかわらず、失礼な言動を口にする。
 これがアルドリックじゃなければ、不敬罪になっている所だぞ。

「こいつ面白いな。ユートの知り合いか?」
「残念ながら」
「残念とは何だ!」
「はは⋯⋯一緒に酒でも酌み交わしたい所だ」
「おごりならいつでも行くぞ」

 やはりこの二人の相性は良さそうだ。
 ザインもアルドリックも、遊び人で女の子が大好きという共通点がある。
 それに皇子という立場に物怖じせず話すザインのことを、好ましく思っていると、前の時間軸でアルドリックが言ってたからな。
 出来れば本当に酒の席を用意してやりたい所だが⋯⋯

(ユート早く来て下さい!)

 突如焦っているルルの声が頭に響いてくる。
 やはりきたか。
 前の時間軸でリリシアが皇帝陛下の自室を訪ねた時、事件は起きた。部屋に入ると血塗れの男が三人倒れていて、皇帝殺しの罪を押しつけられたのだ。だからお茶会に招かれたと聞き、ルルをリリシアに同行させることにしたのだ。

「皇帝陛下の部屋の方から悲鳴が聞こえたぞ!」

 俺はルルの言葉を聞いて声を上げる。

「本当か!? 俺には何も聞こえなかったぞ」
「俺もだ」
「我々もそのような声は聞こえていませんが⋯⋯」

 ザインや兵士二人もアルドリックの言葉に同意を示す。
 そりゃそうだ。俺も何も聞こえていないからな。
 おそらく皇帝陛下の部屋は防音が優れているのだろう。
 だがこうでも言わないと、皇帝陛下の部屋に入ることは出来ない。

 本当は酒飲みの賭けで得た、願いを聞いてくれるという特権を使って、お茶会に参加出来ないかアルドリックに頼んでみた。
 だが皇帝陛下の部屋に、他国の護衛を入れることは出来ないと断られてしまった。
 それならもし何か異変が起きた場合は、皇帝陛下の部屋に入る許可がほしいと願った。
 そして有事の際に、兵士達を説得して部屋に入れるようにするとのことで、アルドリックはこの場に来てくれたのだ。
 だがこれは一種の賭けでもあった。
 前の時間軸でリリシアから、自分が部屋に入った時、僅かだが皇帝陛下の意識はあったとのことだった。
 生きているうちに皇帝陛下の元へ行くことが出来れば⋯⋯

「部屋の中に入るぞ」

 俺はリリシアと皇帝陛下の元へ駆けつけるため、扉に手をかける。
 だがそれは二人の兵士に邪魔されてしまう。

「ダメです! いかなる理由があろうと他国の方を部屋に入れる訳には」

 そうくることも想定済み。
 俺はチラリとアルドリックに視線を送る。
 すると俺の意図を一瞬で読んだのか、アルドリックはやれやれといった表情を浮かべる。

「全ての責任は俺が取る。だからユートを行かせてやってくれ」
「しかしそれは⋯⋯」
「俺はスロバスト帝国第三皇子、アルドリック・フォン・スロバストだぞ! この俺の命令が聞けないというのか!」

 いつもヘラヘラしていたアルドリックが、突如王者の風格を纏い始める。
 すると兵士達もアルドリックから何かを感じ取ったのか、身体がかってに反応してしまったかのように、瞬時に床に膝を着いた。

「アルドリック様の仰せのままに」

 そして兵士達は俺から離れ、自ら皇帝陛下の自室へと続く扉を開ける。

 さすがだな。
 前の時間軸で、滅びた帝国を束ねていた姿が重なったぞ。
 やはりお前はただの第三皇子で終わっていい奴じゃない。
 だけど今はリリシアと皇帝陛下が心配だ。
 俺は開いた扉を駆け抜け、急ぎ皇帝陛下の自室へと向かうのであった。

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