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色々な人の意見を聞いた方がいい

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「だいたいこんな物を持ってきてどうするんだ?」

 テッドはぶつくさと文句を言いながらも俺の言うことに従い、馬車から1メートル程の長さの牙を2本持ってきた。

「これからリックくんがこの牙を鑑定して異常種の正体を暴いてくれるんだ」
「異常種の正体を暴く? そもそもリックは何の魔物の牙かもわかってねえだろ?」
「テッド! 文句を言うだけなら黙って見てろ」

 シオンさんが一喝するとテッドは口を閉じる。さすがに上司? にあたるシオンさんの言葉には従うようだ。
 確かにシオンさんの言う通り何もしないで文句だけを口にする奴はこの場の雰囲気を悪くするだけだから黙っていてほしい。

「では、鑑定スキルで見てみますね」

 俺はテッドが持ってきた牙に対して鑑定をかけるとその詳細が見えてきた。

 地竜アースドラゴン魔王化の牙⋯⋯地竜アースドラゴンから採取した牙。とても固く武器や防具の素材として重宝される。品質B、金貨800枚の価値がある。

 やはりこの素材は魔王化されたものだったか。そうなるとラフィーネさん達が倒した異常種は魔王化された魔物である可能性が高いな。

「鑑定の結果はどうでしたか?」
「どうせわからないんだろ?」

 ラフィーネさんはハラハラした様子で、テッドは疑わしき目を向けてくる。やれやれ、テッドは何故余計な一言を口にしてしまうのだろうか。
 そして案の定シオンさんに注意され怒られていた。

「これは地竜アースドラゴンの牙で、しかも魔王化した物ですね」
「バカな! 地竜アースドラゴンの牙だと見破るとは!」
「おそらくラフィーネさん達が倒した魔物は魔王化したものと考えていいかもしれません」

 全く関係ない魔物をアルテナ様が神託で伝えることをするだろうか? いや、夕御飯を神託で見せるくらいだからアルテナ様を100%信用することは出来ないが。

「魔王化された魔物⋯⋯リックさんのお陰で異常種の魔物についての手がかりが増えました」
「悔しいがその通りだな。後はザガド王国の奴らが怪しいって所だけか」

 ん? テッドが初めて聞くような情報をしゃべり始めた。異常種の出現にはザガド王国が関係しているのか? 
 だがこの時、その新情報に驚いているのは俺だけではなく、他にもいた。

「テッドさん、どうして異常種とザガド王国が関係あるのですか?」
「その情報はどこで手に入れたんだ」

 どうやらラフィーネさんとシオンさんもザガド王国のことは初めて聞いたようで驚きの表情を浮かべている。

「えっ? 今まで倒した異常種のほとんどはザガド王国との国境に近い街や村だろ? ズーリエも南西に行けばすぐにザガド王国だし何か間違っているのか?」
「た、確かにテッドさんの言う通り今まで倒した異常種はザガド王国に近い街が多いですね」
「テッドはいつから気づいていたんだ?」
「異常種を5~6匹程倒したあたりだな。てっきり2人は気づいているものだと」

 どうやらテッドはラフィーネさんやシオンさんとは見ている視点が違うようだ。それにしてももしこの異常種についての案件がザガド王国の仕業だったら国際問題で戦争が始まってもおかしくないぞ。

「みなさん、今の話は内密でお願いします」

 ラフィーネさんが暗に口にしないように、皆に秘密にするように言ってくる。

 確かに州や街の代表が100%の証拠がないのに隣国が魔物を使ってジルク商業国を侵略しているなんて話をしたら本当に戦争が始まってしまう。

「承知しました。この件に関しては口外致しません」

 俺とハリスさんはルナさんの言葉に従うと意思表示をするために深く頷くのであった。

 トントン

「ルナ代表。お食事の準備が整いましたが如何致しましょうか?」
「頂きまますので準備をお願いします」

 そしてちょうど話の流れ的にも良い頃合いで夕食の時間になったため、魔王化の件に関しての話を止め、俺達は食堂へと移動することにした。

「ついにこの時が来たのね」
「ラフィーネ様どうされました?」
「私、アルテナ様のお告げで今日の夕食を見たっていったでしょ? すっごく美味しそうだったからずっと待っていたのよ」

 ずっとって夢を見たのが昨日から今日にかけてだからまだ1日も経っていないじゃないかと突っ込みたい所だけどお告げで今日の料理を見たのなら楽しみにしているのも頷ける。

「どうせ田舎の料理なんてたかが知れているだろ?」
「テッド! お前は謙虚という言葉を知らないのか!」

 テッドがズーリエをバカにしてシオンさんが注意する。まだ出会ったばかりだが見慣れた光景になってしまったな。
 だがテッドよ。バカにするのもそこまでだ。俺の料理を食べて吠え面をかくといい。
 今日の夕食は前の世界の技術を使ったものだからきっとうまいと言うはずだ。

 そして俺達は食堂に到着し席に座るとまずは食前酒が運ばれてきた。

「な、何だこれは!」
「こんなに見た目が綺麗な飲み物見たことがないわ」

 どうやら最初に運ばれてきた赤と白の飲み物で十分なインパクトを与えることに成功するのであった。


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