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災い転じて福となす?

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 しかしサーシャは動じることはなかった。
 いくら爬虫類が得意でも、顔に飛んで来ればさすがに少しは慌てるものだが、サーシャは微動だにしない⋯⋯というか視線が動いていない。

「これはもしかして⋯⋯気絶してる!?」

 おそらく最初にトカゲを見た時から意識を失っていたのだろう。
 トカゲは、動かないサーシャを安全と考えたのか、ゆっくりと顔を歩き始める。
 そして最悪なタイミングでサーシャの目に光が戻り始めた。

「えっ? 私は⋯⋯顔に⋯⋯」

 サーシャは何気なく違和感を感じる顔に手を伸ばす。
 するとトカゲはサーシャの手にあっさりと捕まってしまった。

「何でしょうか、この適度に柔らかいものは⋯⋯ひぃっ!」

 自分の手に持っているものがトカゲだと気づき、悲鳴を上げる。
 そしてその場に崩れ落ちたので、俺は慌ててサーシャを支えた。

「サーシャ大丈夫か!」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

 しかし返事はない。
 どうやらまた気絶しているようだ。

 とりあえず俺はサーシャの手に握られているトカゲを奪い取り、地面に放す。
 するとトカゲは、一目散にこの場から逃げ去るのであった。
 どうせなら始めから逃げてくれれば、サーシャが気を失うことはなかったのに。

「少しここで休憩をしようか」

 そしてサーシャが気絶したままダンジョンを進むわけには行かないので、目が覚めるまで、ここで休むことを提案する。

 サーシャが気絶してから十五分後。

「ううん⋯⋯」

 サーシャがなまめかしい声を出しながら、ゆっくりと瞳を開ける。
 どうやら眠り姫が目を覚ましたようだ。

「はっ! ト、トカゲ!」
「トカゲはもういないから安心して」
「えっ? はわわ! リリリ、リック様!」

 サーシャは意識を取り戻したが、何故か取り乱していた。

「ここ、ここは⋯⋯リック様の膝の上ですか!?」

 そう。サーシャが気絶した後、俺は自分の膝の上にサーシャの頭を乗せていた。
 さすがにこの硬い石で出来た地面の上に、サーシャを寝かせる訳にいかなかったからだ。

「そうだけど。ダメだったか?」
「そそ、そんなことありません! ありがとうございます!」

 もの凄い勢いでお礼を言われてしまった。
 とりあえず嫌がられていないことに安心した。

「サーシャお姉ちゃん⋯⋯」

 ノノちゃんが泣きそう表情で、サーシャの顔を上から覗き込む。

「ノノさん? どうされました」
「ごめんなさい。ノノがトカゲをサーシャお姉ちゃんに見せたから⋯⋯」

 ノノちゃんはサーシャが気絶している間、ずっと反省の言葉を口にしていた。
 勿論悪気があってやったわけじゃないだろう。
 ただ純粋にトカゲを可愛いと思い、サーシャに見せただけだ。

「私こそ大袈裟に驚いてしまってごめんなさい。虫や爬虫類が少し苦手なので驚いてしまいました」
「本当にごめんなさい!」

 ノノちゃんは改めて深々と頭を下げる。

「わかりました。その謝罪を受け入れます。でも本当気にしないで下さい。むしろ嬉しいことがありましたから」
「嬉しいこと?」
「コホンッ! 何でもありません」

 サーシャの言動が少し気になるが、とりあえず大事に至らなくて良かった。

「サーシャ大丈夫か? 立ち上がれそう?」
「え~と⋯⋯まだ少しめまいがします。もう少しこのままでもよろしいでしょうか」
「いいよ。確かにサーシャの顔は赤いし、本調子には見えないからな。もしかして熱もある?」

 俺は額に手を伸ばす。 

「ひゃあ!」

 しかしサーシャから悲鳴のような声が上がり、俺は思わず手を引いてしまった。

「ご、ごめん! 女の子の肌に触れるなんて非常識だったよな」
「い、いえ。少し驚いてしまって。だ、大丈夫です。熱があるか調べて下さい」

 サーシャはギュッと目を閉じ、俺が触れるのを待っている。

「え~とそれじゃあ⋯⋯」

 俺はサーシャの言葉に従い、再び額に手を伸ばす。
 額から掌に高い熱は感じなかった。
 しかし触れていると段々と熱くなってきて⋯⋯

「プシュゥ⋯⋯」
「サーシャ? 大丈夫か!」
「お姉ちゃん!?」

 だが俺とノノちゃんの問いかけに反応はない。
 サーシャは顔を真っ赤にして目を回し、再び意識を失ってしまうのであった。
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