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裸を見ても許してもらえるのはラブコメの主人公だけだ

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 ここはクワトリアの街にある魔物を滅する者、スレイヤーを育成する学園の校舎裏で、俺は日課である剣の素振りを行っていた。

「899! 900! 901!」

 校舎裏は余計な雑音がないから気持ちよく鍛練することができる。
 だがいくら静かな場所とはいえ学園の敷地内ということで完全に人との関わりを断つことは不可能だ。

「こんな所で素振りをしている人がいるよ」
「そんなことしても無駄なだけなのにね」
「あの人ってほら、神器がFランクの⋯⋯」

 偶々通りかかった女学生が俺の方を見てコソコソと話をしている。
 全部聞こえているからな。だけど彼女達が言っていることに間違いはない。

 俺の魔力値はSランク。人類史上トップクラスの値なので昔から神童だと持て囃されてきたが14歳の時、教会にて神からもらった神器の魔力ランクはFだった。
 そのため俺は神器を使って倒せる魔物はせいぜいDランクまでだ。
 この世界では魔物や人間の持つ障壁、魔力フィールドを破壊しダメージを与えられる武器は神器しかなく、よほど魔物が弱っていない限り神器が持つ魔力のワンランク、もしくはツーランク上の魔物までしか倒せない。例えばCランクの魔物をFランクの神器で斬りつけたとしても魔力フィールドを破るのは困難で倒すことは難しいのだ。
 優れたスレイヤーは己の魔力、そして神器の魔力の両方が高い数値を示す。俺のようにアンバランスな組み合わせは珍しいらしい。
 魔物は次々と人間の都市を攻め滅ぼしているため、この世界では常に強力なスレイヤーを欲している。俺は最強の魔力値を持つが最低の武器しか持たないため、スレイヤーとして不適格者だと言われていた。
 だがこの世界で1人前のスレイヤーとして生業にできるのは養成学校での課程をクリアし、なおかつ魔力値C、神器C以上の者だ。しかし俺の神器はFランクなため、このままではスレイヤーとして外の世界で魔物を狩ることは認められない。だが年に1度、5つの都市の学生達で行われる神聖武道祭という大会があり、この大会で優勝すれば1人前のスレイヤーとして認められる。己の魔力、神器の魔力が上がるケースはごく稀であるため現状では俺がスレイヤーとして外の世界の魔物を狩るためには神聖武道祭で優勝するしか方法がない。

 俺は雑音を無視して素振りを行っているとまた1人の女学生が校舎裏を通りかかる。
 そして女学生は足を止め、何故かこちらをじっと見ていた。

「999! 1000!」

 俺は素振りを終えると椅子に置いてあったタオルを手に取り、そして汗を拭いていると先程の女学生がこちらに近づいてきた。

「鋭い剣速ですね」

 女学生が話しかけてきたので俺は視線を向けるが見ない顔だった。制服を着ているのでこの学園の生徒で間違いないはずだけどもしかしてこのご時世に外の都市から来た子なのか? それにこの子のように長い金髪の髪を持つ美人さんは1度見たら忘れることなどないだろう。

「ありがとうございます」
「素振りをそこまで熱心にやられている方を初めて見ました」
「無駄な努力と言いたいのですか?」

 この世界で重要視されるのは魔力。誰もが素振りより魔力を効率良く使うための努力を優先し、身体的能力は二の次とされてしまう。だが俺は身体を鍛えればいつか必ず役に立つ時が来ると信じているのでこの日課をやめるつもりはない。

「いえ! そのようなことは考えていません! 私はただこのように美しい太刀筋を見たのは初めてだったので⋯⋯」
「珍しい人ですね。俺の剣など見ても楽しいことなどないですよ」
「そんなことありません。長年の修練により積み上げられたものだということは私でもわかります。もしよろしければ少しお話を⋯⋯」

 少女が何かを口にしようとしていたがその言葉は別の者によって遮られることになる。

「ルルさん? 職員室に向かいますよ」
「は、はい」

 この場に現れたのはこの学園の女教師だった。

「早くしなさい! 全くあの方と比べてあなたは。まあ類は友を呼ぶというしユウトくんとはお似合いではあるけど」
「申し訳ありません」

 何やら機嫌が悪そうに感じるが気のせいだろうか。まるで少女が不適格者である俺と同じ扱いを受けているように見える。

「それではまた機会あれば⋯⋯失礼します」

 そして金髪の少女は頭を下げ、女教師とこの場を去りどこかへと行ってしまった。

 やれやれ。今日は珍しく校舎裏を通る人が多いな。だけど人が通る度に気を取られているのは集中していない証拠だ。
 俺は雑念を振り払い、身体能力を鍛えるため腕立て伏せを行うのであった。

 そして腕立て伏せを行ってから1時間程経った頃、日が落ちてきたので俺は汗をかいた服を着替えるため空き教室へと向かった。だがこの行動が後の俺の人生を変える程の出来事になるとは今の俺には考えもつかなかった。

 この空き教室はしばらく誰も使っていないことがわかっていたので俺は何気なくドアを開ける。
 すると教室の中から気配を感じ視線を向けるとそこには白い下着姿の女の子がいて目が合ってしまった。
 肌を隠している場所がほとんどなく青少年の俺には目に毒だが、その美しい肢体から目を離すことが出来ないでいた。もちろん男としていやらしい感情も持っているがそれよりも目の前の女の子の身体は大理石のように美しい白い肌をしておりプロポーションも均整が取れていたため一種の芸術品のように思えたのだ。

「キャァァァァッ! いつまで見ているのよ!」
「ご、ごめん!」

 俺は女の子の絹を裂くような声に我を取り戻し慌てて教室から出ていて行く。

「つい身体ばかりに目がいってしまったけど今のってさっき校舎裏で会った子だよな? 確か名前はルルと言っていたな」

 それにしてもまずいことになったな。いくら空き教室だからといって女の子の下着姿を見てしまうとは。先程の様子を見てこの後の展開が容易に想像がつく。

 そして空き教室のドアが力強く開けられるとそこには制服を着たルルさんが涙目になりながらこちらを睨み付けてくる。

「見た?」

 この見たは下着姿のことだと思うがここは見ていないと言うのが正解なのだろうか? だけど嘘をつく方が誠実ではないと思い、ここは正直に話すことにする。

「とても美しい身体でした」
「そ、そういうことを言ってるんじゃないわよ!」

 正直に話したけど結局予想通り怒られてしまった。

「あなたの記憶を全て消し去ってやるわ! こっちに来なさい!」

 そして俺はルルさんに手を引かれ連れてこられた場所は闘技場のステージの上だった。
 仕方ないこととはいえ、今に襲いかかられてもおかしくない程の殺気を向けられているな。

「いや、わざとじゃないんだ。偶々空き教室に行ったら君が着替えていただけで覗くつもりは⋯⋯」
「う、うるさい! しかも私の下着姿を見たのに冷静なのがさらにむかつく!」

 ルルさんの肢体を見て鼻の下を伸ばせとでも言うつもりなのか? それはそれで火に油を注ぎそうだけどな。

「とにかく貴方の存在事態を消してやるわ。かしずきなさい! クラウソラス!」

 ルルさんが力強く叫ぶと何もない空間から白い剣が現れ手に収まる。

「勝負よ! 私の裸を見たんだから逃げることは許さないわ」

 彼女の持つ剣からはとてつもない魔力を感じる。高ランクの神器であることは間違いないだろう。対して俺の神器はFランク、戦う前から敗北が決まっているようなものだ。

 だが高ランクの人と戦えるチャンスなど滅多にない。強者に会ったからと言って逃げてばかりでは俺の目標とするスレイヤーになることなど出来ない。

「どうしたの? まさか私のクラウソラスを見て怖じ気づいたわけ? もし私に勝つことが出来たら裸を見たことを許して上げるし、貴方の奴隷になって一生尽くして上げるわ。まあそんな未来はありえないけどね」
「それは魅力的な提案だな。出でよ! サウザンドブレード」

 俺は自分の神器である白銀の剣を呼び出すと両手で持ち構える。

「へえ⋯⋯圧倒的な魔力差があるのに逃げないのね。少しだけあなたのことを見直したわ」
「それはどうも」
「それじゃあ始めるわよ」

 こうして俺は女の子の下着姿を見てしまったことで、高ランクの魔力を持つルルさんと決闘をすることになってしまうのであった。

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