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姉妹が比べられるのは仕方ないことだ

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 そして1時間目の授業が始まり、中年のオイズ先生の言葉が教室に響き渡る。

「魔物や神器を持っているスレイヤーにダメージを与えるには魔力の強さが重要になる」

 2年になって最初の授業ということもあり、1年の復習といった内容をオイズ先生は読み上げていた。

「神器がAランクでも本人が持っている魔力がBランクなら神器はBランクの力までしか使いこなせない。逆に本人の持っている魔力がSランクでも神器がEランクならEランクの力しか使いこなせないためそのような高い魔力を持っていても無駄になります。まあこの事例に当てはまる人は皆さんの近くにいるので言わなくても知っているでしょう」

 オイズ先生が話し終えると周囲からクスクスと笑い声が聞こえてくる。
 ただその中でルルさんは何故笑いが起きているのかわからず頭にはてなを浮かべており、ララさんはどこか機嫌が悪そうに見えた。
 よくあることだがオイズ先生は俺を弄るためにわざとこの話題を出したのだろう。
 だがこの1年間で見慣れた光景なので俺は特に気にすることはなく無視して教科書を眺めている。するとオイズ先生は俺が反応を示さないことがおもしろく無いのか舌打ちをして授業を続けていた。

「現在魔物の脅威に対して持ちこたえている都市はこのクワトリアを入れて5つ。そしてその各都市はいくつもの区画に分かれており、区画ごとに城壁で護られている。クワトリアも30の区画があったが今は魔物の侵略を受け24まで減っているのだ。そのため諸君は立派なスレイヤーになって都市を護り、魔物を根絶やしにするために日々勉学に励むんでほしい」
「先生、私達は魔物に勝つことは出来るのでしょうか?」

 クラスメートの1人が最もな意見をオイズに質問する。
 クワトリアはつい3年前までは27の区画があった。経った3年で3つの区画が滅ぼされたんだ。そんな簡単な話ではないがこのままだと24年後にはクワトリアは滅亡する計算になってしまう。

「皆が不安になる気持ちはわかる。だがこれまでの歴史では人類が滅亡の危機に直面する時には必ず【白の王】と呼ばれる存在が現れ、その白の王はスレイヤーとして絶大な力を持ちいつの時代でも人類を救ってきたのだ」
「けど【黒の王】って呼ばれる奴が現れるんだろ?」
「うっ! 確かにそうだが⋯⋯だが黒の王はまだ現れていない」

 人類と魔物は常に争っており白の王や黒の王の存在もあって、結局今日まで決着はつかずにいる。

「君達の誰かが白の王として覚醒するよう頑張ってくれたまえ」
「白の王かあ⋯⋯それってララさんのことじゃない? ララさんは噂だと白く輝く剣を使うんでしょ?」

 マリカの言葉にクラスメート達が同意し始める。

「残念だけど私は白の王ではないわ。けど近い内に必ずセカンドアギトをしてみせるから」
「「「おお!」」」

 セカンドアギト⋯⋯2段階上の覚醒を促す言葉で歴史上でもその領域に達した者はほとんど存在せず、ファーストアギトの時とは比べ物にならない力を得るらしい。
 その力は圧倒的でまさに白の王の名に相応しいと言われている。

「さすがSランクの神器を持つ人は違うわね」
「教え子が白の王になったら私も鼻が高い。ぜひがんばってくれたまえ」
「ちっ!」

 クラスメートや教師がララさんに称賛の声を上げる中、エライソだけは不機嫌そうな顔をしていた。
 エライソは今までこの学年で1番の実力者と言われていたからララさんの出現は面白くないのだろう。
 この世界では魔力と神器の強さがステータスになる。エライソはカースト制度のトップにいたが2番手に落とされたため、腹が立って仕方ないといった所だろう。

 キンコーンカーンコーン

 そして学園内に授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響いたため、オイズ先生の授業は終了となる。

 今日は新学年になって初日なので授業はこれで終わりだ。いつもならこのまま校舎裏に行って鍛錬をする所だけど俺は同居者2人が放課後に何をするか少し気になった。

「おっと、そういえばララさんルルさん。2人は転入手続きについてソニア先生が聞きたいことがあると言っていたので職員室に向かうように」
「わかりました」
「めんどくさいわね」

 ルルさんは無表情で、ララさんはめんどくさそうに荷物をまとめ教室を出て行く。
 もし俺の部屋で暮らしていく上で必要な物があればこの辺りの案内を含め買い物にでも付き合おうと思っていたけどどうやら予定が入ったようだ。

 それなら今日は俺ができることはないので鍛錬に行くか。

 俺は日課である筋力トレーニングと素振りを行うため校舎裏へと足を向ける。

 そして1時間後。
 校舎裏で筋力トレーニングを終え素振りを始めようとした時、どこからか怒鳴るような声が聞こえてきた。

「なんだ? 今の声って⋯⋯」

 聞き間違いじゃなければこの声はエライソだ。正直顔を合わせてもまたマウント取ってきたりバカにしてくるだけなので普段なら無視する所だけど今日は何となく嫌な予感がして声がしている方へと行ってみる。
 するとエライソと取り巻きのスリエとトンゴがルルさんらしき人を問い詰めていた。

「教室でも話したがお前を俺の女にしてやる」
「お断りします」

 エライソはクラスメート達の前で振られたのにまだ諦めていなかったのか。しかも当たり前だがまたルルさんに断られているし。

「Eランクごときがエライソ様の誘いを断るなんて。ちょっと顔が良いからって調子乗るんじゃないわよ!」

 ルルさんの容姿はちょっと所じゃないけどな。一般的に見てトップレベルだということは間違いないだろう。

「ちっ! 姉は調子に乗っているし本当に目障りな姉妹だぜ」
「私のことはいい⋯⋯でも姉さんのことを悪く言わないで!」

 ん? ルルさんが語尾を強くして怒りを露にしている。普段からルルさんはララさんにメイド扱いされているから姉妹中は悪いのかなと思っていたが、少なくともルルさんは姉のことは嫌いではないらしい。

「この俺様に口答えするのか? ここにはお前を助けてくれる奴はいねえぜ」

 まずい!

 エライソは力ずくで言うことを聞かせようとしているのかルルさんに手を伸ばす。
 相手は3人もいるしこのままではルルさんが捕まり、ひどい目に遭ってしまう可能性がある。

 俺は慌てて助けに向かおうとするがこの時予想外のことが起きた。
 ルルさんはエライソの手を軽々とかわすと素早い動きで3人の囲みを突破して見せた。

「な、なんだ今のは⋯⋯」

 エライソが驚くのも無理はない。今のルルさんの動作はしっかりと鍛錬を積んだ者の動きだ。

「それでは失礼します」

 そしてルルさんはスカートの両端を持ち、優雅に挨拶をしてこの場を立ち去る。

「待ちやがれこの野郎!」

 エライソと取り巻き2人がルルさんを捕まえるために後ろから追いかける。
 さすがにこれ以上は看過できない。

「振られたのに見苦しいぞエライソ」

 俺はエライソの前に立ち塞がり、ルルさんを護るように2人の間に入る。

「ユ、ユウトさん」
「ちっ! ユウトか。貴様には関係ないことだ」
「クラスメートが付きまとわれているんだ。見逃す訳にはいかない」
「弱いくせにしゃしゃり出てくるんじゃねえ!」
「「そうだそうだ」」

 思わずルルさんを護るために出て来てしまったがどうやら事態を悪化させてしまったようだ。エライソは俺のことが特に嫌いだからな。

「無理矢理ルルさんを自分の物にしようしている奴がいるなら助けに出るのは当然だろ?」
「ユウト⋯⋯お前は俺に逆らうというのか?」
「ルルさんを助ける行為が逆らうことになるならその通りだ」

 Bランクの魔力と神器を持っているからといって何をしてもいいなんて許せるはずがない。

「ほう⋯⋯ならば俺と決闘して決めるか? もし俺が負けたら2度とそいつに近寄らないことを約束してやろう。だが俺が勝利したらそいつを俺の奴隷に⋯⋯いや女になれ」
「なんだと!?」

 エライソの本音が言葉に漏れていたな。こいつはルルさんを性奴隷のように扱うつもりだ。
 さすがに賭けの条件は自分のことではないので受けるわけにはいかない。俺はそう考えていたがここで思わぬ声が上がった。

「わかりました。その勝負受けます」

 なんとルルさんがエライソとの決闘を受ける声明を出してしまったのだ。
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