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カニカマ学園編
第33話「終末之火――スルト――」
しおりを挟む「良い具合の体になってきたな」
「そりゃああれだけハードなトレーニングしてたらそうなるわ」
クーリーはベーゼの引き締まった体をペチペチと叩きながら満足そうにしていた。
しかし実際のところはベーゼの体は全体的に細くなっている。クーリーのトレーニングメニューは不要な筋肉を削ぎ落として必要な筋肉だけを残すようにしたからだ。
「無駄のない体は見ていて心地よいさね。背の筋肉はもう一声欲しいところだが大目にみるとするさね」
「筋肉は多けりゃいいと思ってたが実際は違うんだな」
「筋肉が多い分、同じ運動させても消費するエネルギーが多い。スポーツマンならそれでもいいが長期間に渡っての移動や作戦となれば携行できる食料も限られるさね。過ぎたるは及ばざるがごとしという言葉もよく言ったものだ」
「言われてみりゃ納得だな」
「さらに言えば鍛えすぎた筋肉ダルマは体の駆動域が減り、動きに支障を来たす。そうなっては本末転倒さね。まぁそこまでの筋肉を付けるのも才能ではあるが」
「俺もその境地に至れるかな?」
「たわけ。それでは戦士としての面目が立たぬではないか! びっくり人間にでもなりたいのか!?」
「戦士です!」
「よし! では今回からの訓練は対人戦だ」
「お! いよいよ技の訓練ですか!?」
「たわけ! 残り一ヶ月もないのに技なぞ覚えさせても実戦には使えん! これからやるのは戦闘時の緊張状態をいかに緩めることができるかの訓練だ」
「緊張を緩める?」
「例えば、今回お前は闘技と連隊戦に出る。闘技では会場の緊張感に飲まれるのは目に見えている。加えて連隊戦は、お前が緊張することで周りに緊張が伝搬する。そうすれば士気もパフォーマンスも下がる」
「俺がキーマン?」
「どう踏ん張ってもお前は前衛で的を引きつけるか倒れるまで前に進み続けて道を切り開く役になる」
「とにかく前か……」
「お前は一人でも多くの敵を一人でも多く倒し誰よりもダメージを受けろ。隊に見せるのは背中だけだ」
「わかった。やってやる」
「いい顔だ。まずは緊張の解き方だ」
クーリーは拳を固め、中段に構える。
競争心を剥き出しにしてベーゼにプレッシャーをかける。その圧倒的なオーラを受けたベーゼは一歩足を引く。
「臆するな! 対峙しろ! 目を逸らすな!」
「はい!」
「そして考えろ、お前が私ならどう動く?」
「小細工無しで正面から一撃」
ベーゼが発言した瞬間にはクーリーはベストな距離まで一歩で詰め、浅く呼吸する。剣の切っ先でも突きつけられているような威圧感の中で拳が放たれる。
首を右に振ってギリギリのところで回避するとベーゼは左アッパーをクーリーに入れる。
クーリーの鳩尾に拳が触れた瞬間、ベーゼの首が大きく揺さぶられる。すかしたはずの拳が軌道を変えてベーゼの耳と周囲の髪を掴み、引き寄せていた。
満足な体勢で放てなかったアッパーの手応えは薄い。それどこれかクーリーの左膝がベーゼの下腹部に直撃する。
「ヴッ!」
衝撃が体中の水分を震わせるように伝わる。下腹部への攻撃なのにもかかわらず脳がゆれるような錯覚すらベーゼは覚えた。
しかし、ここで倒れたら考えたくもない攻撃が飛んでくるのは明白、ベーゼは左手でクーリーの顔面を掴むと倒れる勢いのまま彼女を押し倒す。
「いい根性さね!」
しかし、クーリーはそれも見越していたのかベーゼの腹に足をあてがい巴投げ、背中から地面に叩き付けられたベーゼは暫時、呼吸すらままらなかった。
「ゲホッ! アア! しんどい!」
「受け身無しでいったからな」
地面に蹲っているベーゼをよそ目にクーリーは立ち上がると首を鳴らしながらベーゼに体に馬乗りになる。
「さて、ここからが本番だ。蹲ってるお前が悪い」
牙を見せて笑うクーリーは両手の拳を固めて雨霰のようにベーゼの顔、胴、腕に拳を打ち付ける。
「顎が砕けようがお構いなし――さね!」
十分以上にわたってクーリーはベーゼを殴りつけると満足したのか馬乗りを解いた。
「今の気分は?」
「痛い怖い」
「じゃあ、次から地面に寝ないようにするか馬乗りの対策でも考えておくんだな」
「はい……」
「まぁ、でも私と相対して一撃入れようとした肝はいい。そしてあれだけ打撃を受けて少し腫れた程度済む、コーニコリスに鍛えてもらった賜だ」
「ただいじめられてたわけじゃねえか」
「思いの外ここに時間が掛かると思っていたが、これならもう次のステップにいってもいいな」
「次のステップ?」
「さっさと立て」
「はい!」
ベーゼがすぐに立ち上がると、クーリーは再び同じ構えを取る。
「次のステップからはマジで命に関わるさね」
「えっ??」
「その……死んだら……すまん」
「遺書書いた方がいいかな」
「そんな時間は無い!」
クーリーは瞳孔を細めると体から熱気を放つ。
「アッツイィ! ウソ!?」
「これが私のスペリオルスキル『終末之火』ッ!」
「俺の肉が焼ける……だと!?」
「アタシの炎は一万度近くの高温さね。この温度になると火耐性すら貫通する!」
一万度の炎とは電子レンジにシャーペンの芯をチンしたときの温度大体同じである。
「一万度炎……だと! 通りで近くにいる俺も火傷しそうなくらい熱いわけだ」
「その距離でそれだけの熱を感じると言うことは、この拳、お前に打ち込んだらどうなる?」
「……死ぬやんけ!」
「正解!」
「アカアアアアアアアアアン!!!!」
この温度でもベーゼの身につけていたアームカバーだけは無事だった。
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