この異世界は理不尽で残酷で儚く、そして竜を狩り、国を護り、獣が吠えた。

白井伊詩

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天ノ66話「やwらwかwしwたw」

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 話は、ジークとアジサイがパッツァーナに向かったところから始まる。

「やらかしたなぁ」
「何もフォローできない」
 エレインもため息を付いて呆れる。
「これは見紛うこともなくミオリアの字だよね」
 ネフィリもため息を付く。
「ちょっと、これどういうことですかこの劣悪な交換条件は!」
 アキーは柄にもなく大声を上げている。
「うわ、これ実質、性奴隷、二年前に逆戻りね、ヘムロック」
「またあの生活……やだなぁ」
「何とか勝ってくれ!」
 
 書類を片付ける作業をしていた際、貴族たちの嫌がらせで法外な要求が記載された書類が時より混ざっている。
今回はその中でも特に悪質な書類にミオリアがサインしてしまったのである。

ウォーゲーム、魔道騎士達が実戦に近い訓練を行うために作られた演習がいつしか貴族の力を誇示するために使われる様になった。
決闘が一対一の戦いならばウォーゲームは多対多の戦いになる。

いくつかルールがあるが、今回のゲームは一週間に及ぶ長期戦である。ルールは王城郊外にある色々な条件を模したフィールドに立てこもり、最終的に残っていた人数の多い方が勝つというものである。
そしてミオリアたちにはキツイルールが追加されていた。

一、ミオリアの部下のみでメンバーは構成されること。
二、懐刀及びアルスマグナは参加を禁ずる。
三、サインされた日付以降、部下の追加をミオリアは禁ずる。
四、アジサイとジークは武器をフィールドへ持ち込むことを禁ずる。
五、ミオリアが敗北した場合、ダチュラ、ヘムロック、アキー、アルスマグナの所有権を勝者のものとする。
六、この条件に承諾された場合、参加は絶対であり、棄権することを禁ずる。

これら約定は全て魔術で違う文章で偽装されたものである。ミオリアはこの条文にサインをしてしまった。
しかも、アジサイとジークは遠征中であるためいつ戻るかも不明な上に、二人とも下手すれば命を落としかねない任務で出払っている。
そして、ウォーゲームの開催日まであと三日である。

分かりやすく端的に言うと、アジサイとジークが帰還しなければ勝率ほぼゼロの戦いに挑むことになるということだ。

「よし、俺はジーク達を探してくる」
 ミオリアはいつになく顔を青くしながら王城を飛び出した。
 


「やべえッ!!」

 

 久々にイシュバルデの神速を披露し、ジークとアジサイの居るパッツァーナに一時間で到着する。
 
 したのはいいが、ここで大問題が発生した。
 
 アジサイとジークが行方不明になっていたのである。ギルドや領主に掛け合ったが一切足取りが掴めていないのである。
 アジサイは元から足取りが付かないように動いているため、音沙汰なしなのは仕方がない。
 しかしここで有識者がいない状態で森に入ればどんなアイテムも即座に取り出すことができるミオリアでも彷徨えばミイラ取りがミイラになってしまう。しかもこの広大な森からジークという葉っぱを探し出すのは至難の業である。
 この場合、次に探し出すべきはアジサイであるが、肝心の音沙汰も形跡もないのである。
 
「あいつら……マジか……」
 アジサイに関してはパッツァーナにいるかどうかも分からないレベルの話である。国中を探しても三日で足取りを追い切れるか怪しいものである。
 こうなったらもうあの三人に任せるしかない。最悪、アジサイが何とかしてくれるだろうと諦めを付ける。
 全速力で王城に帰還すると、ダチュラ、ヘムロック、アキーの三人を呼び出す。


「すまん、あの二人が見つからなかった」
 ミオリアは三人に頭を下げる。
「ですよね……」
「知っていました」
「私たちで追跡できるなら上司失格ですからね」
 三人は暢気に笑っていた。
「と言うわけで、ゲームが始まるまでに必要なものは全部そろえるから予算を考えずに好きな物を要求してくれ」
 ミオリアの提示に対して三人は了承する。
 三人は顔を合わせて、お互いの意図を整合するとダチュラとヘムロックは部屋を後にした。残ったアキーが話を続ける。
「とりあえず、ルールの改変ですねゲームの期間は一週間から一か月にして欲しいです」
「一か月? きつくないか?」
「きついですけど、一週間だと勝算がほぼ無いに等しいです。敵の数が五百人としたら不眠不休で一日七十二人くらい倒す必要があります。一人あたり二十四人倒す計算ですね」
「期間を延ばすことで一日当たりに倒す人数を減らして負担を減らすということか」
 アキーは茶髪の頭を揺らす。
「その通りです。長期戦の籠城となれば勝機が見出せます」
「わかった。交渉してみる」
「交渉の席には私も同行しても良いでしょうか?」
「わかった、席を設けておく」
「ありがとうございます。それと必要な物は今ダチュラがリストアップしているので少しお待ちください」
「あいよ」
 アキーは一仕事終えたようにため息をついた。
 
 
「アジサイさんとジークさん大丈夫なんですかね?」
「大丈夫だろ、ジークには竜を五体分の身体能力と竜から受け継いだ能力、それ以外にもたくさんのスキルを持っているからな。アジサイは装具があるからな」
「そうですよね」
 ちなみにこの時、ジークはビサンディンにボコボコにされた挙句、パッツァーナの森で昏睡状態。アジサイはエンプレスワプスの毒によりアナフィラキシーショックを起こし意識不明の重体となっていたことを二人は知る由もなかった。
「そうですよね、アジサイさんは強いですからね!」
「今は信じるしかねえしな」
 ミオリアはアキーを励ます。
 
 ノックする音が聞こえる。
「どうぞ」
「失礼します」
 ヘムロックとダチュラが戻ってきた。二人とも羊皮紙を持っているところから必要な物をピックアップしたのだろう。
「リストアップしたのでご確認ください」
 ダチュラはそう言ってミオリアにリストを渡す。ミオリアはリストを受け取るって品物を流し見て机に置く。
「私からは敵情の報告をします」
「早い」
「ありがとうございます。それで敵の情報ですが、千人仕向けるそうです。七百人で攻めて、三百で城を防衛するそうです。舐められてますね」
「マジか想定の倍じゃねえか」
「厄介ですね。貴族連中は暇人しかいないのでしょう?」
 ナチュラルにダチュラは毒を吐く。
「どうする、ひと月以上に伸ばすよう交渉するか?」
「いえ、このまま交渉に臨みます。それでは我々は策練りますのでこれにて」
「わかった」
 
 
 
 それからミオリアはアクバ王に掛け合い、なんとか交渉の席を設けることに成功した。
 貴族側の代表はムスタファという男で、貴族でもかなりの地位のポジションにいる。
 そもそも貴族側とはあまり接点のないミオリアはこの男がどんな男は知らないし興味もない。
 懐刀の立ち位置はアクバ王の直属部隊であり、構成メンバーはイシュバルデ王国中でも実力が認められて入隊した者たちの集いであるため、貴族たちと縁遠い人間が多い。ミオリアもその一人である。貴族たちから見た懐刀は目の上のたん瘤であり、鬱憤や嫌がらせをする恰好の標的である。
 最近はタンドレッサがミオリアと結託して伸し上がっているため、貴族たちも安易に手を出せない状態になっていたが、それがストレスとなって爆発した結果、このウォーゲームに発展した。
 
 
 
「はじめまして、ムスタファ・インデクトです。爵位は公爵」
「ミオリアだ。懐刀と言えば伝わるな?」
 ムスタファは綺麗に整えられた顎髭を撫でながら、上物の赤い軍服を誇張するかのように胸を膨らませた。
「私は部下のアキーです」
 アキーはドレス姿で交渉に臨んでいる。胸元を大きく開けているドレスは煽情的である。
元々アキー、ヘムロック、ダチュラは美形で兵舎でよく噂になっているのは知っていたが、相応の恰好になるとその事実が如実に伝わる。
 ムスタファもアキーの大きく開いた胸元と谷間に視線が何度も向かっているのがミオリアから見ても良く分かった。
「話はおおよそ伺っています。ウォーゲームの試合時間の延長ですね?」
「そうだ」
 ミオリアはムスタファの言葉に頷く。
「私たちは一向にかまいませんが、そちらがきつくなるだけでは? 何せこちらは千の兵であなた達三人を討ちに行きますからね」
 貴族のプライドかそれともただの驕りか分からないが、ムスタファは余裕の表情を浮かべている。
「提案を受理していただきありがとうございます。加えてなのですが、もう一つご提案があります」
 アキーがムスタファを一瞥したと話を切り出す。
「何でしょうか?」
「現在、師であるアジサイ、ジークは王の勅命により出払っていることは存じ上げていると思いますが、二人はこのウォーゲームの件を把握しておりません」
「それで?」
「ウォーゲーム開始後でも二人の途中参戦を認めて頂きたいのです」
「それは無理だ。急務と言え、貴族の厳正な決闘において遅刻するなど言語道断である。それに今すぐ二人を連れ戻せばよい話であろう?」
 ムスタファは太々しく言う。しかもムスタファは王の勅命という言葉をあえて無視して自分が有利になる言葉へすり替えている。
 しかも、わざわざジークとアジサイが不在のタイミングを狙っている。最初からまともに戦うつもりはなかったことが伺える。
「先ほど述べた通り、王の勅命なのです。ここで任務を放棄して万が一のことがあれば、アクバ王の顔に泥を塗ることになります」
 アキーは冷静に言葉を返す。この辺りはアジサイが徹底的に教育しているようだ。
「しかし、こちらにも面子がある。そもそも王の勅命と偽り、我々の勝負を反故にしているのではないだろうか、ジークもアジサイも戦果が突拍子もなさ過ぎて信憑性に欠ける。嘘くさいとしか思えぬわ」
 痛い所を突かれる。ジークが倒した竜は元々アルスマグナの分魂である。そして討たれた時点で竜の血肉はジークに全て吸収され、魂はアルスマグナに帰結する。つまり竜を倒したと言う証拠がないのである。
 アジサイに関しても同様で、十万人を殺したが実際に見た者はいない。それに加えて一年前にタンドレッサと決闘をしたが、この時の実力を鑑みるに、戦果と実力が釣り合わない様に思えてしまう。
 二人の実力を証明する証拠を探すとしてもこの交渉には間に合わないため、ここはハッタリでもなんでも使って切り抜けるしかない。
「なるほど、ムスタファ様はアジサイとジークの実力をお疑いであると?」
「証拠がない物をどう信じろと言う? 現に今、勅命を理由にして実力がばれるのを恐れて逃げているだけではないのか?」
「おい、部下の悪口はそこまでにしろ」
 ミオリアも癪に障る言動を看過できず口走る。
「では、正銘しましょう。あなた方の兵を途中参戦したたった二人の男が尽く返り討ちにするところを――」
 アキーは啖呵を切る。ここでムスタファが断れば、自分の兵に自信が無いことを証明してしまうことになる。ムスタファが断った場合、アジサイなら微塵の躊躇もなく他の貴族にこの話を誇張して言いふらすだろう。それはアキーも同じである。
「……わかった、特別に認めよう。ただしアジサイとジークだけである」
 ムスタファは相も変わらず余裕の表情で承諾した。
「もう一点確認したいことがある」
 ミオリアは話がまとまったところで口を開く。
「なんだ?」
 言葉尻に苛立ちを覚えた声でムスタファは聞き返す。
「ペットや使役している生き物の類、例えば馬とかを使うのは問題ないか?」
「馬だと? そんなものは貴族なら誰でも使うに決まってる。そんなこともわからぬのか」
「いや、ただルールに書いてなかったもんでな」
 交渉が終わると、ミオリアとアキーは執務室に戻った。
 
 
 執務室に入りドアを閉めたあと、周囲を確認する。盗聴器などが無い事を確認すると二人はガッツポーズをする。
「見たかよあのバカ、まんまと乗りやがった」
「全くですね、胸ばっか見てて気持ち悪かったですけど」
「ほんとだよ、いやぁ、しかし、ムスタファの野郎、アジサイがどんだけヤバイ魔獣神獣と暮らしてるか分かって無くてほんとウケたわ」
「アジサイ様には神獣ネグローニがいますからね」
「それだけじゃない、あいつにはもう一匹相棒がいるんだ」
「えっ?」
 アキーがきょとんとする。
「アルラウネのアンラ、植物の魔獣で、アジサイのお気に入りの武器でもある。それにグラスウルフのそらまめっていう可愛い狼もいるな」
「私、一度も見たことないです」
「あー、なんせアンラは今、アジサイの嫁の墓を守っているからな」
 
 アキーは豆鉄砲を食らったかのように驚いた表情をする。
 
 
「アジサイさんって結婚してたんですか!!」
 
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