この異世界は理不尽で残酷で儚く、そして竜を狩り、国を護り、獣が吠えた。

白井伊詩

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竜ト獣ノ74話「ゲームエンド」

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 城はほとんど陥落していた。
 ヘムロックはおそらく捕まったのだろう。二週間も連絡が一切ない。
 
「この扉が破られたら奴隷に逆戻りかぁ」
 分厚い扉にありったけの金属板を張り合わせ土嚢を積み上げた扉は間もなく破壊されるだろう。
 そうなればダチュラとアキーは敗北である。既に弾薬は底を尽き、まともに動く武器もナイフくらいである。その上もう二日も飲まず食わず。衰弱も激しい状態であった。
 どーんどーんと扉を叩く音がする。
 
「嫌ですね」
「あの生活最悪、しかもこういう時に限って上は居ないし」
「ほんと、間が悪いですね」
「はぁ、ほんと……」
 二人は崩れかけた天井から空を見上げた。
 青い空、どこまでも青い空が広がっている。
 それから天井に端に茂る青葉のコントラストは見ているだけで美しい。

「いや、なんで青葉が生えてんの」
 ダチュラは異変にようやく気づくが既にそれをどうしようという体力はなかった。
「貴様ら、名は?」
 青葉が生えていた木が膨張し、緑色の肌の女が現れる。局部は葉で覆われている物の妖艶さが伺える。
 魔獣アルラウネ、アキーもダチュラも噂で聞いたことがあるが本物を見るのは初めてだった。
 アルラウネは先端の折れたハルバードを片手に詰め寄る。
「質問に答えよ、貴様らの名は何か」
「アキーです。こちらはダチュラ」
「ほう、なら良い。私はアンラ、アルラウネのアンラだ」
 先ほどまで見せていた敵意はなく、魔獣とは思えないほど穏やかな表情であった。
「貴族が嗾けた魔獣ではないのですが?」
 アキーがアンラに問いかける。
「その質問は無意味である。しかして、安心せよどちらかと言えば私は味方である」
 アンラは枝を伸ばすと扉を破壊する。ほんの数秒、一瞬の出来事であった。
 これだけでアンラという名の魔獣は他の魔獣と一線を画していることは明白である。
「そっちには敵が」
「聞くが小娘、お前は餌に怯えるか? 人間で言うならば皿に乗せられた料理に怯えるか?」
 扉の先には既に力尽きている人間しか存在しなかった。
 ただし、その通路の先には白い髪に白い着物を身に纏う女が何かを操っている姿があった。
 ダチュラはその女の異常性にすぐに気が付いた。
「あれ、神獣……」
「え、それって」
 あれが敵ならばこの状況に勝ち目どころかウォーゲームどころではない。
「ふむ、新入りのタラント、神獣だけあって膂力も十分か」
「初仕事は欠伸が出るほど簡単ね」
 僅かに光を照り返す細い糸から蜘蛛から生まれた神獣であることを理解できたが、それ以上にアジサイが神獣を二体も使役していると言う事実がアキーの肝を冷やした。
 アジサイと言う男がますます分からなくなった。

「さて、城の掃除は終わった、庭の手入れはネグローニに任せておけば直に片付く、こんなものか」
 アンラは戦況を整理し始める。
「糸を張り巡らせました。侵入者はこれですぐにわかります」
「手筈通り、さて蜂娘! 治療の時間だ!」
「はい!」
 ミツバチの魔獣クイーンアピスは物陰から飛び出すと、服のポケットからポーションを取り出す。
「初めまして! 少ししみますが!」
 アキーとダチュラの頭上に特製と思われるポーションをまき散らす。
「以上です。食事の用意をしますので少々お待ちください」
 アピスはそう言うと足早に羽音を立てて下に向かっていった。
「助かった……みたい?」
 ダチュラは胸を撫で下ろす。
「ええ……そう言えばアジサイさんは?」
「あの男なら、ジークと敵陣に向かった。武器も防具も持たずに」
 
 
 
 視点は問題の二人に切り替わる。

「さて、この分厚い城門、いけるか? さらに言うならこの先の中庭も突っ切りたい」
 アジサイは固く閉ざされた城門を叩く。
「余裕」
 ジークは全身に竜殼を展開すると大きく拳を振りかぶる。
 
 轟音、そして大地が震えるほどの衝撃が城門に響き渡る。
 木の繊維が悲鳴を上げながらバラバラに砕け散ると、悠々とアジサイとジークが中に侵入する。
「さて、数はどのぐらいだろ」
「アジサイさぁ、こんなの数えていたら日が暮れるぞ」
「それもそうだな」
 敵陣は二人を現状持ち出せる最大の兵を揃えていた。
「さて、派手なのとおとなしいのどっちをやりたい?」
「派手一択だ」
「オーケー、じゃあ、ジーク、任せた」
 ジークが一番槍と誇張するかのように竜殼で身を纏った体に速度を乗せて敵が盾を並べ待ち構えている。
「一人が突っ込んでくるだけだこの数なら押し返せる!」
 敵兵たちは自らを鼓舞してジークと相対するが、儚い言い聞かせに過ぎなかった。
 無情にもジークの一撃は盾を吹飛ばし、陣形に穴を開け、さらにその奥へ奥へと進む。その道をアジサイが駆け抜ける。
 圧巻の出来事にその場にいた者たちはただ呆然と眺めることしか出来なかった。肉体が違う、力が違う、強さが違う、悉くただ清々しいまでに悉くジークは駆け抜け、道を切り開いた。
「ジーク、お前……」
「この二週間、色々なことを魂に叩き込まれたぜ」
 アジサイの目には焦りと羨望が同時に写り込んでいた。
「お前はどうなんだ?」
「どうって……」
「踏ん切りはついたのか?」
「……それは、わからない。真っ暗なんだ」
 思うがままアジサイは吐露した。ジークは後ろに付いてきているアジサイを振り返ることはなかったが、彼がどんな表情をしているか予想できた。
「そうか」
「なかなか……難しいな」
 愛する妻を失った男は静寂の向こう側にいるようだった。
 アジサイがジークに届かない様に、ジークはアジサイの心に届かない歯痒さを感じていた。
 
「さて、じゃあ俺は中で遊んでくる」
「おう、じゃあ俺はこっちで遊んでいる」
 アジサイはジークの肩を叩き武運を祈ると城内突入した。
 
 
 アジサイは城内に入ると、義装の能力を使い城内をくまなく調べ上げる。
「はぁ、ヘムロックが地下にいるな、とっ捕まったか。仕方ねえ奴だな」
 城内の解析を終えると最短ルートを演算、眼前に広がるウィンドウでナビゲート開始する。
「いたぞ!」
 ジークに恐れた敵兵が何とか手柄を立てようとどうやら城内に戻って来たらしい。
「竜狩りが無理でもこっちの男なら――」
 アジサイは追われるが、敵兵を振り切って一気に地下へと降りた。いかにも牢屋と思える場所に辿り着く。
「よーっす、貞操は大丈夫かぁ?」
「元々卒業済みです、まぁ三人くらいでしょうか」
 ヘムロックは慣れているのか淡々とそう答えたが、アジサイはそれを聞いた瞬間、頭に血が上った。
 ヘムロックが囚われている牢屋の格子に手を掛けると装具によって強化されている握力に物を言わせて無理やり破壊する。
 強引に行使を引き抜き、踵を返す。
「お前は急ぎ戻って治療を受けろ。あとは俺がやる」
 表情を引き攣らせ、歯をギリギリ軋ませている。
 
 鬼のような形相だったためヘムロックは有無言わずはいと答えて城から離脱した。
 城から出て行くところまでアジサイはきっちり確認すると指の関節を鳴らした。
「殺す」
 再びに城へと戻るとアジサイは目に付いた敵は全て骨を折り、顔面を殴打し壁が砕けるほどの力で圧倒し、城内をじわじわ制圧し始める。
 
 
 
 城外ではジークが敵を放り投げていた。
「…………次は?」
 死屍累々という言葉がこれ以上当てはまるものはなかった。純然たる暴力がその場を支配し、ジークと言う男にかすり傷一つも付けられないまま、兵たちは力尽きていた。
 
 ここまで強くなったのは、ジーク自身が竜を狩り、その力を得たと言うのもあるが、今まで倒してきた竜たちと対話し、技を継承した。
 今は使えない技も多く存在するが、それでも今までのジークに足りなかった技量を補うことができた。
「流石、龍神演武……」
 龍神演武を身に着けてからジークは無駄な動きが無くなり攻撃が清廉されていた。普段なら攻撃を食らい、それを即座に回復させ反撃という流れで戦闘を行ってきたが、今は相手の動きを先読みし必要な力を必要な分だけ使い最少手で攻めることできる。
 周りを見渡しても戦意を喪失している者たちしかない。ジークはため息を付いて城内に入る。
「うわ、なんだこれ」
 城内の荒れ方が異様だった。犯人はアジサイなのだが、彼らしくないとジークは思った。普段のアジサイは無意味に壁を破壊したり、癇癪を起したかのように暴れたりはしない。
 アジサイの逆鱗に触れる何かがあったに違いないと予想しジークはアジサイの後を追いかけた。
 倒れた者たちを追いかけていくと、玉座を模した場所に出る。そこに腰かける男、今回の発端の一人でもあり敵陣の頭でもあるムスタファが顔を青くしていた。
 ムスタファの視線の先には明らかに激怒しているアジサイの姿があった。ウォーゲームとか関係なく殺しかねないレベルである。
 ジークは慌ててアジサイの元に詰め寄る。
「どうしたアジサイ、流石に今はウォーゲーム、いくら何でも――」
「あの野郎、ヘムロックを兵士の慰み者にした」
「おう、ぶっ殺すか」
 ジークも目の色を変え、竜殼を展開する。
 二人はムスタファの眼前まで歩み寄ると同時に拳を放つ。
 
 見事にムスタファの顎を穿ち抜いた一撃は、奴の体を天井まで放り出された。二人はそのまま体を翻し、城を跡にした。
 
 僅か数時間でウォーゲームは終了となった。
 この戦いで懐刀は知名度を上げ国民からの人気を博し。ジークは竜狩りとしての力を知らしめした。そして不思議なことにアジサイの戦果だけは広まることが無く、参加していた人程度の印象となった。
 
 
 
 
「さてと残件処理とかでグダグダひと月経ってしましたが、二つのウォーゲーム、どちらも勝利ということでーーー!」
 
 
「「「「乾杯!!」」」」
 
 懐刀七人にジークとアジサイ、アキー、ダチュラ、ヘムロックの合計十二名が居酒屋KARASAWAで盛大に打ち上げを行っていた。
「いやぁ、しかし、アキー、ヘムロック、ダチュラ、よく頑張った!」
 アジサイは満面の笑みで自分の部下を見て誇っていた。
「ああ、よく頑張った」
 ジークも楽しそうに同意した。
「あ、ヘムロック、その後はどうだ?」
「生理を確認したので妊娠はしていないと思います」
「それはよかったよ、もしもこんなことがあったら直ぐに言うんだぞ」
「はい、ありがとうございますアジサイさん」
「はいはい、それじゃ、今日は高給取りばっかりだから媚まくって、たらふく奢ってもらえ!」
 アキー、ダチュラ、ヘムロックは喜々としながら懐刀たちの方へ向かっていった。
 
「なぁ、アジサイ」
「どうしたジーク」
「辛いことも多いけど、今この状況が続くといいな」
 アジサイは何も返さなかった。ただ無言で穏やかな表情を見せただけだった。
 
 不気味なまでに穏やかな表情だったことをジークは脳裏に張り付いて離れなかった。
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