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続・一章 始まりの朝
3 いつもの朝
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今朝の話をまとめるとこうだ。
保険医はずっとルーの診断をしながらルーの呪印の分析を続けていた。
その研究成果を務めてる魔導学術院を通して魔術師同盟にも提出していたという。
そうしたらいつの間にか別の場所でその研究データを基にした新しい術式が完成していて、保険医には感謝状とともに表彰されることが通達されたんだそうだ。
しかし、保険医はあくまで呪印の解析データを提出していただけ。
それを自分の手柄のように扱われることに納得がいかなかったらしい。
なので呪印の開発者が別にいることを公にしたいと相談しに来た。
もちろん、ルーが話を蹴るというのは予想していたが、術式の登録となると地域どころか国、あるいは国を超えた魔術師同盟への公文書であるため、学校で生徒の診断書を誤魔化したのとは話の規模が違う。
なにより、
『こうなるのはわかってたけど、このまま話を進めてしまうのは僕の呪術師としての矜持にかかわってくるからねぇ』
だと。
しかしルーはルーで、
『絶対に嫌です! 淫紋のことは誰にも、家族にだってずっと秘密にしてるのに、こんな形で公衆の面前にさらされるとかどんな羞恥プレイなんですか!!』
と、取り付く島もない。
そんなわけで、話は一時中断。
保険医は仕事のため学校に向かい、オレ達も冷めた朝食を食べた後、錬金術店としての活動を始める。
ただし、今日はお店はお休みだ。
発情の次の日は、店を閉めてギルドへポーションを鑑定、納品してもらう日と決めている。
錬金術、つまり魔法薬の生産業は、店頭販売よりもそちらの方が主な収入源なのだ。
「先生も適当に誤魔化してくれればいいのに……」
ポーション入りの木箱とともに馬車の荷台で揺られながら、ルーはずっとぶつぶつと文句を呟いている。
まあ、盛んな年頃のスケベ心が作り出した秘密の事情が、大人になってから『世紀の発見だ』とか言われてほじくり返され、あまつさえ大勢の前で公表されるとなれば、その気持ちは想像に難くない。
「事故……そうだ実証実験で事故が起きれば術式の登録自体が反故になる……」
「る、ルー……?」
はっと思いついたかのように不穏な呟きが聞こえたので、流石にオレも声をかける。
都市の結界を調整する試験の邪魔をしたりすれば、もはや一般犯罪を通り越してテロ行為だ。
いくら魔獣が大人しい現代とはいえ、どんな事故が起きるかわからない。
ルーはぬらりと、暗いオーラを放ちながら顔を上げこちらを見た。
いつになく鬼気迫る雰囲気に気圧されて、冷や汗が流れる。
やがて、大きくため息をついて、
「外で呼ぶときは?」
その一言と同時に、張りつめた空気がふっと緩んだ。
「あ、ご、ごめんル……すみません、店長」
「はあ……もうどうしたらいいんだろ。公文書に自分の痴態が記録されるとか、前世でどんな悪行重ねたらこうなるの」
もう一回、小さめのため息をついて、ルーはオレのほうに体重を預けてきた。
軽くて小さな体。
オレは、昨日の夜を思い出していた。
縮こまる小さな体と、必死にオレにしがみつく小さな手。
興奮の中でも伝わってくる、怯えて震えている心。
発情〈ヒート〉の夜にだけ見せてくれる、小さく弱い男の子の姿。
普段は自分は男だ年上だと言って見せてくれない、もう一つのルーの素顔。
そんな彼が、まだ日の高い時間だというのに少しだけ弱いところをさらけ出してくれている。
嬉しいと言ったら、また彼は馬鹿にされたと怒るだろう。
それでもオレは、こうして不安を体ごと預けてくれたことが嬉しい。
荷馬車の中で力なくぼやく彼を支えるように、オレはそっとその肩に手を回した。
「そんなに考えなくても大丈夫じゃないか?」
「他人事?」
「ち、違うって。保険医も、何か考えがあるんじゃないかと思ってさ。そうじゃなかったら、勝手に登録を済ませた後で事後報告だけに来るだろ? あの人の場合」
「……そうかも」
「それに、オレは何があっても店長の隣にいるから。もし本気で新術式の試験を邪魔したいって言うなら、オレも一緒にやりますからね、店長」
「ぶ、物騒なこと言わないでよ。そんな大事件起こすつもりなんてないって。さっきのはほんの冗談だってば」
「それなら、安心した」
ぐっとルーを抱き寄せる。
朝から不機嫌に沈んでいたルーが、今日初めて少しだけ笑ってくれた。
「……ありがと、ウォル。ちょっと元気出た」
気の利いた言葉の代わりに、オレはもっと強くルーを抱きしめる。
怒ってる顔も可愛いけど、やっぱり笑顔が一番だ。
だから―――
その時ガタンっ、と馬車が揺れて、慌てて木箱を支えたところで我に返った。
誰も見てない荷馬車の中とは言え、外で密着し過ぎた。
また機嫌を損ねてしまっただろうか。
恐る恐るルーを見やると、くすくすと笑っている。
いつもの少年の顔に戻ったルーにホッとして、オレは照れ隠しに頬を掻きながら笑い返した。
やっといつもの朝に戻って来た。そんな気がした。
保険医はずっとルーの診断をしながらルーの呪印の分析を続けていた。
その研究成果を務めてる魔導学術院を通して魔術師同盟にも提出していたという。
そうしたらいつの間にか別の場所でその研究データを基にした新しい術式が完成していて、保険医には感謝状とともに表彰されることが通達されたんだそうだ。
しかし、保険医はあくまで呪印の解析データを提出していただけ。
それを自分の手柄のように扱われることに納得がいかなかったらしい。
なので呪印の開発者が別にいることを公にしたいと相談しに来た。
もちろん、ルーが話を蹴るというのは予想していたが、術式の登録となると地域どころか国、あるいは国を超えた魔術師同盟への公文書であるため、学校で生徒の診断書を誤魔化したのとは話の規模が違う。
なにより、
『こうなるのはわかってたけど、このまま話を進めてしまうのは僕の呪術師としての矜持にかかわってくるからねぇ』
だと。
しかしルーはルーで、
『絶対に嫌です! 淫紋のことは誰にも、家族にだってずっと秘密にしてるのに、こんな形で公衆の面前にさらされるとかどんな羞恥プレイなんですか!!』
と、取り付く島もない。
そんなわけで、話は一時中断。
保険医は仕事のため学校に向かい、オレ達も冷めた朝食を食べた後、錬金術店としての活動を始める。
ただし、今日はお店はお休みだ。
発情の次の日は、店を閉めてギルドへポーションを鑑定、納品してもらう日と決めている。
錬金術、つまり魔法薬の生産業は、店頭販売よりもそちらの方が主な収入源なのだ。
「先生も適当に誤魔化してくれればいいのに……」
ポーション入りの木箱とともに馬車の荷台で揺られながら、ルーはずっとぶつぶつと文句を呟いている。
まあ、盛んな年頃のスケベ心が作り出した秘密の事情が、大人になってから『世紀の発見だ』とか言われてほじくり返され、あまつさえ大勢の前で公表されるとなれば、その気持ちは想像に難くない。
「事故……そうだ実証実験で事故が起きれば術式の登録自体が反故になる……」
「る、ルー……?」
はっと思いついたかのように不穏な呟きが聞こえたので、流石にオレも声をかける。
都市の結界を調整する試験の邪魔をしたりすれば、もはや一般犯罪を通り越してテロ行為だ。
いくら魔獣が大人しい現代とはいえ、どんな事故が起きるかわからない。
ルーはぬらりと、暗いオーラを放ちながら顔を上げこちらを見た。
いつになく鬼気迫る雰囲気に気圧されて、冷や汗が流れる。
やがて、大きくため息をついて、
「外で呼ぶときは?」
その一言と同時に、張りつめた空気がふっと緩んだ。
「あ、ご、ごめんル……すみません、店長」
「はあ……もうどうしたらいいんだろ。公文書に自分の痴態が記録されるとか、前世でどんな悪行重ねたらこうなるの」
もう一回、小さめのため息をついて、ルーはオレのほうに体重を預けてきた。
軽くて小さな体。
オレは、昨日の夜を思い出していた。
縮こまる小さな体と、必死にオレにしがみつく小さな手。
興奮の中でも伝わってくる、怯えて震えている心。
発情〈ヒート〉の夜にだけ見せてくれる、小さく弱い男の子の姿。
普段は自分は男だ年上だと言って見せてくれない、もう一つのルーの素顔。
そんな彼が、まだ日の高い時間だというのに少しだけ弱いところをさらけ出してくれている。
嬉しいと言ったら、また彼は馬鹿にされたと怒るだろう。
それでもオレは、こうして不安を体ごと預けてくれたことが嬉しい。
荷馬車の中で力なくぼやく彼を支えるように、オレはそっとその肩に手を回した。
「そんなに考えなくても大丈夫じゃないか?」
「他人事?」
「ち、違うって。保険医も、何か考えがあるんじゃないかと思ってさ。そうじゃなかったら、勝手に登録を済ませた後で事後報告だけに来るだろ? あの人の場合」
「……そうかも」
「それに、オレは何があっても店長の隣にいるから。もし本気で新術式の試験を邪魔したいって言うなら、オレも一緒にやりますからね、店長」
「ぶ、物騒なこと言わないでよ。そんな大事件起こすつもりなんてないって。さっきのはほんの冗談だってば」
「それなら、安心した」
ぐっとルーを抱き寄せる。
朝から不機嫌に沈んでいたルーが、今日初めて少しだけ笑ってくれた。
「……ありがと、ウォル。ちょっと元気出た」
気の利いた言葉の代わりに、オレはもっと強くルーを抱きしめる。
怒ってる顔も可愛いけど、やっぱり笑顔が一番だ。
だから―――
その時ガタンっ、と馬車が揺れて、慌てて木箱を支えたところで我に返った。
誰も見てない荷馬車の中とは言え、外で密着し過ぎた。
また機嫌を損ねてしまっただろうか。
恐る恐るルーを見やると、くすくすと笑っている。
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やっといつもの朝に戻って来た。そんな気がした。
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