恋のおまじない ~好奇心で自分に淫紋つけたら合法ショタになってた~

なきいち

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続・三章 新術式

3 発情の理由

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魔導学術院正門前。
「えと、ル……店長、こ、これからどうしましょう?」
「あ、う、うん。そうだねウォル……君。どうしよう、か?」
「ど、どこか食べにでも行きましょうか?」
「あ、あはは、そうだね。そろそろお昼だし……」
保健室での用事を済ませた俺たち二人は、お互いに目をそらしながら、なんともぎこちない会話をしていた。
時間は少し遡る。

「ああ、ちょっと待って」
結論は出てないものの、ここに来た目的は果たした。
勢いで突撃しちゃったし、もうこの場に長居しては悪いかと立ち上がり、帰ろうとしたところで先生に呼び止められる。
「せっかく来たんだから、魔力検査もしていってくれないかな? 時間はある?」
「ええ……?」
この話の流れで呪印の検査を切り出せる先生の図太さに、俺は困惑した。
今日は店は休みなので、ポーションの代金を受け取りに行く夕方まで予定はない。
「ありますけど……」
「オーケー。それじゃあ準備するからね」
と言って、先生はいつもの検査用魔法陣を書いていく。
俺は放心状態のまま、いつものように魔法陣の中心に置かれた椅子に座り、先生は魔法陣に手を当てて、検査が始まる。
それが終わると先生はすぐに机に戻り、紙を一枚取り出すとペンを走らせた。
たくさんの数字と、図形、普段公用語として使われているのとは明らかに違う文字。
暗号ではないけど、患者のプライバシーを守るため、カルテにはそういう文字を使うのだと前に聞いた。
淀みなく書き終えるとペンを置き、引き出しから別の資料をもう一枚取り出して、何やら比較するように交互に見つめている。
「あの、それじゃあ俺たちはこれで」
「ああ待って! 重要なことだから。発情ヒート、と言ったっけ?」
「へ?」
「一つ仮説が上がってね、今その確認をしてるんだ。だから待ってくれないか」
こっちは新術式と淫紋の話でもう一杯一杯だというのに、まだ一波乱用意しているって言うのか……
立ち上がりかけた俺は、またへなへなと椅子に座りこんでしまった。
俺の様子を気にかけてくれてか、ウォルがそっと椅子を近づけてくる。
(情けないな)
無言で寄り添ってくれる彼に思わず体を預けてしまいたくなるが、年上として、店主として、魔術の師匠として、少しは毅然とした存在でいたい。
気遣ってくれたことには感謝して、身振りだけでありがとうを伝えて、俺は姿勢を正した。
「うん。うん。間違いない」
先生は資料を見比べて一人納得し、顔をあげて俺たちに向き直った。
「ルー君、ずばり昨日がその発情ヒートの日だろう?」
「は?」
ニヤリ、と言い当てた先生の言葉に、一瞬の間を置いて俺は一気に顔が熱くなる。
ずばり大当たりだ。
それで今朝の醜態を晒すことになったのだから。
そう思ったら余計に恥ずかしくて、さっきまで深刻に悩んでいたのも忘れるくらい頭の中が真っ白になった。
「おいこらセクハラじゃねぇか! ルー、大丈夫?」
「う、うん」
「あ、ああ、ごめん。ええと、続けてもいいかな?」
「はい……」
先生も少し悪戯が過ぎたと思ったようで、真顔に戻って言う。
「昨日の月の形は覚えているかい?」
「月?」
「たしか、満月だった」
発情ヒートの夜は空を眺めている余裕なんてないからわからない。
わからない、と言う前にウォルが答えてくれた。
「ルーの発情ヒートは月が関係してるってことか?」
「そのとおり。ただし、月が関係しているのは呪印じゃなく、ルー君自身の魔力だ」
「俺の魔力ですか?」
「そう。個人差は大きいけど、月の満ち欠けが魔力に影響を与えることは良く知られている。
ルー君は比較的、影響を受けやすい方みたいだね。
だから魔力が昂る満月の夜、魔力が萎む新月の夜、魔力の流れが不安定になる。
それが呪印に影響を与えているみたいだ」
「はあ」
「呪印が落ち着いているのは、探し求めた『つがい』の魔力を受け取ったことで呪印が安定した、変な言い方をすると、呪印が安心したからなんだ。
しかし魔力の流れが不安定になると、その安定が一気に崩れる。そうなると、不安になった呪印は宿主に危機感を訴える。
発情ヒートのとき、性欲以外にも強い不安感みたいなものを感じないかい?」
「そういえば……」
言われてみれば、性欲よりも性欲が治まらない焦りみたいなものがあった。
だから発情ヒートの夜はいつも、ついウォルに……
色情の熱にうなされて彼を求める自分の姿を思い出しそうになって、慌てて先生の話に意識を集中した。
「たしかにそうでした」
「呪印が発する危機感を感じた体は、不安を解消するために『つがい』を呼ぶフェロモンを過剰分泌させる。
そうすると今度は、フェロモン分泌に影響されて呪印が活性化する。
そうするとまた、呪印の影響で体が反応する。
その反復が、キミたちが発情ヒートと名付けた現象の正体だ」
「それってつまり、何の対処法もないってことじゃないですか」
月の影響をどうにか出来ない限り、満月と新月の夜には必ず発情ヒートはやってくる。
そんなの、どうしようもない。
とんでもない話を聞かされた後に、さらにとんでもない追い打ちである。
なんだこれ。今日は厄日か?
「いや、そうでもない。要するに、呪印が不安にならなければいいんだ」
「不安にさせないって、どうすれば?」
「キミたち、普段はどれくらいしてるんだい?」
仲良く?
そりゃ、同じ家で暮らしているんだし、関係は良好だと思うけど……
俺は一度ウォルを見て、先生に視線を戻す。
その口元が何か、意味ありげに釣りあがっている。
(仲良く……)
……
そういう意味か!
理解した俺は、再び顔が茹で蛸になる。
「だからセクハラはやめろって言ってるだろ!」
赤くなりうつむく俺に、ウォルも遅れて理解して、先生に怒鳴る。
「いや、真面目な話なんだよ。
普段から『つがい』の魔力を体に満たしておくことで、呪印が安定状態を保てるはずなんだ。
すぐに症状が無くなるなんてことはないだろうけど、続けていくうちにかなり症状は緩和されていくはずだよ」
それは、つまり……
普段からウォルともっと、エッチをしろと……
「下世話なことを言わせてもらえば、日頃の欲求不満の反動が発情(ヒート)と言えるかもしれないね」
先生、その追い打ちは容赦がなさすぎます。
もう、ほんとに、穴があったら入りたい……
俺はますます体を縮こませた。
「そ、そういうのは必要だからやるってもんじゃねえだろ!」
叫ぶウォルを見ると、顔は毛で見えないけど、毛並みの薄い耳の内側がピンクに色づいて見えた。
「うんまあ、これ以上プライベートに踏み込むのはやめておくけど、体にとって必要なことが心にとってもやりたいことなら、それは単なる合意じゃないのかな?」
「そっ……れは、そうかもしれないけど、ルーは小さいし、無理させられないから」
「え? 別に無理じゃないけど」
「え?」
ウォルが遠慮しているみたいなことを言ったので、つい口が動いてしまった。
こちらを見たウォルと目が合う。
口が滑ったと、慌てて手を動かしながら誤魔化す言葉を探した。
「い、いやあの、だってほら、毎日ってのはほら、やりすぎっていうか、ええとほら、疲れるじゃない?」
「そ、そうだよなぁ!」
「つまりそれは、本当なら毎日……と言う意味にならないかい?」
「なっ……!?」
「そうなのか!?」
「い、いやちがっ……そうじゃなくて!」
慌てて誤魔化したのに、先生がいらぬ茶々を入れたせいで墓穴に変わる。
目を大きくするウォルに、これ以上の言い訳が思いつかなくて、大声で誤魔化した。
だってそんな、エッチをしない日でも毎晩毎晩一人で慰めてるなんて知られたら、いくら付き合ってるとはいっても恥ずかしい。
獣人相手とはいえ、がっつきすぎて体力が持たないとか、ウォルに重いなんて思われたら、それこそ立ち直れない。
そんなことなら、発情ヒートを我慢してでも一人で慰めていたほうがまだマシ……
「ち、違うのか……?」
「……」
叫んでしまった手前、次の句が浮かばない。
しょぼん、とウォルの耳が倒れる。
ヤりたくない!と大声で否定してしまうのは、傷つける言い方だっただろうか。
何とか言い訳しようとあれこれ考えるが、まとまらない。
俺が泣きそうになりながら恨みがましく先生のほうを見ると、先生はあらぬ方向に顔をそらしながら飄々とした声で、
「んー。僕は別に、魔力の交換をすればいいと言っただけだからね?
手段の指定はしていないよ?
あ、そうだそれと、発情ヒートの次の日、何か体に変なことは起きてないかい?
発情ヒート状態のルー君は魔力が垂れ流しの暴走状態だから、おそらく魔力が枯渇して一時的に精神が脱力状態になると思うんだ。
逆にその垂れ流し状態の魔力を受け取った相手は、疲労の回復や気分の高揚なんかがあると思うんだけど」
この期に及んでさらに追い打ちをしてきた。
何も言えない俺。しょんぼりして聞いてないウォル。そっぽを向いて考え事のふりをする先生。
沈黙が保健室を支配する。
あまりに耳の痛い空間に耐え切れず、
「帰るよ! ウォル!」
「あ、ああ」
俺は思わず君付けを忘れて叫び、逃げ去るように保健室を後にした。

そして、今に至る。
「ええと、どうしようか?」
「え? あ、な、なんだっけ?」
商業区を目指して歩きながら、もうずっとお互いまともに顔も見れないこの調子である。
「だ、だから、お昼」
「あ、ああ、そうだったな。飯にするか」
「いやだから、どこのお店に行こうかって」
「あ……ああっ、そうだったな! ……あ。そうでしたね」
「あ、あはは、ウォルってば、人前ではちゃんと敬語にしてって言ってるのに」
「そ、そうだった、でした。ごめんなル……店長」
ああもうどうしてくれるのこの空気!
全部先生のせいだ。
もう何でもいいから一度どこかに入って落ち着こう。
何か食べて落ち着けば、このふわっふわした空気もマシになるはず。
何でもいいから食べる店を探そうと少し足を速めたときだった。
「わっ」
「わぁうっ」
ぼやぼやとしながら歩いてたせいで、裏路地から飛び出してきた子供に気づかず思いっきりぶつかってしまった。
カシャン
と、何かが割れる音が響く。
「あたた……」
地面に倒れたまま、ぶつかってきた相手を確認すると、俺と同じくらいの子供が同じように倒れているのが見えた。
フード付きのローブを被っているが、口元を見るに犬の獣人だろう。
そして俺とその子の間の地面には、何かを入れていた透明な容器の破片と、中身の液体が地面に広がっていた。
これは、やってしまった。
「あ、ご、ごめんね! ぼーっとしてて。怪我はないかい?」
大切なものでなければいいが、まずは怪我の確認をと立ち上がり、急いで駆け寄ろうとして、
(この、匂い……)
嗅ぎなれた魔力の匂いを感じて、足が止まる。
反射的に割れた瓶に目をやった。
地面に広がった液体はいつの間にかシュウシュウと泡立ち、白い煙を立ち昇らせている。
その反応を見た俺はとっさに、
「ウォル! 吸っちゃ駄目!」
「え?」
叫ぶ。
瞬間、爆発するようにあたり一帯に白い煙が広がった。
(これ、は……)
煙幕のポーション。
それに、この感覚は、催眠ポーション、か?
小瓶の中身を頭が勝手に分析している中、とっさに組んだ術式に、魔力を流した。
意識が遠く、なって、く―――
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