恋のおまじない ~好奇心で自分に淫紋つけたら合法ショタになってた~

なきいち

文字の大きさ
31 / 47
続・三章 新術式

2 報告義務

しおりを挟む
喫茶店を出て、俺たちはまっすぐに母校、魔導学術院を目指していた。
「絶対、先生だよね」
「たぶん、そうだな」
「でも、何も言ってなかったよね?」
「そぶりすらなかったな」
「どういうことなのか、ちゃんと聞きださないとね」
正門をくぐり、校門から入って、来客用のスリッパを借りて、勝手知ったる校舎の中に足を踏み入れる。
今は授業中らしく、廊下に生徒の姿はない。
呼び止められたり注目を集めないのは好都合と、目的の場所に走らず急ぐ。
保健室と書かれた札の下の扉の前で止まるとノックをして、返事が返ってくる前に扉を開いた。
その人は仕事もせずにぼうっと外を眺めていたようで、来客に気づいてにこやかに振り返る。
「はいはい。どこか具合でも悪いのかい?」
「せ・ん・せ・い?」
懐かしい匂いのする保健室の中へ、表情筋を笑顔の形に固めたまま、ずんずんと進んでいく。
クープ先生は俺たちの姿を見ると、いくらか驚いた表情を浮かべていた。
「ルー君!? どうしたんだい、こんなところに急に」
「どうしたんだじゃありません! 新術式のことです!」
「ああ、今朝のね。考えてくれたのかい?」
「そうじゃありません! もう一つのほうです!」
「もう一つ?」
と、先生はあくまで何も知らないという態度でオウム返しをする。
話を切り出す前に、ウォルが後ろできちんと扉を閉めるまで少し息を置いた。
俺は爆発しそうな感情を出来得る限り抑えて、尋問するようにねっとりと問いかけた。
「"受胎"の呪印が、もうすぐ完成するそうじゃないですか?」
「受胎?」
「噂になってましたよ。まさか、心当たりがないとは言わないでしょうね?」
「噂だって? いや待って。うーん」
ギシ、と、先生の座っている椅子が音を立てる。
こちらに向かって座り直した先生は、話を始める前にと備え付けの椅子を示して、俺たちも座るように促した。
「心当たりなら……あるね。たしかに」
俺たちが腰を落ち着けると、先生は落ち着かないように顔の毛を弄りまわす。
「説明してもらえますか?」
「そうだねぇ……うーん」
顔の毛をわしゃわしゃと弄るのは、ストレスを感じている時や気を抜いたときに出る先生の癖だ。
先生はしばらくそうやって唸っていると、ようやく、
「順を追って話そう。
まず前提として信じてほしいんだけど、僕はその噂について本当に何も知らないんだ。
ただ、心当たりだけはある」
「どういうことですか?」
先生は顔の毛を弄るのをやめ、まっすぐ俺と視線を合わせて語り始めた。
「また少し、呪術の話になるけどいいかな。
昔、魔導開拓期と呼ばれた時代より前、魔術と呪術に明確な区別はなかった。
その後魔術を広く普及させるために、術式や原理がよくわからないもの、嘘か本当かわからないもの、古くて胡散臭いものを全部ひっくるめて、悪いイメージを分離するために株分けされたのが原始魔術、今の呪術なんだ。
朝、結界術の話をしたよね?
あれのように、呪術の中にはそれまで当たり前に使われていたものから突然危険性が判明することも、稀にある。
だから呪術師は研究資料、呪術医なら診察した患者のカルテをギルドに提出しなければならない義務があるんだ。
もちろんプライバシーの保護から個人が特定される情報は伏せられるんだけど、規定に従って、僕は生徒たちの診断書に混ぜて、キミの呪印の診断書もギルドに提出してたんだよ。
誤魔化しのない本当の記録をね」
「……聞いてないですよそんなの」
突如明かされたとんでもない事実に、俺は思い切り頭を殴られた気分だった。
墓まで持って行くつもりの秘密が、まさかギルドには全部筒抜けになっていたなんて。
「黙っていてごめんね。
ギルドに提出する資料は、流石の僕も虚偽報告には出来なかったんだ。
でも匿名情報だし、ギルドには守秘義務もあるから、ルー君が危惧するような事は起きないと思っていた。
それがまさか、こんな形で表に出てくるなんて。
僕にも予想外だったんだよ」
「あー……」
事のあらましがようやく見えてきて、俺はいよいよ頭を抱えた。
「つまり、どういうことなんだ?」
取り残されているウォルには俺が説明をする。
「つまり、ギルドが管理、保護している資料を閲覧できる立場にある人が、膨大な資料の中から俺の呪印のデータを見つけて、それを基に新術式の開発に成功しちゃったってこと。
患者のプライバシーがあるから、呪印の作成者や呪印がつけられた対象の情報は資料には載らない。
だからそのカルテを書いた人物、ギルドへの情報提供者になるクープ先生が表彰される形になったわけ」
合点がいったようで、ウォルは小さく首を縦に振った。
「"集魔"の術式開発に多大な貢献をしたとして表彰状と報奨金の提示がされた例の通達が来たその時まで、僕は本当に何も知らなかったんだよ。
噂になっている"受胎"も、たぶんどこかで同じように研究が進んでいるんだと思う。
だけど僕には、どこで、誰が、どんな研究をしているのか、全くわからないんだ」
話を理解して、やりようのない感情に両手で顔を覆う。
なんて、なんて……
「なんて迷惑な」
絞り出すように、感情のままを吐露した。
人の黒歴史をどれだけ弄んだら気が済むって言うんだ。
怒りも恥ずかしいも通り越して、いっそ泣き出したい。
そんな俺を見て、先生は膝の上で手を組みなおし、少し身を乗り出して言う。
「そう、キミにとってはただ迷惑な話だ。
そしてそのきっかけを作った僕がこんなことを言うのは、無責任で不愉快極まりないかもしれない。
でもここからはもう少し真剣に聞いてほしい。
キミの呪印は、呪術師なら喉から手が出るほどの逸品なんだ」
低く、優しく、ゆっくりと語り聞かせるような声。
俺は沈んだ気分のまま顔を上げた。
普段は無表情でもどこか笑っているように見える穏やかな顔が、すごく真摯に引き締められて、ダークブラウンの双眸が俺を射貫くように見つめている。
「わかるかい?
この短期間で二つも新しい術式が開発され、片方は噂程度とはいえ、もう片方はじきに実践配備されようとしている。
たった一つの呪印のデータがギルドに入っただけで、だよ。
キミが作ったその呪印が、どれだけの可能性を秘めているか。
これは大げさな話じゃないんだ。キミにとっては消し去りたい、ただの子供時代の恥ずかしい悪戯でしかなかったとしても。
呪術師として見たときキミの呪印は、金の卵を産む鶏。
そうとしか言えない、どれだけの宝石が眠っているかわからない鉱脈なんだよ。
僕がキミに名前を公表するように言った理由が、わかってもらえたかい?」
「……」
俺は、何も言葉が浮かばなかった。
正直そんなばかな、って気持ちが強い。
しかし、術式登録と言う事実が、俺の中の常識を強く否定する。
さっきまでとは真逆の方向に感情が振り切れて、衝撃よりも実感の無さが一番大きかった。
本当についさっきまで、勝手に人の恥ずかしい秘密をさらしものにしないでくれと思っていたのに、それが本当に価値があるのだと力説されても、心の整理ができなくて、理解が追い付かない。
なんだか目の前がくらくらしてきて、頭を押さえた。
「話が、大きくなりすぎて……正直何が何だか」
「そうだろうね……
だから、"集魔"のことから段階的に説得するつもりだったんだよ。
今すぐ結論を出せと言っても、答えられないだろう?」
「はい……」
「本当に、申し訳ないとしか言えない。
僕も何か手を考えてはいるけれど、キミたちも少し、構えておいてくれるとありがたい。
僕から言えるのはこれで全部だよ」
頭を下げるクープ先生に、何の言葉も言い出せなかった。
ただ、感情的にノーと言えば済むわけではない事態になっているということだけは、はっきり理解する。
納得して、結論を出すには、まだ時間が欲しいけれど。
「……わかりました」
しばらくして、俺が言えたのはそれだけだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!

ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。 牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。 牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。 そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。 ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー 母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。 そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー 「え?僕のお乳が飲みたいの?」 「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」 「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」 そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー 昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!! 「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」 * 総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。 いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><) 誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

愛を知らない少年たちの番物語。

あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。 *触れ合いシーンは★マークをつけます。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。 ----------------------------------------- 0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

処理中です...