1 / 2
始まりの聖女
プロローグ――聖女
しおりを挟む
過去に戻れるのなら、私は過去の自分に何て言うのだろう。
豪華な調度品たちに囲まれた部屋の窓から外を見降ろして、ふと思った。
振り返ればきっとメイドやら侍女などと呼ばれる人たちが私を見ていて、扉の外には彼ではない騎士達が立っている。この場所は私の豪華な鳥かごだった。私のお願いはほぼ叶えられ、顔色を窺われ、陰で化け物と蔑む。そんな窮屈な場所。気の休まることのできない場所だった。だから、私は早くこの場所から逃げ出したかった。今は自ら帰ってきてしまったけれど。危険を承知で外に飛び出た私が見たのは、自由と、幸せと、耐え難い現実だった。
此処が一番つらい場所だと思っていた。あそこ此処よりも幸せだと思っていた。そんなあの頃に戻るのなら私は何と言うのだろう。
信用するな? 気を許すな?
そんなのは無理だろう。絶対的な味方のいないこの世界で気を張り続けるのは無理だ。
自分の心の安寧の為に、私はきっと信じるだろう。そしてきっと私は、彼だけを絶対であると信じ、愛するだろう。傍にいてくれたのは彼だけだったのだから。
民衆がざわめく外を見ながら私は嘲笑した。結局辿る道筋は変わらないのだと。考えるだけ無駄なのだ。
部屋にノック音が響き彼女たちがドアを開ける。
そうして私付きの騎士が声を掛けた。
「そろそろお時間です。聖女様」
その言葉に私は窓から離れ、騎士のもとに向かう。
そう、私は聖女。この世界の私は聖女以外の何物でもないし、それ以外の私は許されてなどいない。
いつも無表情である騎士が私を見て、本当にいいのか、と言っているような気がした。
私はそれに笑顔で答えて騎士の横を通り過ぎた。騎士は後ろからついてくる。
良いも悪いももう関係ないのだ。動き出した歯車は止まらない。過去は変えられない。
彼はここにはいない。地位の上がった彼は私付きの騎士になどなれない。きっと、王家の護衛にでもなっているのではないだろうか。私はもう、彼に興味はない。話すことなど、ない。彼は私に何か言いたげだったけど、私は彼に話すことなどないのだ。もう、ありはしない。彼への想いは、あの日終わってしまったのだから。
ふふふっと声が漏れた。後ろから刺さる視線が強くなる。私はそれを気にせず歩き出した。
私は聖女。あなた方の願いを一度は叶えました。彼の願いも成就するでしょう。だから大丈夫。
私は聖女。私のわがままは世界を動かす。
私は聖女。あなた方の幸せが私の幸せ。
私は聖女。
わたしは。
わたしは、いつまでこれを続ければいい?
わたしの本当の願いは誰も知らないまま、叶えられないまま。
これがきっと、最後の、この世界での私のわがまま。
願いは、誰かに願うのではなく、自分たちで叶えなさい。
民衆が待つ広場に出るためのバルコニーへの扉を開けてもらいながら、私はもう一度自問する。
―――過去に戻れるなら、過去の私に何て言う?
バルコニーに続く道を歩きながら、その問いに自答する。
―――さいごまで気が付かないで
そうすれば、わたしはさいごまで幸せに生きられるはずだから。
そしてわたしは、彼らの前に姿をみせた。
これがさいごだ。そう、自分に言い聞かせて
豪華な調度品たちに囲まれた部屋の窓から外を見降ろして、ふと思った。
振り返ればきっとメイドやら侍女などと呼ばれる人たちが私を見ていて、扉の外には彼ではない騎士達が立っている。この場所は私の豪華な鳥かごだった。私のお願いはほぼ叶えられ、顔色を窺われ、陰で化け物と蔑む。そんな窮屈な場所。気の休まることのできない場所だった。だから、私は早くこの場所から逃げ出したかった。今は自ら帰ってきてしまったけれど。危険を承知で外に飛び出た私が見たのは、自由と、幸せと、耐え難い現実だった。
此処が一番つらい場所だと思っていた。あそこ此処よりも幸せだと思っていた。そんなあの頃に戻るのなら私は何と言うのだろう。
信用するな? 気を許すな?
そんなのは無理だろう。絶対的な味方のいないこの世界で気を張り続けるのは無理だ。
自分の心の安寧の為に、私はきっと信じるだろう。そしてきっと私は、彼だけを絶対であると信じ、愛するだろう。傍にいてくれたのは彼だけだったのだから。
民衆がざわめく外を見ながら私は嘲笑した。結局辿る道筋は変わらないのだと。考えるだけ無駄なのだ。
部屋にノック音が響き彼女たちがドアを開ける。
そうして私付きの騎士が声を掛けた。
「そろそろお時間です。聖女様」
その言葉に私は窓から離れ、騎士のもとに向かう。
そう、私は聖女。この世界の私は聖女以外の何物でもないし、それ以外の私は許されてなどいない。
いつも無表情である騎士が私を見て、本当にいいのか、と言っているような気がした。
私はそれに笑顔で答えて騎士の横を通り過ぎた。騎士は後ろからついてくる。
良いも悪いももう関係ないのだ。動き出した歯車は止まらない。過去は変えられない。
彼はここにはいない。地位の上がった彼は私付きの騎士になどなれない。きっと、王家の護衛にでもなっているのではないだろうか。私はもう、彼に興味はない。話すことなど、ない。彼は私に何か言いたげだったけど、私は彼に話すことなどないのだ。もう、ありはしない。彼への想いは、あの日終わってしまったのだから。
ふふふっと声が漏れた。後ろから刺さる視線が強くなる。私はそれを気にせず歩き出した。
私は聖女。あなた方の願いを一度は叶えました。彼の願いも成就するでしょう。だから大丈夫。
私は聖女。私のわがままは世界を動かす。
私は聖女。あなた方の幸せが私の幸せ。
私は聖女。
わたしは。
わたしは、いつまでこれを続ければいい?
わたしの本当の願いは誰も知らないまま、叶えられないまま。
これがきっと、最後の、この世界での私のわがまま。
願いは、誰かに願うのではなく、自分たちで叶えなさい。
民衆が待つ広場に出るためのバルコニーへの扉を開けてもらいながら、私はもう一度自問する。
―――過去に戻れるなら、過去の私に何て言う?
バルコニーに続く道を歩きながら、その問いに自答する。
―――さいごまで気が付かないで
そうすれば、わたしはさいごまで幸せに生きられるはずだから。
そしてわたしは、彼らの前に姿をみせた。
これがさいごだ。そう、自分に言い聞かせて
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
傷物の大聖女は盲目の皇子に見染められ祖国を捨てる~失ったことで滅びに瀕する祖国。今更求められても遅すぎです~
たらふくごん
恋愛
聖女の力に目覚めたフィアリーナ。
彼女には人に言えない過去があった。
淑女としてのデビューを祝うデビュタントの日、そこはまさに断罪の場へと様相を変えてしまう。
実父がいきなり暴露するフィアリーナの過去。
彼女いきなり不幸のどん底へと落とされる。
やがて絶望し命を自ら断つ彼女。
しかし運命の出会いにより彼女は命を取り留めた。
そして出会う盲目の皇子アレリッド。
心を通わせ二人は恋に落ちていく。
新しい聖女が優秀なら、いらない聖女の私は消えて竜人と暮らします
天宮有
恋愛
ラクード国の聖女シンシアは、新しい聖女が優秀だからという理由でリアス王子から婚約破棄を言い渡されてしまう。
ラクード国はシンシアに利用価値があると言い、今後は地下室で暮らすよう命令する。
提案を拒むと捕らえようとしてきて、シンシアの前に竜人ヨハンが現れる。
王家の行動に激怒したヨハンは、シンシアと一緒に他国で暮らすと宣言した。
優秀な聖女はシンシアの方で、リアス王子が愛している人を新しい聖女にした。
シンシアは地下で働かせるつもりだった王家は、真実を知る竜人を止めることができない。
聖女と竜が消えてから数日が経ち、リアス王子は後悔していた。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ
・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。
アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』
そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。
傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。
アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。
捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。
--注意--
こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。
一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。
二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪
※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。
※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。
「次点の聖女」
手嶋ゆき
恋愛
何でもかんでも中途半端。万年二番手。どんなに努力しても一位には決してなれない存在。
私は「次点の聖女」と呼ばれていた。
約一万文字強で完結します。
小説家になろう様にも掲載しています。
私を裁いたその口で、今さら赦しを乞うのですか?
榛乃
恋愛
「貴様には、王都からの追放を命ずる」
“偽物の聖女”と断じられ、神の声を騙った“魔女”として断罪されたリディア。
地位も居場所も、婚約者さえも奪われ、更には信じていた神にすら見放された彼女に、人々は罵声と憎悪を浴びせる。
終わりのない逃避の果て、彼女は廃墟同然と化した礼拝堂へ辿り着く。
そこにいたのは、嘗て病から自分を救ってくれた、主神・ルシエルだった。
けれど再会した彼は、リディアを冷たく突き放す。
「“本物の聖女”なら、神に無条件で溺愛されるとでも思っていたのか」
全てを失った聖女と、過去に傷を抱えた神。
すれ違い、衝突しながらも、やがて少しずつ心を通わせていく――
これは、哀しみの果てに辿り着いたふたりが、やさしい愛に救われるまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる