5 / 51
05
しおりを挟む手術中のランプが消える。
父親が、担当医に話を聞いている。
声は、こちらまで
聞こえて来る。
「出血の量が酷い上に
刺した包丁の刃の部分に毒が塗られていたみたいで
想像以上に毒の回りが速く」
「それで、深雪は?」
「深雪さんは、お亡くなりになりました」
深雪が死んだ?
俺のせいだ
「こちらとしても、全力を尽くしたのですが」
俺が、場所さえ、間違っていなければ
俺が、もっとしっかりしていれば
俺が、俺が、俺が
「先程も言ったように、毒の回りが早く
脊椎まで達してまして」
医者が何かを言っているようだが
俺には、何も聞こえなかった
ふと、気が付いた時、俺が座る、イスの隣りに、深雪の父親が座っていた
「あいつは、笑っていたか?」
「え?」
俺は、父親の顔を見ると、疲れた顔で俺の顔をじっと見ていた
「君が、南伸二君だよね?
娘の深雪の婚約者の」
「はい」
俺は、歯を食いしばった
殴られると思ったからだ
この人になら、例え殴り殺されても文句は言えない
俺は、本気で、そう感じていた
しかし、帰って来た言葉は
「あれは、最後まで笑っていたそうじゃないか
幸せな顔をして
『私、あの人と結婚するんです』って
救急隊員の人に言ってたそうなんだよ」
親父さんは、涙を堪えながら言葉を続けた
「妻が亡くなってから
あの子は、笑わなくなったんだ
なのに、あの時、君と出会ってから
あの子の中で、笑顔が戻ったんだ
あの子は、笑ってたかい?」
俺は、涙を押さえながら
俯きながら答えた。
「はい」
申し訳ありませんでした。
娘さんを守れなくて
そう、俺は言うつもりだった
だけど、それ以上の言葉は、涙が溢れそうで言えなかった
親父さんは、俺に一言こう言った。
「君は、幸せになれ
深雪の分も
幸せになれ」
「でも俺は」
「伸二君
ありがとう」
どうして、責めない
『ありがとう』
そんなセリフもらえる立場じゃない
俺は、震える手を、イスにたたき付けながら
声が出ない涙を流した
0
あなたにおすすめの小説
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
届かぬ温もり
HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった·····
◆◇◆◇◆◇◆
読んでくださり感謝いたします。
すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
私は愛されていなかった幼妻だとわかっていました
ララ愛
恋愛
ミリアは両親を亡くし侯爵の祖父に育てられたが祖父の紹介で伯爵のクリオに嫁ぐことになった。
ミリアにとって彼は初恋の男性で一目惚れだったがクリオには侯爵に弱みを握られての政略結婚だった。
それを知らないミリアと知っているだろうと冷めた目で見るクリオのすれ違いの結婚生活は誤解と疑惑の
始まりでしかなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる