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07 しあわせになりたい

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「……あ」

  亜金は、今日も創造魔法に失敗しました。
  四角い氷を犬の形に変えなければいけないのに亜金が作ったのはキリンでした。

「ああ、亜金。
 あなたはなんてセンスが無いのでしょう」

  そう言って、創造魔法の先生に怒られました。

  そして、今度は剣術の授業。
  竹刀を持った数人の男たち。
  男たちは容赦なく亜金を殴ろうとします。
  亜金は、攻撃をきれいに避けます。
  でも、避けるだけでは戦いになりません。
  亜金は、疲れ果てすぐに男たちに一発ずつ殴られていきます。

「ああ。亜金。
 お前はなんて弱いんだ!」

  そう言って、剣術の先生に怒られます。

  続いて学問。

「さぁ、3分以内にこの数式を解んだ亜金!」

「はい」

  亜金は一生懸命考えます。
  でも、文章がなにを言っているのかわかりません。

「はい、時間切れ!
 亜金、なんでひとつも解けないんだ?
 3分もあれば、お前の兄たちや弟たちは、最低でも10問は解けるんだぞ?
 弟の亜銀なら100問は解けるだろう」

  亜金は、魔術、剣術、学問。
  どれをやっても怒られていてばかり。
  怒られて悔しくてつらくて毎日毎日泣いていました。
  そして、そんな亜金を見かねた王子さまは、亜金に言いました。

「亜金、お前にはなにを教えてもなにも覚えない」

「ごめんなさい、おとうさま」

「残念だが、亜金。
 今日でサヨナラだ」

「え?どういうことですか?」

「私はもう決めたのだ。
 亜金、お前を追放する」

「追放?」

「さぁ、国から出ていくのだ。
 いいか?お前は誰からも愛されることはない。
 だから、誰も愛するな。
 それが、父親からお前に言える最初で最後のアドバイスだ」

「そんな!
 だって今日は――」

  王子さまは手に魔力を込め亜金の頭にそっと手を当てました。
  亜金の意識は遠くなっていきました。

   どうして?
   父上、どうしてですか?
   だって今日は……
   今日は、僕の3歳の誕生日なのに……


  亜金は口に出したい思いをぐっと我慢しました。
  そして、気づいたときそこには王子さまも先生もいません。
  いるのは獣のような耳を持った少女。
  お尻には七本の尻尾。
  少女は目を細め亜金の方を見ます。

「君は誰?」

  亜金の言葉に少女は言いました。

「お前こそ誰だ?」

  少女の言葉は冷たく響いていました。
  でも、少し恐怖に震えていました。

 ふたたび当たる冷たい感触。
 亜金は、我に返りふと思う。

  玉藻元気かな?

「もう一度いう覚悟はできたか?」

 騎士の言葉に亜金は冷たい声で言う。

「俺は、犯人じゃありませんよ?」

「そんなの関係ない」

 騎士は、剣を高くあげ亜金の首筋に剣を切りつけた。
 悲鳴があがる……
 なぜなら、血飛沫をあげたのは、亜金ではなくその騎士だった。

「ぐ……」

「え?」

 亜金は、ゆっくりとその騎士の方を見た。
 すると、騎士の腹から獣の手が飛び出した。

「な、何が起きているんだ?」

「亜金、俺と勝負しろ……!」

「誰?」

「我が名はゲルンガ……」

「……え?」

 周りの騎士たちが騒ぎだす。

「亜金がゲルンガじゃなかったのか?」

「いや、明らかにあいつの方がゲルンガっぽいぞ……」

「って事は……」

「亜金君は、無実、しかも一般人だよ」

 シズオカは、そう言うと亜金の元へと向かった。
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