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07 しあわせになりたい

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 それを追うように他の騎士達も、亜金とゲルンガの元へと向かった。

「大丈夫かい?亜金君」

 シズオカは、そう言いながら亜金の手と足を縛っていたロープを切り落とした。

「俺は、シズオカ。
 コウって知っているだろ?
 あいつの旦那だよ」

「え……
 コウさんの……?」

「そうだ……」

「はじめまして……」

「自己紹介はいい……
 君は逃げて……」

「でも、ここで逃げたら……」

「いいから、貴方は逃げなさい……
 今、貴方の無罪が証明されたでしょ?」

 ティコが、空から亜金の前に現れた。

「でも、ここで逃亡罪とかになったら……」

「死ぬよりマシでしょ?」

「……」

「亜金!我と勝負せよ!」

 全ての騎士を倒し終えたゲルンガは、亜金に突進してきた。

「マジかよ……
 一応あいつら、国家騎士試験首席で受かっているんだぜ……」

 シズオカは、剣を振り降ろした。

「シルフカッター!」

 圧縮された風の刃が、ゲルンガに向かって突進した。
 しかし、ゲルンガは、その刃を片手で受け止めた。

「え?」

「下らん」

 ゲルンガは、そう言うと風の刃を粉々に粉砕した。

「雑魚には、興味がない……
 亜金と闘わせろ……」

「雑魚かどうか……
 これを喰らってからいってくれるかしら?」

 ティコは、そう言うと呪文の詠唱を始めた。

「天空より君臨するすべてなる王よ、血よりも赤く闇よりも黒きものよ 今こそ汝の力を使い、全てなるモノに滅びと苦しみを与えたまえ!
 トゥールール―!

 全ての時が止まった。
 ゆっくりゆっくりと、ティコの周りの空気が圧縮され球体へと変わる。
 その球体は、ゆっくり弧を描くと、猛スピードで、ゲルンガに向かった。

「ほう……」

 ゲルンガは、ニッコリと笑うと、ティコの放った呪文を避けようともせず、見事に命中した。

「やった……?」

 ゲルンガの周りは圧縮された空気に圧迫され、何度も何度も爆発を繰り返していた。
 そして、ゆっくりとその爆発が消えた時……
 そこにゲルンガの姿はなかった。

「ほう……
 お前もなかなかやるな……
 だが……」

 ゲルンガは、ニヤリと笑うとティコの脇腹を切り裂いた。

「ぎゃ……」

 横腹を抉られたティコは、苦しそうにその場で倒れこんだ。

「ティコさん……」

 会場が、どよめく。
 全てのモノが確信していた。

 亜金ではなく、この場に居るバケモノ自体がゲルンガなのだと……

「亜金君逃げて……」

 亜金は、ゆっくりとティコの体に近づいた。

「全ての源よ、全ての出来事を、全ての存在を無に帰せよ」

「詩魔法??」

 ティコは、虚ろな目で亜金の姿を見た。
 亜金の目が、赤く染まった。

「ホワイトペーパー」

 亜金が、呪文を唱えるとティコの傷口が無かったかのように消えた。
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