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阿鼻叫喚

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両親の都合で転入した事、親戚の家から通学する事など、事前に推敲を重ね、何度もシュミレーションした通りの挨拶ができた。
よし、無難にこなせた!と、美和は、ほっと胸をなでおろす。
なのに・・・、

「えー、藤木君は、二年の操くんの母方の従妹にあたりますので、皆さん心してください。」

先生、その紹介は無いと思います。

私の教室デビューをこじらせる気ですか。

壇上にて、明らかにびくついた二名をつぶさに確認。
環ちゃん、あなたは一体何をやらかしたのでしょう。

昼休みになる頃には、話しかけてくれる生徒も多く、私の不安は杞憂に終わったようだ。
しかも、一緒に昼ごはんを食べようと、声をかけてくれたのは、あのびくついた二名だ。

多門 千夏ちゃん、バレー部所属、“さとり ”だそう。
もう一人は、森 伊吹ちゃん、同じバレー部で、こちらは人。

「自己紹介した時、二人とも明らかに固まってたよね。」

あはは、わかっちゃたー、とお弁当を開けながら、二人して笑いあう。

「操先輩にいじめられたとかじゃないよー。あれは、どちらかって事故だしー。」

さばさばと笑う千夏。

「けど、あん時の事件のインパクト強すぎて、今だ、びくついちゃうよねー。」

こちらは対象的におっとりした伊吹だ。

おおぅ、事件。やっぱり環ちゃんが、何かやらかしてる模様

二人に誘われていった先は、中庭の一角だった。なかなか人気の場所らしく、いくつかのグループがすでに話に花をさかせている。

「断っとくけど、食事時の話題じゃないからねー。」

女子にしては大きい一口をほおばりながら、話を始めた。
事件が起こったのは昼休みの図書室、きっかけは千夏の力だったという。

“さとり ”の千夏は、日ごろから完全に能力を封印して過ごしている。

「ところがあの日、封印紐が引っかかって切れちゃったの。で、慌てた所に、操先輩と派手にぶつかってね『聞く』どころか『見え』ちゃって。」

読んでいた本が悪かった。
なんと環ちゃんは「世界の拷問・その暗黒史」(何故そのチョイス!)を熟読していたのだ。

千夏が『見』たのは、環の頭の中で構築された、世にも恐ろしい阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
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